夢の浮橋

下記3点に内容を絞って一から出直しです。 民俗・文化風俗や伝承音楽の研究に寄与できればと思っています。 ・大分県の唄と踊りの紹介 ・俚謡、俗謡、新民謡の文句の蒐集 ・端唄、俗曲、流行小唄の文句の蒐集

2020年08月

(14)祭文
 「さえもん」は県内で最広く親しまれている盆踊りで、ほぼ全域に、各地各様の節・踊りで伝承されている。大野・直入地方の「祭文」も、数系統のグループに分けられる。①は鶴崎踊りの「祭文」をずっと田舎風にしたような節で、殊に上句末尾の音引き部分を「ホホンホン」とか「ヘヘンヨー」などと引き伸ばすところなどに古調の面影をよく残している。この種の唄い方は挟間町近辺でも見られる。おそらく挾間方面の節が志賀に入り、周辺に広まったのだろう。②は臼杵踊りの「祭文」上句の囃子「ヨイトサッサ」を省き、下句の頭3字を上句にくっつけて唄うもので、野津・犬飼・三重・牧口辺りで唄われている。③も臼杵踊りの系列で、これは佐志生の節が「佐伯」の名で耶馬溪方面から玖珠郡にかけてかつて流行したものである。踊り方は16足の佐伯踊り、つまり堅田谷の「長音頭」の流れをくむもので、これが佐伯踊りの呼称の所以である。④は、①と「猿丸太夫」があいのこになったような節で、挾間方面の流行。
※③のほか緒方の「八百屋」も犬飼の「佐伯」も、三重の「由来」もみな16足の佐伯踊りなのだが、その音頭が種々異なる。

① 祭文 その1

祭文 緒方町辻
〽ちょいと祭文なこうしたものよホホンホイ(アードッコイドッコイ)
 それじゃどなたも一輪の願い(ヤレー ソレー ヤットヤンソレナ)
〽様は三夜の三日月様よ 宵じゃチラリとソラ見たばかり

祭文 緒方町原尻
〽様は三夜の三日月様よホホンホン(アラドッコイドッコイ)
 宵にちらりとヤレ見たばかり(ヤレー ソレー ヤットヤンソレナ)
※右手、左手と交互に振り上げては手首を返しながら継ぎ足で出て行って輪の中を向き、後ろにさがりながら一つ手拍子で、輪の向きに3歩進む。

銭太鼓 犬飼町栗ヶ畑
〽夏はかたびら冬着る布子 チリツンテンシャン(アドスコイ ドスコイ)
 一重二重の三重内山の(ソレー ソレー ヤットヤンソレサイ)
※上句の音引きの囃子「チリテンツンシャン」は口三味線で、この唄の出自を示唆している。実際、鶴崎踊りの「祭文」では当該箇所を三味線が担っている。

祭文 千歳村柴山
〽今度踊りは祭文踊りホホンホー(アラドスコイ ドスコイ)
 みんなお好きな祭文やろな(ソーレ ソーレ ヤットヤンソレサ)

祭文 千歳村長峰
〽月に群雲花に風 チリテンツンショ(アドスコイ ドスコイ)
 心のままにならぬこと(ソレー ソレー ヤットヤンソレサイ)
〽浮世に住める習いかな ホホンエ(アドスコイ ドスコイ)
 筑前筑後肥後肥前(ソレー ソレー ヤットヤンソレサイ)

祭文 大野町片島
〽ちょいとまあエ 祭文とちょいとまたやろかノホホンホン
 (アラドスコイドスコイ) どなた様にも祭文踊り
 (ソレー ソレー ヤットトヤンソレサイ)
〽入れて おくれよ痒くてならぬ わたし一人が蚊帳の外

祭文 大野町夏足
〽ちょっとナー 祭文と流してみましょホホンホ
 (アラドスコイ ドスコイ) そじゃそじゃそじゃそじゃそれならばよい
 (ソレー ソレー ヤットヤンソレナ)
〽国は 筑前博多の町よ 地下で繁盛な米屋がござる
※低く唄い始める節と高く唄い始める節を自由に取り混ぜて唄う。

祭文 久住町青柳
〽ちょいと祭文の通りがけヘヘンヨー(アラヨイヨイヨイ)
 通りがけなら長いこつぁ言わぬ(ソレーヤ ソレーヤ ヤトヤンソレサイ)
〽それじゃしばらく理と乗せましょか 春は花咲く青山辺の

