(14)祭文
「さえもん」は県内で最広く親しまれている盆踊りで、ほぼ全域に、各地各様の節・踊りで伝承されている。大野・直入地方の「祭文」も、数系統のグループに分けられる。①は鶴崎踊りの「祭文」をずっと田舎風にしたような節で、殊に上句末尾の音引き部分を「ホホンホン」とか「ヘヘンヨー」などと引き伸ばすところなどに古調の面影をよく残している。この種の唄い方は挟間町近辺でも見られる。おそらく挾間方面の節が志賀に入り、周辺に広まったのだろう。②は臼杵踊りの「祭文」上句の囃子「ヨイトサッサ」を省き、下句の頭3字を上句にくっつけて唄うもので、野津・犬飼・三重・牧口辺りで唄われている。③も臼杵踊りの系列で、これは佐志生の節が「佐伯」の名で耶馬溪方面から玖珠郡にかけてかつて流行したものである。踊り方は16足の佐伯踊り、つまり堅田谷の「長音頭」の流れをくむもので、これが佐伯踊りの呼称の所以である。④は、①と「猿丸太夫」があいのこになったような節で、挾間方面の流行。
※③のほか緒方の「八百屋」も犬飼の「佐伯」も、三重の「由来」もみな16足の佐伯踊りなのだが、その音頭が種々異なる。
① 祭文 その1
祭文 緒方町辻
〽ちょいと祭文なこうしたものよホホンホイ(アードッコイドッコイ)
それじゃどなたも一輪の願い(ヤレー ソレー ヤットヤンソレナ)
〽様は三夜の三日月様よ 宵じゃチラリとソラ見たばかり
祭文 緒方町原尻
〽様は三夜の三日月様よホホンホン(アラドッコイドッコイ)
宵にちらりとヤレ見たばかり(ヤレー ソレー ヤットヤンソレナ)
※右手、左手と交互に振り上げては手首を返しながら継ぎ足で出て行って輪の中を向き、後ろにさがりながら一つ手拍子で、輪の向きに3歩進む。
銭太鼓 犬飼町栗ヶ畑
〽夏はかたびら冬着る布子 チリツンテンシャン(アドスコイ ドスコイ)
一重二重の三重内山の(ソレー ソレー ヤットヤンソレサイ)
※上句の音引きの囃子「チリテンツンシャン」は口三味線で、この唄の出自を示唆している。実際、鶴崎踊りの「祭文」では当該箇所を三味線が担っている。
祭文 千歳村柴山
〽今度踊りは祭文踊りホホンホー(アラドスコイ ドスコイ)
みんなお好きな祭文やろな(ソーレ ソーレ ヤットヤンソレサ)
祭文 千歳村長峰
〽月に群雲花に風 チリテンツンショ(アドスコイ ドスコイ)
心のままにならぬこと(ソレー ソレー ヤットヤンソレサイ)
〽浮世に住める習いかな ホホンエ(アドスコイ ドスコイ)
筑前筑後肥後肥前(ソレー ソレー ヤットヤンソレサイ)
祭文 大野町片島
〽ちょいとまあエ 祭文とちょいとまたやろかノホホンホン
(アラドスコイドスコイ) どなた様にも祭文踊り
(ソレー ソレー ヤットトヤンソレサイ)
〽入れて おくれよ痒くてならぬ わたし一人が蚊帳の外
祭文 大野町夏足
〽ちょっとナー 祭文と流してみましょホホンホ
(アラドスコイ ドスコイ) そじゃそじゃそじゃそじゃそれならばよい
(ソレー ソレー ヤットヤンソレナ)
〽国は 筑前博多の町よ 地下で繁盛な米屋がござる
※低く唄い始める節と高く唄い始める節を自由に取り混ぜて唄う。
祭文 久住町青柳
〽ちょいと祭文の通りがけヘヘンヨー(アラヨイヨイヨイ)
通りがけなら長いこつぁ言わぬ(ソレーヤ ソレーヤ ヤトヤンソレサイ)
〽それじゃしばらく理と乗せましょか 春は花咲く青山辺の
祭文 久住町都野、直入町長湯
〽ちょいとさえもんの 通りがけヘヘンヨー(アラヨイヨイヨイ)