祭文 久住町都野、直入町長湯
〽ちょいとさえもんの 通りがけヘヘンヨー(アラヨイヨイヨイ)
 通りがけなら長いこつぁ言わぬ(ソレーヤ ソレーヤットヤンソレサイ)
※都野では、近隣では珍しく祭文を扇子踊りで踊っている。扇子は開きっぱなしでごく易しいが、手踊りの「祭文」に比べると幾分洗練された印象を受ける。特に、輪の中を向いて束足で、両手で大きく輪を描くように振り上げて正面に伏せ下ろし、右に扇子を引き上げて決まるところなど、優美でなかなかよい。

祭文 荻町瓜作
〽踊るエ うちではあの子が一よホホンエー(ヨイヨイヨイ)
 あの子育ての親様見たい(ヤレーヤーソレヤ ヤットヤンソレサイ)
〽親の意見と茄子の花は 千に一つのヨイサ徒がない
※テンポがのろまで、ピョンコ節に近いリズムで唄っている。下句の囃し方がよそと少し違う。右回りの輪の向きで、左足を踏んで右足を前に出しながら右手を上げて握り左手で右の袖を抑え、その反対、反対で踏みかえながら前に進んだら、両手を振り上げて手首を返し、振り下ろしながら1歩下がり、輪の中を向いて1回手拍子を打つ。

祭文 荻町宮平
〽ちょいとさえもんと切り替えましょやホホンエ(ヨイヨイヨイ)
 かえたところでしなよく頼む(ヤレーヤーソレヤ ヤットヤンソレサイ)
〽そうじゃそじゃそじゃこの御調子なら 踊りゃやめまいサマ夜明けまで
〽西が暗いが雨ではないな 雨じゃござらぬサマよな曇り
〽雨の降り出しゃ一度はやむが わしの思いはサマいつやむな

祭文 熊本県高森町
〽ちょいとさえもんと切り替えましたホホンエ(アヨイトサッサ)
 でけてもでけんでもやりかけちゃみましょ
 (ソレエー ソレエー ヤットヤンソレサイ)

祭文 竹田市古園
〽ハーちょっとさえもんと 切り替えましたホホンエー(ヨイヨイ)
 あることないこと喋りましょ(ソレーヤ ソレーヤ ヤットヤンソレサ)
〽昔ゃ松にさえ三人四人五人まじゃ寝たが 今じゃ芭蕉葉にただ一人
〽わしが若い時ゃ吉野にゃ通うた 道の小草もなみかせた

祭文 竹田市倉木
〽ちょっとさえもんに切り替えますよホホンホン
 (アラドウジャイ ドウジャイ)しばしそれにて願います
 (ヤレーソレー ヤットヤンソレサイ)
〽踊りヨ 踊らば手に目をつけて 足を揃えてしなやかに
〽竹に 雀が
 「一枝二枝三十の小枝のかぼそいところに
  ねうし揃えてじょうさし揃えてくちばし揃えてチーチーパッパが
 しなよくとまる 止めて止まらぬ恋の道
〽京の 三十
 「三間堂にゃ仏の数が 三万三千三百三十
 三体ござる 嘘か誠か行ってみにゃ知らぬ
〽瀬田の 唐橋ゃ
 「杉の木松の木けやきの欄干ひのきの手摺に
  大津の鍛冶屋が朝から晩までトッテンカラリと叩いてのばした
 唐金ぎぼし これもまことか行ってみにゃ知らぬ
※右回りの輪の向きで、左足を踏んで右足を出しながら右手を上げて握り左手で右の袖を抑え、その反対、反対…と踏みかえながら前に出て、輪の中を向いて手拍子、輪の外向きになり、3回手拍子で輪の中にまわる。

祭文 野津原町今市上町
〽ちょいと祭文の通りがけヘヘンヨー(アラヨイショ)
 左衛門さんならやりなされ(ソレー ソレー ヤットヤンソレサ)
〽一本目なら池の松 二本目の庭の松
〽三本目の下り松 四本目には志賀の松
〽五本目には五葉の松 六つ昔の高砂や
〽七本目には姫小松 八本目には浜の松
〽九つここに植え並べ 十で豊受の伊勢の松

② 祭文 その2

祭文 犬飼町大寒
〽花のお江戸のそのかたわらにヨ さてもマ(アシッカリサイサイ)
 珍し心中話(ソレイヤートセイセイ イヤートセイ)

祭文 三重町内山
〽天に打ちむきナ(ドッコイ) 地に打ちふして
 娘マタ(イヤコラサイサイ) きょうだいただ泣くばかり
 (ソレエヤートセー ヨイトマカセー)
※うちわ踊りで、菅尾や大白谷のハンカチ踊りの所作とほぼ同じ。

祭文 三重町芦刈
〽丸いまなこにノ(ドッコイ) 目に角立ててヨ
 何とマタ(アーシッカリサイサイ) 不敵な百姓どのよ
 (ソレイヤートセーノ イヤートセー)
〇武士の 通るに笠はちまきを とらぬマタ(アーシッカリサイサイ)
 そのうえ無礼をなさる(ソレイヤートセーノ イヤートセー)
※2種類の節を自由に取り混ぜて唄う。〽は低く唄い始める節で、こちらを主としている。〇は上句の頭3字を長く引っ張り、節をこねまわすようにして唄う。文句を特に強調したいところや場面転換などで自由に挿入する。

祭文 三重町菅尾
〽国はどこかとナ(アードッコイ) たずねてきけば
 国はマタ(アーイヤコラサイサイ) アラ豊州海部の郡
 (ソレー ヤートセーノ ヨイトマカセ)
〇佐伯ナーサー アラ領土や堅田が宇山 宇山マタ(アーイヤコラサイサイ)
 なりゃこそ名所でござる(ソレー ヤートセーノ ヨイトマカセ)
※芦刈と同じく2種類の節を取り混ぜる。〇の節のみ陰旋化している。ハンカチをつまみ、輪の中を向いてハンカチを振り回しては戻すのを繰り返して、すくいながら行ったり来たりするような踊り方。

祭文 三重町大白谷
〽国はエーナー どこかと尋ねてきけばヨー 国はナ(イヤコラサイサイ)
 豊州海部の郡(ソレー ヤートセーノ ヨイトマカセ)
〇佐伯領土はノ(ドッコイ) 堅田の谷ヨー 堅田ナ(イヤコラサイサイ)
 谷でも宇山は名所(ソレー ヤヤットセーノ ヨイトマカセ)
※ハンカチ踊り。菅尾の踊り方とほぼ同じだがこちらの方が手の位置が高く、所作も穏やか。だいたい〽と〇を交互に唄うが、一定ではない。

祭文 清川村臼尾
〽今度ナー 踊りは祭文やろなヨー 誰も(イヤトコサイサイ)
 どなたも お手振りなおせ(ソレエンヤヤットセー エンヤヤットセー)

祭文 野津町野津市
〽踊る皆様ハンカチ踊りょマー
 どなたサ(ハーイヤコラサイサイ) 様方よろしく頼む
 (アライヤートセイセイ ドンドンヤットセ)
〽昔はやりし三重節ゅやめて
 ハー今のまた(ハーシッカリサイサイ) アラ流行りのハンカチ踊り
 (アライヤートセイセイ ドンドンヤットセ)
〽ここでマ しばらくこの節しむる
 アイソウジャしばしマ(ハーシッカリサイサイ) 間は祭文でしむる
 (ソライヤートセイセイ イヤートセ)
〇国は豊後でナ(コラサッサ) 大野の郡ヨ 川のナーサ(アードシタ)
 ぼりなる泊の里よ(ソラーヤートセー ヤートセ)
 ※下句は「川登なる」を半ばで分けて「川の、ぼりなる」になっている
メモ:大きく分けて2種類の節がある。主は〽で示した方の節だが、これもまた人によって節が違っているし、同じ人が自由に少しずつ節を違えながら唄うため変化に富んでいる。〇はときどき挿む節で、これは三重方面の節とほとんど同じ。ハンカチやタオル、手拭いなどを右手でつまみ、ヒラリヒラリと返してすくいながら右に左に行ったり来たりする踊りで、手首の返しが早いのでハンカチが派手に翻り見栄えがよい。

祭文 野津町田野
〽どなたマー 様方 節ゅ変えましたヨ
 踊るサ(アーエンヤコラサイサイ)
 お方よお手振りなされ(アラーヤートセー ヤートセ)
〽お手が直れば足並み直せ お調子が 揃うたならば
〽次のヨヤショで理と乗せまする わしが 理を言うちゃ小癪であれど