通りがけなら長いこつぁ言わぬ(ソレーヤ ソレーヤットヤンソレサイ)
※都野では、近隣では珍しく祭文を扇子踊りで踊っている。扇子は開きっぱなしでごく易しいが、手踊りの「祭文」に比べると幾分洗練された印象を受ける。特に、輪の中を向いて束足で、両手で大きく輪を描くように振り上げて正面に伏せ下ろし、右に扇子を引き上げて決まるところなど、優美でなかなかよい。
祭文 荻町瓜作
〽踊るエ うちではあの子が一よホホンエー(ヨイヨイヨイ)
あの子育ての親様見たい(ヤレーヤーソレヤ ヤットヤンソレサイ)
〽親の意見と茄子の花は 千に一つのヨイサ徒がない
※テンポがのろまで、ピョンコ節に近いリズムで唄っている。下句の囃し方がよそと少し違う。右回りの輪の向きで、左足を踏んで右足を前に出しながら右手を上げて握り左手で右の袖を抑え、その反対、反対で踏みかえながら前に進んだら、両手を振り上げて手首を返し、振り下ろしながら1歩下がり、輪の中を向いて1回手拍子を打つ。
祭文 荻町宮平
〽ちょいとさえもんと切り替えましょやホホンエ(ヨイヨイヨイ)
かえたところでしなよく頼む(ヤレーヤーソレヤ ヤットヤンソレサイ)
〽そうじゃそじゃそじゃこの御調子なら 踊りゃやめまいサマ夜明けまで
〽西が暗いが雨ではないな 雨じゃござらぬサマよな曇り
〽雨の降り出しゃ一度はやむが わしの思いはサマいつやむな
祭文 熊本県高森町
〽ちょいとさえもんと切り替えましたホホンエ(アヨイトサッサ)
でけてもでけんでもやりかけちゃみましょ
(ソレエー ソレエー ヤットヤンソレサイ)
祭文 竹田市古園
〽ハーちょっとさえもんと 切り替えましたホホンエー(ヨイヨイ)
あることないこと喋りましょ(ソレーヤ ソレーヤ ヤットヤンソレサ)
〽昔ゃ松にさえ三人四人五人まじゃ寝たが 今じゃ芭蕉葉にただ一人
〽わしが若い時ゃ吉野にゃ通うた 道の小草もなみかせた
祭文 竹田市倉木
〽ちょっとさえもんに切り替えますよホホンホン
(アラドウジャイ ドウジャイ)しばしそれにて願います
(ヤレーソレー ヤットヤンソレサイ)
〽踊りヨ 踊らば手に目をつけて 足を揃えてしなやかに
〽竹に 雀が
「一枝二枝三十の小枝のかぼそいところに
ねうし揃えてじょうさし揃えてくちばし揃えてチーチーパッパが
しなよくとまる 止めて止まらぬ恋の道
〽京の 三十
「三間堂にゃ仏の数が 三万三千三百三十
三体ござる 嘘か誠か行ってみにゃ知らぬ
〽瀬田の 唐橋ゃ
「杉の木松の木けやきの欄干ひのきの手摺に
大津の鍛冶屋が朝から晩までトッテンカラリと叩いてのばした
唐金ぎぼし これもまことか行ってみにゃ知らぬ
※右回りの輪の向きで、左足を踏んで右足を出しながら右手を上げて握り左手で右の袖を抑え、その反対、反対…と踏みかえながら前に出て、輪の中を向いて手拍子、輪の外向きになり、3回手拍子で輪の中にまわる。
祭文 野津原町今市上町
〽ちょいと祭文の通りがけヘヘンヨー(アラヨイショ)
左衛門さんならやりなされ(ソレー ソレー ヤットヤンソレサ)
〽一本目なら池の松 二本目の庭の松
〽三本目の下り松 四本目には志賀の松
〽五本目には五葉の松 六つ昔の高砂や
〽七本目には姫小松 八本目には浜の松
〽九つここに植え並べ 十で豊受の伊勢の松
② 祭文 その2
祭文 犬飼町大寒
〽花のお江戸のそのかたわらにヨ さてもマ(アシッカリサイサイ)
珍し心中話(ソレイヤートセイセイ イヤートセイ)
祭文 三重町内山
〽天に打ちむきナ(ドッコイ) 地に打ちふして
娘マタ(イヤコラサイサイ) きょうだいただ泣くばかり
(ソレエヤートセー ヨイトマカセー)
※うちわ踊りで、菅尾や大白谷のハンカチ踊りの所作とほぼ同じ。
祭文 三重町芦刈
〽丸いまなこにノ(ドッコイ) 目に角立ててヨ
何とマタ(アーシッカリサイサイ) 不敵な百姓どのよ
(ソレイヤートセーノ イヤートセー)
〇武士の 通るに笠はちまきを とらぬマタ(アーシッカリサイサイ)
そのうえ無礼をなさる(ソレイヤートセーノ イヤートセー)
※2種類の節を自由に取り混ぜて唄う。〽は低く唄い始める節で、こちらを主としている。〇は上句の頭3字を長く引っ張り、節をこねまわすようにして唄う。文句を特に強調したいところや場面転換などで自由に挿入する。
祭文 三重町菅尾
〽国はどこかとナ(アードッコイ) たずねてきけば
国はマタ(アーイヤコラサイサイ) アラ豊州海部の郡
(ソレー ヤートセーノ ヨイトマカセ)
〇佐伯ナーサー アラ領土や堅田が宇山 宇山マタ(アーイヤコラサイサイ)
なりゃこそ名所でござる(ソレー ヤートセーノ ヨイトマカセ)
※芦刈と同じく2種類の節を取り混ぜる。〇の節のみ陰旋化している。ハンカチをつまみ、輪の中を向いてハンカチを振り回しては戻すのを繰り返して、すくいながら行ったり来たりするような踊り方。
祭文 三重町大白谷
〽国はエーナー どこかと尋ねてきけばヨー 国はナ(イヤコラサイサイ)
豊州海部の郡(ソレー ヤートセーノ ヨイトマカセ)
〇佐伯領土はノ(ドッコイ) 堅田の谷ヨー 堅田ナ(イヤコラサイサイ)
谷でも宇山は名所(ソレー ヤヤットセーノ ヨイトマカセ)
※ハンカチ踊り。菅尾の踊り方とほぼ同じだがこちらの方が手の位置が高く、所作も穏やか。だいたい〽と〇を交互に唄うが、一定ではない。
祭文 清川村臼尾
〽今度ナー 踊りは祭文やろなヨー 誰も(イヤトコサイサイ)
どなたも お手振りなおせ(ソレエンヤヤットセー エンヤヤットセー)
祭文 野津町野津市
〽踊る皆様ハンカチ踊りょマー
どなたサ(ハーイヤコラサイサイ) 様方よろしく頼む
(アライヤートセイセイ ドンドンヤットセ)
〽昔はやりし三重節ゅやめて
ハー今のまた(ハーシッカリサイサイ) アラ流行りのハンカチ踊り
(アライヤートセイセイ ドンドンヤットセ)
〽ここでマ しばらくこの節しむる
アイソウジャしばしマ(ハーシッカリサイサイ) 間は祭文でしむる
(ソライヤートセイセイ イヤートセ)
〇国は豊後でナ(コラサッサ) 大野の郡ヨ 川のナーサ(アードシタ)
ぼりなる泊の里よ(ソラーヤートセー ヤートセ)
※下句は「川登なる」を半ばで分けて「川の、ぼりなる」になっている
メモ:大きく分けて2種類の節がある。主は〽で示した方の節だが、これもまた人によって節が違っているし、同じ人が自由に少しずつ節を違えながら唄うため変化に富んでいる。〇はときどき挿む節で、これは三重方面の節とほとんど同じ。ハンカチやタオル、手拭いなどを右手でつまみ、ヒラリヒラリと返してすくいながら右に左に行ったり来たりする踊りで、手首の返しが早いのでハンカチが派手に翻り見栄えがよい。
祭文 野津町田野
〽どなたマー 様方 節ゅ変えましたヨ
踊るサ(アーエンヤコラサイサイ)
お方よお手振りなされ(アラーヤートセー ヤートセ)
〽お手が直れば足並み直せ お調子が 揃うたならば
〽次のヨヤショで理と乗せまする わしが 理を言うちゃ小癪であれど
祭文 野津町西神野
〽姉の宮城野妹の信夫 姉が(ドッコイドッコイ)