祭文 野津町西神野
〽姉の宮城野妹の信夫 姉が(ドッコイドッコイ)
 十三妹が七つ(ヤートセイセイ マタヤットセ)
〽二霜東も知らざるものを 頃は 六月下旬の頃に
〽親子三人田の草取りよ わずかな 田地は十二石高
〽姉が音頭で妹が囃す 小唄 銚子で田の草取りよ
〽取りてその手にまた草づくし 命 づくしかまた水の青

③ 祭文 その3

佐伯 久住町青柳
〽佐伯なば山 鶴崎ゃ木挽き(ドッコイサッサー)
 日田の下駄ひき ナント軒の下(ソリャ ヤットセーノオカゲデネ)

④ 祭文 その4

猿丸太夫 野津原町今市上町
〽猿丸太夫 奥山のチリツンテンシャン(ハヨイショヨイショ)
 紅葉踏み分け鳴く鹿の(ソレエー ソレエー ヤットヤンソレサ)
〽蓬莱山で鹿が鳴く 寒さで鳴くか妻呼ぶか
〽寒さで鳴かぬ妻呼ばぬ 明日はお山のお鹿狩
〽来るか来るかと川下見れば 川にゃ柳の影ばかり
〽二度と持ちまち川越し馴染み 空が曇れば気が揉める

(15)半節
 田植唄の転用。田植唄としては大分地方・大野地方・直入地方の鼎立する区域で広く採集されており、往時の流行のほどがうかがわれる。

半節 大野町中土師
〽唄え半節(ソレソレ) 声張り上げてエー
 桧板屋に(ソレソレ) ヨーイサ響くほどエー
 「ヤレ 響くほどの 板屋の桧エー
〽様よあれ見よ御嶽山よ 蜜柑売り子が灯をとぼす
 「灯をとぼすの 売り子の蜜柑
〽様は来て待つ出るこたならぬ 庭に篠箱 二度投げた
 「二度投げたの 篠箱庭に
※中土師では、返しの後半を省略する。

半節 千歳村柴山
〽唄え半節(ヨイヨイ) さらりと上げて
 桧板屋に(ハーヨイヨイ) ヨーイサ響くほどエー
 「ヤー響くほど 板屋の桧エー
 桧板屋に(ハーヨイヨイ) ヨーイサ響くほどエー

(16)麦搗き
 精麦や精米の作業唄の転用。複数の人がめいめいに竪杵を持ち、オイサオイサと交互に搗いていく際に調子を揃える意味で、音頭と囃子とが頻繁に入れ替わる特異な形式を持つ唄になっている。ことさらな音引きはないが、音頭の節が起伏に富んでおり唄い方が難しい。下句の返し方が独特で、通常であれば「五尺体が乱れゆく、体が五尺、五尺体が乱れゆく」となりそうなところを、「五尺体が、体が五尺、乱れゆく」と唄う。これは、上句と対の節になっているためで、結局この部分の字脚を揃えるために奇妙な返し方をしているのである。

麦搗き 朝地町志賀
〽ヤレー 千秋ナー(アラドッコイ) アー万歳(アラヨーヤサノヨイヨイ)
 イー思う(アードッコイ) こた叶うた(サマナー ヨヤナー)
 ヤレー 末はナー(アードッコイ) アー鶴亀(アーヨーヤサノヨイヨイ)
 鶴亀ナー ヨーイヤナ(サマナー ヨヤナー) アー五葉の松
 (サノセーノ)ドッコイ (ヨーイヤセーノ)ソラ (ヨイヤナー)
※盆踊りの最終に唄う。扇子踊りだが、所作は「二つ拍子(手踊り)」と同じ。

二つ拍子 三重町大白谷
〽エヘヘー 様は(ドッコイ) 三夜の(サーヨヤサノ ヨーイヨイ)
 三日月様の(サマーヨイヤナー)
 ヤレ 宵に(ドッコイ) ちらりと(サーヨヤサノ ヨーイヨイ)
 ちらりと宵に(サマーヨイヤナー) 見たばかり
 (アリャセーノーヨ) ドッコイ(ヨーヤセーノーヨ) も一つ(ヨーヤセー)
※この節を数節唄うと、踊り方はそのままに音頭が「ばんば踊り(切り上げ)」に切り替わる。朝地や緒方の踊り方に比べると手数が多く、輪の中を向いたり外を向いたりしながら少しずつ横にずれていくように踊る。

麦搗き 大野町夏足
〽エー こよさナー(アドッコイ) どなたも(アヨーヤサノヨイヨイ)
 エーご苦労(ドッコイ) 労でござるナー(サマーヨイヤナー)
 ヤレ これにマー(アドッコイ) こりずと(アヨーヤサノヨイヨイ)
 こりずとノー ヨーヤルナー(サマーヨイヤナー) またおいで
 (サマセーヨ) ドッコイ(ヨイヤセー エーヨー) ソコ(ヨイヨナー)
〽千秋万歳思うこ こた叶うた 末は鶴亀 鶴亀 五葉の松

二つ拍子 清川村臼尾
〽ヤレナー 揃うたヨ(ドッコイ) 揃うたヨ(アーヨーヤサノヨイヨイ)
 品よくナー 揃うた(サマヨーヤナ)
 ヤレ 秋のナ(ドッコイ) 出穂よりゃ(アーヨーヤサノヨイヨイ)
 出穂よりゃノーヤレソ よく揃うた
 (アリャセーヨイ) ドッコイ(ヨーヤーセーノーヨ) ドッコイ(ヨーヤーセ)

二つ拍子 緒方町辻
〽今宵さナー(ドッコイ) 踊りは(サーヨイヤサノヨーイヨイ)
 どなたもご苦労ナ(サマナー ヨイヤナー)
 ヤレー これにナー(ドッコイ) これじと(アーヨイヤサノヨーイヨイ)
 これじとこれにナー(サマナー ヨイヤナー) またおいで
 (サノセーヨイヤナー) ドッコイ(ヨイヨナー) ドッコイ(ヨイヨナー)
〽千秋万世 思うこた叶うた 末は鶴亀 鶴亀 末は 五葉の松

二つ拍子 緒方町馬場・原尻
〽ヤレー 臼にゃナ(ドッコイ) アー麦を入れ(サーヨーヤサノヨーイヨイ)
 ぬかづくときにゃヨ(サマナー ヨイヤナー)
 ヤレー 五尺ノ(ドッコイ) アー体が(アーヨーヤサノヨーイヨイ)
 体がナーヤレナー(サマナー ヨイヤナー) 乱れゆく
 (サノセーノーヨー) ドッコイ(ヨーヤーセーノーヨー)
 ドッコイ(アーヨイヤセー)
※所作が「八百屋」と一連のものになっていて、一回りするところを省いたものである。

もの搗き 竹田市古園
〽臼にヨーナ(ドッコイ) アー米を入れ(サマヨーヤサノヨイヨイ)
 ぬかぶく時はエ(サマハーヨイヤナ)
 ヤレー五尺ナー(ドッコイ) アー体が(サマヨーヤサノヨイヨイ)
 体が五尺エ(サマハーヨイヤナ) コイタ乱れゆくエ
 (サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヤセーヨーナ)
 ま一丁(ヨーイヤナ)
〽わしと あなたは お蔵の米よ
 いつか 世に出て 世に出ていつか ままとなる
〽三味の 糸さえ 三筋はかかる
 私 あなたに あなたに私ゃ 一筋に

麦搗き 久住町青柳
〽臼にナー(ドッコイ) 麦を入れ(サーマヨイヤサマヨイヨイ)
 ぬかづく時はヨー(サーマヨイヤセー)
 五尺ナー(ドッコイ) 体が(サーマヨイヤサマヨイヨイ)
 体が五尺ナー(サーマヨイヤナー) 乱れゆくヨー
 (サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨセーヨーナ)
 ドッコイ(ヨイヨナー)

麦搗き 直入町長湯
〽臼にヨーナ(ドッコイ) アー麦を入れ(サマヨイヤ サマヨイヨイ)
 ぬかづく時にゃエ(サマセーヨイヤナ)
 五尺ナー(アードッコイ) アー体が(サマヨイヤ サマヨイヨイ)
 体が五尺ナ(サマセーヨイヤナ) コイタ乱れゆくエー
 (サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨセーヨーナ)
 も一つ(ヨイヨナー)
〽来るか 来るかと 川下見れば 川にゃ 柳の 柳の川にゃ 影ばかり