十三妹が七つ(ヤートセイセイ マタヤットセ)
〽二霜東も知らざるものを 頃は 六月下旬の頃に
〽親子三人田の草取りよ わずかな 田地は十二石高
〽姉が音頭で妹が囃す 小唄 銚子で田の草取りよ
〽取りてその手にまた草づくし 命 づくしかまた水の青
③ 祭文 その3
佐伯 久住町青柳
〽佐伯なば山 鶴崎ゃ木挽き(ドッコイサッサー)
日田の下駄ひき ナント軒の下(ソリャ ヤットセーノオカゲデネ)
④ 祭文 その4
猿丸太夫 野津原町今市上町
〽猿丸太夫 奥山のチリツンテンシャン(ハヨイショヨイショ)
紅葉踏み分け鳴く鹿の(ソレエー ソレエー ヤットヤンソレサ)
〽蓬莱山で鹿が鳴く 寒さで鳴くか妻呼ぶか
〽寒さで鳴かぬ妻呼ばぬ 明日はお山のお鹿狩
〽来るか来るかと川下見れば 川にゃ柳の影ばかり
〽二度と持ちまち川越し馴染み 空が曇れば気が揉める
(15)半節
田植唄の転用。田植唄としては大分地方・大野地方・直入地方の鼎立する区域で広く採集されており、往時の流行のほどがうかがわれる。
半節 大野町中土師
〽唄え半節(ソレソレ) 声張り上げてエー
桧板屋に(ソレソレ) ヨーイサ響くほどエー
「ヤレ 響くほどの 板屋の桧エー
〽様よあれ見よ御嶽山よ 蜜柑売り子が灯をとぼす
「灯をとぼすの 売り子の蜜柑
〽様は来て待つ出るこたならぬ 庭に篠箱 二度投げた
「二度投げたの 篠箱庭に
※中土師では、返しの後半を省略する。
半節 千歳村柴山
〽唄え半節(ヨイヨイ) さらりと上げて
桧板屋に(ハーヨイヨイ) ヨーイサ響くほどエー
「ヤー響くほど 板屋の桧エー
桧板屋に(ハーヨイヨイ) ヨーイサ響くほどエー
(16)麦搗き
精麦や精米の作業唄の転用。複数の人がめいめいに竪杵を持ち、オイサオイサと交互に搗いていく際に調子を揃える意味で、音頭と囃子とが頻繁に入れ替わる特異な形式を持つ唄になっている。ことさらな音引きはないが、音頭の節が起伏に富んでおり唄い方が難しい。下句の返し方が独特で、通常であれば「五尺体が乱れゆく、体が五尺、五尺体が乱れゆく」となりそうなところを、「五尺体が、体が五尺、乱れゆく」と唄う。これは、上句と対の節になっているためで、結局この部分の字脚を揃えるために奇妙な返し方をしているのである。
麦搗き 朝地町志賀
〽ヤレー 千秋ナー(アラドッコイ) アー万歳(アラヨーヤサノヨイヨイ)
イー思う(アードッコイ) こた叶うた(サマナー ヨヤナー)
ヤレー 末はナー(アードッコイ) アー鶴亀(アーヨーヤサノヨイヨイ)
鶴亀ナー ヨーイヤナ(サマナー ヨヤナー) アー五葉の松
(サノセーノ)ドッコイ (ヨーイヤセーノ)ソラ (ヨイヤナー)
※盆踊りの最終に唄う。扇子踊りだが、所作は「二つ拍子(手踊り)」と同じ。
二つ拍子 三重町大白谷
〽エヘヘー 様は(ドッコイ) 三夜の(サーヨヤサノ ヨーイヨイ)
三日月様の(サマーヨイヤナー)
ヤレ 宵に(ドッコイ) ちらりと(サーヨヤサノ ヨーイヨイ)
ちらりと宵に(サマーヨイヤナー) 見たばかり
(アリャセーノーヨ) ドッコイ(ヨーヤセーノーヨ) も一つ(ヨーヤセー)
※この節を数節唄うと、踊り方はそのままに音頭が「ばんば踊り(切り上げ)」に切り替わる。朝地や緒方の踊り方に比べると手数が多く、輪の中を向いたり外を向いたりしながら少しずつ横にずれていくように踊る。
麦搗き 大野町夏足
〽エー こよさナー(アドッコイ) どなたも(アヨーヤサノヨイヨイ)
エーご苦労(ドッコイ) 労でござるナー(サマーヨイヤナー)
ヤレ これにマー(アドッコイ) こりずと(アヨーヤサノヨイヨイ)
こりずとノー ヨーヤルナー(サマーヨイヤナー) またおいで
(サマセーヨ) ドッコイ(ヨイヤセー エーヨー) ソコ(ヨイヨナー)
〽千秋万歳思うこ こた叶うた 末は鶴亀 鶴亀 五葉の松
二つ拍子 清川村臼尾
〽ヤレナー 揃うたヨ(ドッコイ) 揃うたヨ(アーヨーヤサノヨイヨイ)
品よくナー 揃うた(サマヨーヤナ)
ヤレ 秋のナ(ドッコイ) 出穂よりゃ(アーヨーヤサノヨイヨイ)
出穂よりゃノーヤレソ よく揃うた
(アリャセーヨイ) ドッコイ(ヨーヤーセーノーヨ) ドッコイ(ヨーヤーセ)
二つ拍子 緒方町辻
〽今宵さナー(ドッコイ) 踊りは(サーヨイヤサノヨーイヨイ)
どなたもご苦労ナ(サマナー ヨイヤナー)
ヤレー これにナー(ドッコイ) これじと(アーヨイヤサノヨーイヨイ)
これじとこれにナー(サマナー ヨイヤナー) またおいで
(サノセーヨイヤナー) ドッコイ(ヨイヨナー) ドッコイ(ヨイヨナー)
〽千秋万世 思うこた叶うた 末は鶴亀 鶴亀 末は 五葉の松
二つ拍子 緒方町馬場・原尻
〽ヤレー 臼にゃナ(ドッコイ) アー麦を入れ(サーヨーヤサノヨーイヨイ)
ぬかづくときにゃヨ(サマナー ヨイヤナー)
ヤレー 五尺ノ(ドッコイ) アー体が(アーヨーヤサノヨーイヨイ)
体がナーヤレナー(サマナー ヨイヤナー) 乱れゆく
(サノセーノーヨー) ドッコイ(ヨーヤーセーノーヨー)
ドッコイ(アーヨイヤセー)
※所作が「八百屋」と一連のものになっていて、一回りするところを省いたものである。
もの搗き 竹田市古園
〽臼にヨーナ(ドッコイ) アー米を入れ(サマヨーヤサノヨイヨイ)
ぬかぶく時はエ(サマハーヨイヤナ)
ヤレー五尺ナー(ドッコイ) アー体が(サマヨーヤサノヨイヨイ)
体が五尺エ(サマハーヨイヤナ) コイタ乱れゆくエ
(サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヤセーヨーナ)
ま一丁(ヨーイヤナ)
〽わしと あなたは お蔵の米よ
いつか 世に出て 世に出ていつか ままとなる
〽三味の 糸さえ 三筋はかかる
私 あなたに あなたに私ゃ 一筋に
麦搗き 久住町青柳
〽臼にナー(ドッコイ) 麦を入れ(サーマヨイヤサマヨイヨイ)
ぬかづく時はヨー(サーマヨイヤセー)
五尺ナー(ドッコイ) 体が(サーマヨイヤサマヨイヨイ)
体が五尺ナー(サーマヨイヤナー) 乱れゆくヨー
(サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨセーヨーナ)
ドッコイ(ヨイヨナー)
麦搗き 直入町長湯
〽臼にヨーナ(ドッコイ) アー麦を入れ(サマヨイヤ サマヨイヨイ)
ぬかづく時にゃエ(サマセーヨイヤナ)
五尺ナー(アードッコイ) アー体が(サマヨイヤ サマヨイヨイ)
体が五尺ナ(サマセーヨイヤナ) コイタ乱れゆくエー
(サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨセーヨーナ)
も一つ(ヨイヨナー)
〽来るか 来るかと 川下見れば 川にゃ 柳の 柳の川にゃ 影ばかり
麦搗き 直入町下河原・原・柚柑子
〽臼にヨーナ(ドッコイ) アー麦を入れ(サマヨイヤサノヨイヨイ)
ぬかぶく時にゃナ(サマセーヨイヤナ)
五尺ナー(ドッコイ) アー体が(サマヨイヤサノヨイヨイ)