麦搗き 直入町下河原・原・柚柑子
〽臼にヨーナ(ドッコイ) アー麦を入れ(サマヨイヤサノヨイヨイ)
 ぬかぶく時にゃナ(サマセーヨイヤナ)
 五尺ナー(ドッコイ) アー体が(サマヨイヤサノヨイヨイ)
 体が五尺ナ(サマセーヨイヤナ) コイタちぎれゆくエー
 (サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨセーヨーナ)
 も一つ(ヨイヨナー)

麦搗き 熊本県高森町
〽ハー 臼にナ(ドッコイ) エ麦を入れ(サマヨイヤサノヨイヨー)
 ぬかづくときはエ(サマヨイヤセー)
 アラ 五尺ナ(ドッコイ) エ体が(サマヨイヤサノヨイヨー)
 体が五尺ナ(サマヨイヤセ) 乱れゆくヨ
 (サマセーヨーナ) ドッコイ(ヨーイヨナーヨーナ)
 ドッコイ(ヨーイナー)

(17)チロリロリン
 これは全く風変わりな唄で、意味不明な囃子が1節ごとにつく。県内でこれを唄うのは荻町のみでだが、隣接する熊本県高森町等でも採集されていることから、かつては大分・熊本・宮崎の鼎立する地域でそれなりに流行ったものと思われる。

弓引き 荻町宮平
〽弓引きヤーレー やりましょ(アラヨイヨイヨイ)
 しばし間はその調子にて
 「サマーこれもサンサのチロリロリン(ヨイサ)
  チロリロリンならハチリンと(アラどっちが千草でトッホンシャン)
〽踊りゃ やめまい 踊りゃやめまい夜明けまで

弓引き 熊本県高森町
〽東ヤンレー 山から(アラヨイヨイ)
 おいでます様よ
 「サマーこれもヤッコノチロリロリン(ヨイサ)
  チロリロリンならハチリンと(アラどっちが千草でトッホンシャン)

(18)サンサオ
 県内では倉木のみで採集されており、全く正体不明。ことさらな音引きは少ないが抑揚に富んでおり、唄いづらい曲である。下句をまるまる囃子がとってしまうのが変わっているが、これはおそらく、元々は田植唄か何かとして唄っていたものを転用したためだろう。

サンサオ 竹田市倉木
〽アラ田中に布旗立てて(波に乗らせて サマ瀬で)
 ドッコイ(瀬でさるす サーンサオ)
 アラ乗らせて 乗らせて波に(波に乗らせて サマ瀬で)
 ドッコイ(瀬でさるす(サーンサオ)
〽踊ろや若い時ゃ一度 (二度と枯木に花 花咲かぬ)
 枯木に 枯木に二度と(二度と枯木に花 花咲かぬ)
※上句の頭3字を伏せて唄う。また、返しの部分にも3字分の省略が見られる。結局1節の中で全く同じ節を2回繰り返しているということで、この種の返し方は宇佐地方の俚謡によく見られるが、大野・直入方面では珍しいのではないだろうか。

(19)覗き節
 覗きカラクリの口上で唄われていた口説の転用。かつて農村部では宴会のかくし芸としてこれを披露する者が多かったようだ。アホダラ経やチョンガレの流れを汲むものかと思われ、非常に早間の畳みかけるような節である。

大正踊り 野津原町今市上町
〽皆さん騒動は色と慾 八百屋お七の成り行きは(ヨイショ)
 お寺は駒込吉祥院 奥の書院の次の間に(ヨイショ)
 勉強なされし吉三さん お七が側に立ち寄りて(ヨイショ)
 膝をちょいとついて目で知らす 私ゃ本郷へ帰ります(ヨイショ)
 帰りゃ八百屋の店開き 店で売るのは人参や(ヨイショ)
 品は数々ござれども も一度うちを燃したなら(ヨイショ)
 好いた吉三と添わりょかと 娘心のひとすじに(ヨイショ)
 店の火縄を盗み出し ポンと投げたるその先で(ヨイショ)
 お七は梯子にかけ昇り 火事じゃ火事じゃと半鐘つく(ヨイショ)
 お江戸は八百八百屋町 まもなく火事もあい済んだ(ヨイショ)
 誰知るまいと思うたが 天知る地知る人が知る(ヨイショ)
 そこでお七はくくられて 萌葱の袴に緋の衣(ヨイショ)
 深い編み笠被せられ 栗毛の馬にと乗せられて(ヨイショ)
 伝馬町から引き出され お七はいくつと問うたなら(ヨイショ)
 私ゃ十五で午の年 十五であるまい十四じゃろ(ヨイショ)
 いいえ十五の午の年 その日の役人哀れみて(ヨイショ)
 十四といえば助かるに 十五といえば是非もない(ヨイショ)
 そこでお七が高やぐら 下から火の粉が立ちのぼる(ヨイショ)
 ヤレ熱いなお父さん 逢いたい見たいは吉三さん(ヨイショ)
 色で我が身を焼き棄てる(コリャコリャコリャ)