体が五尺ナ(サマセーヨイヤナ) コイタちぎれゆくエー
(サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨセーヨーナ)
も一つ(ヨイヨナー)
麦搗き 熊本県高森町
〽ハー 臼にナ(ドッコイ) エ麦を入れ(サマヨイヤサノヨイヨー)
ぬかづくときはエ(サマヨイヤセー)
アラ 五尺ナ(ドッコイ) エ体が(サマヨイヤサノヨイヨー)
体が五尺ナ(サマヨイヤセ) 乱れゆくヨ
(サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨナーヨーナ)
ドッコイ(ヨーイナー)
(17)チロリロリン
これは全く風変わりな唄で、意味不明な囃子が1節ごとにつく。県内でこれを唄うのは荻町のみでだが、隣接する熊本県高森町等でも採集されていることから、かつては大分・熊本・宮崎の鼎立する地域でそれなりに流行ったものと思われる。
弓引き 荻町宮平
〽弓引きヤーレー やりましょ(アラヨイヨイヨイ)
しばし間はその調子にて
「サマーこれもサンサのチロリロリン(ヨイサ)
チロリロリンならハチリンと(アラどっちが千草でトッホンシャン)
〽踊りゃ やめまい 踊りゃやめまい夜明けまで
弓引き 熊本県高森町
〽東ヤンレー 山から(アラヨイヨイ)
おいでます様よ
「サマーこれもヤッコノチロリロリン(ヨイサ)
チロリロリンならハチリンと(アラどっちが千草でトッホンシャン)
(18)サンサオ
県内では倉木のみで採集されており、全く正体不明。ことさらな音引きは少ないが抑揚に富んでおり、唄いづらい曲である。下句をまるまる囃子がとってしまうのが変わっているが、これはおそらく、元々は田植唄か何かとして唄っていたものを転用したためだろう。
サンサオ 竹田市倉木
〽アラ田中に布旗立てて(波に乗らせて サマ瀬で)
ドッコイ(瀬でさるす サーンサオ)
アラ乗らせて 乗らせて波に(波に乗らせて サマ瀬で)
ドッコイ(瀬でさるす(サーンサオ)
〽踊ろや若い時ゃ一度 (二度と枯木に花 花咲かぬ)
枯木に 枯木に二度と(二度と枯木に花 花咲かぬ)
※上句の頭3字を伏せて唄う。また、返しの部分にも3字分の省略が見られる。結局1節の中で全く同じ節を2回繰り返しているということで、この種の返し方は宇佐地方の俚謡によく見られるが、大野・直入方面では珍しいのではないだろうか。
(19)覗き節
覗きカラクリの口上で唄われていた口説の転用。かつて農村部では宴会のかくし芸としてこれを披露する者が多かったようだ。アホダラ経やチョンガレの流れを汲むものかと思われ、非常に早間の畳みかけるような節である。
大正踊り 野津原町今市上町
〽皆さん騒動は色と慾 八百屋お七の成り行きは(ヨイショ)
お寺は駒込吉祥院 奥の書院の次の間に(ヨイショ)
勉強なされし吉三さん お七が側に立ち寄りて(ヨイショ)
膝をちょいとついて目で知らす 私ゃ本郷へ帰ります(ヨイショ)
帰りゃ八百屋の店開き 店で売るのは人参や(ヨイショ)
品は数々ござれども も一度うちを燃したなら(ヨイショ)
好いた吉三と添わりょかと 娘心のひとすじに(ヨイショ)
店の火縄を盗み出し ポンと投げたるその先で(ヨイショ)
お七は梯子にかけ昇り 火事じゃ火事じゃと半鐘つく(ヨイショ)
お江戸は八百八百屋町 まもなく火事もあい済んだ(ヨイショ)
誰知るまいと思うたが 天知る地知る人が知る(ヨイショ)
そこでお七はくくられて 萌葱の袴に緋の衣(ヨイショ)
深い編み笠被せられ 栗毛の馬にと乗せられて(ヨイショ)
伝馬町から引き出され お七はいくつと問うたなら(ヨイショ)
私ゃ十五で午の年 十五であるまい十四じゃろ(ヨイショ)
いいえ十五の午の年 その日の役人哀れみて(ヨイショ)
十四といえば助かるに 十五といえば是非もない(ヨイショ)
そこでお七が高やぐら 下から火の粉が立ちのぼる(ヨイショ)
ヤレ熱いなお父さん 逢いたい見たいは吉三さん(ヨイショ)
色で我が身を焼き棄てる(コリャコリャコリャ)
(20)東山
この唄は正体不明。下句をまるまる囃子がとっており、「サンサオ」と同様に田植唄か何かの転用かとも思われるが、定かではない。首句には必ず「東山からさよ出た月は、さんさ車の輪のごとく」云々を置いている。この冒頭をとって「東山」と呼んだと考えるのが妥当で、そうであれば流行小唄的な呼称ではあるが、三弦唄の雰囲気は薄い。
東山 荻町柏原
〽東山から お出ます月は(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
車の 車のさんさ(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
〽盆の踊りは伊達ではないよ 先祖代々供養踊り
代々 代々先祖(先祖代々供養踊り)
東山 熊本県高森町
〽東山から小夜出る月は(ヤレ さんさ車の輪のごとく)
車の 車のさんさ(ヤレ さんさ車の輪のごとく)
東山 荻町宮平
〽東山から あれ出る月は(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
さんさ車の 車のさんさ(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
〽様は三夜の 三日月様よ(宵にチロリと見たばかり)
宵にチロリと チロリと宵に(宵にチロリと見たばかり)
東山 竹田市古園
〽唄は唄いたし 唄の数知らぬ ヤレ 大根畑のくれがえし
畑の大根 ヤレ 大根畑のくれがえし(コチャーコチャー)
東山 久住町青柳、直入町下河原・原・柚柑子
〽東山から さえ出る月は ヤレ さんさ車の輪のごとし
車のさんさ ヤレ さんさ車の輪のごとし
「こちゃこちゃ こちゃ知らぬ顔よ
ヤーレヤーレ ソレソレ ヤーレヤーレ ソートエ
〽月の出鼻と 約束したが 様は来もせで風ばかり
来もせで様は 様は来もせで風ばかり
「こちゃこちゃ こちゃ風ばかりよ
※『俚謡集』より
〽東山からさえ出づる月は ヤレサンサ 車の火の如し
東山から 東山からさえ出づる月は ヤレサンサ 車の輪の如く
コチャコチャ 見るがほん車の サンササンサ 車の輪の如く
※返し方が普通ではなく、『俚謡集』の誤植も疑ったが、いかんせん採集地域が「直入郡」としか示されていない。あるいはこのような唄い方をする集落もある(あった)のかもしれないと思い、そのまま引用することにした。
(21)さんさ節
この唄は北海部・南海部・大野・直入地方に広く伝わっており、盆踊りの最終に「切音頭」として唄われることが多い。瀬戸内海沿岸に伝わる節で、「きそん」とか「サンサ節」として盆口説はもとより、作業唄としても唄われていた。大野地方で唄われるものは節がいろいろあるがその骨格は同じで、唄い出しで上句がひっくり返っている。南海部方面では自由奔放に唄囃子を挿んだり、返しの囃子を多々挿入するなど変化に富んでいるが、それに比べるとある程度、型にはまった印象を受ける。このことは、この唄の伝搬経路を示唆しているといえるだろう。
切り上げ 野津町野津市
〽ソリャくんずれそうなノー オーくんずれそうなノ
踊りゃサーエーエーエン エーくんずれそうなノ
踊りゃサーエーエーエー エーくんずれそうなノ
「踊りゃくんずれそうな まだ茶は沸かぬ
お風呂沸くとは何ゅしちょる ハンレワヨイ
コリャ エーイコーノーコーノーコ サーンーサーエーイエイ
〽ソラ星さよノー 星さよノ
空のヤーアーアー ソリャ星さよノ
「空の星さよ夜遊びゅなさる
様の夜遊び 無理もない ハンレワヨイ
コリャ ヤーコーノーコーノーコ サーンーサーエーイエイ
〽ソリャ万々世ノー 万々世ノ
千秋エーエーエー エー万々世ノ
「千秋万々世 思うこた叶うた
末は鶴亀 納めよく ハンレワヨイ
ホイ エーコーノーコーノーコ サーンーサーエーイエイ
※盆踊りの最終に、「由来」から踊り方はそのままに、この唄に移行する。
ばんば踊り 三重町大白谷
〽ソリャ崩れそうなノ 踊りゃ崩れそうなノ
踊りゃナー ヨーイヨーイ エー 踊りゃ崩れそうなノ
「踊りゃ崩れそうな まだ夜は夜中ヨ 明くりゃお寺の鐘が鳴る
ハーリャンリャ ソレ コノコノヨ ササ ヨーイヨイ
〽七夕 空の七夕 空の 空の七夕
「空の七夕おいとしゅござる 川を隔てて恋なさる
〽万歳 千秋万歳 千秋 千秋万歳
「千秋万歳 思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松
切り上げ 犬飼町大寒
〽くんずれそうなノ くんずれそうなノ 踊りゃエー エーくんずれそうなノ
「踊りゃくんずれそうなまだ茶は沸かぬ 降り茶釜は割れ茶釜
ハンレバリャ ヤーコノコノ サンサエー
〽引き寄せ 引き寄せ 硯ゅ引き寄せ
「硯ゅ引き寄せ墨する方は 恋の手紙をつらつらと
〽万世 万世 千秋万世
「千秋万世 思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松
切り上げ 三重町菅尾
〽ソレ崩れそうなノー オー崩れそうなノ
踊りゃエイエーイ エイエーイ エー崩れそうなノ
「踊りゃ崩れそうなまだ茶は沸かぬ この茶釜は ソレ割れた茶釜
ハレワヨ ソレヤレコノー オサオーサ ヨーイヨイ
〽万歳 万歳 千秋万歳
「千秋万歳思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松
ばんば踊り 緒方町上自在
〽アリャ七夕ノ アソリャ七夕ノ 空のナー ヨイヨイ エー空の七夕は
「空の七夕はお愛しゅござるナー 川を隔てて恋なさる ハーリャンリャー
〽万世 万世 千秋 千秋万世
「千秋万世 願うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松
二つ拍子 三重町芦刈
〽星さよノー 星さよノー
空のエーイエーイ(エーイエーイ) エー星さよノー
空のエーイエーイ(エーイエーイ) エー星さよノー
「空の星さよお歩きなさる 様の夜遊び無理はない
ハーレワリャー ハーコノコノサンサ エーイエーイ
〽そん切り様じゃ そん切り様じゃ 竹のそん切り様で 竹のそん切り様で
「竹のそん切り様で溜まりし水は 澄まず濁らず出ず入らず
〽万世 万世 千秋万世 千秋万世
「千秋万世 思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松