(20)東山
 この唄は正体不明。下句をまるまる囃子がとっており、「サンサオ」と同様に田植唄か何かの転用かとも思われるが、定かではない。首句には必ず「東山からさよ出た月は、さんさ車の輪のごとく」云々を置いている。この冒頭をとって「東山」と呼んだと考えるのが妥当で、そうであれば流行小唄的な呼称ではあるが、三弦唄の雰囲気は薄い。

東山 荻町柏原
〽東山から お出ます月は(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
 車の 車のさんさ(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
〽盆の踊りは伊達ではないよ 先祖代々供養踊り
 代々 代々先祖(先祖代々供養踊り)

東山 熊本県高森町
〽東山から小夜出る月は(ヤレ さんさ車の輪のごとく)
 車の 車のさんさ(ヤレ さんさ車の輪のごとく)

東山 荻町宮平
〽東山から あれ出る月は(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
 さんさ車の 車のさんさ(ハーヤレ さんさ車の輪のごとく)
〽様は三夜の 三日月様よ(宵にチロリと見たばかり)
 宵にチロリと チロリと宵に(宵にチロリと見たばかり)

東山 竹田市古園
〽唄は唄いたし 唄の数知らぬ ヤレ 大根畑のくれがえし
 畑の大根 ヤレ 大根畑のくれがえし(コチャーコチャー)

東山 久住町青柳、直入町下河原・原・柚柑子
〽東山から さえ出る月は ヤレ さんさ車の輪のごとし
 車のさんさ ヤレ さんさ車の輪のごとし
 「こちゃこちゃ こちゃ知らぬ顔よ
  ヤーレヤーレ ソレソレ ヤーレヤーレ ソートエ
〽月の出鼻と 約束したが 様は来もせで風ばかり
 来もせで様は 様は来もせで風ばかり
 「こちゃこちゃ こちゃ風ばかりよ

※『俚謡集』より
〽東山からさえ出づる月は ヤレサンサ 車の火の如し
 東山から 東山からさえ出づる月は ヤレサンサ 車の輪の如く
 コチャコチャ 見るがほん車の サンササンサ 車の輪の如く
※返し方が普通ではなく、『俚謡集』の誤植も疑ったが、いかんせん採集地域が「直入郡」としか示されていない。あるいはこのような唄い方をする集落もある(あった)のかもしれないと思い、そのまま引用することにした。

(21)さんさ節
 この唄は北海部・南海部・大野・直入地方に広く伝わっており、盆踊りの最終に「切音頭」として唄われることが多い。瀬戸内海沿岸に伝わる節で、「きそん」とか「サンサ節」として盆口説はもとより、作業唄としても唄われていた。大野地方で唄われるものは節がいろいろあるがその骨格は同じで、唄い出しで上句がひっくり返っている。南海部方面では自由奔放に唄囃子を挿んだり、返しの囃子を多々挿入するなど変化に富んでいるが、それに比べるとある程度、型にはまった印象を受ける。このことは、この唄の伝搬経路を示唆しているといえるだろう。

切り上げ 野津町野津市
〽ソリャくんずれそうなノー オーくんずれそうなノ
 踊りゃサーエーエーエン エーくんずれそうなノ
 踊りゃサーエーエーエー エーくんずれそうなノ
 「踊りゃくんずれそうな まだ茶は沸かぬ
  お風呂沸くとは何ゅしちょる ハンレワヨイ
  コリャ エーイコーノーコーノーコ サーンーサーエーイエイ 
〽ソラ星さよノー 星さよノ
 空のヤーアーアー ソリャ星さよノ
 「空の星さよ夜遊びゅなさる
  様の夜遊び 無理もない ハンレワヨイ
  コリャ ヤーコーノーコーノーコ サーンーサーエーイエイ
〽ソリャ万々世ノー 万々世ノ
 千秋エーエーエー エー万々世ノ
 「千秋万々世 思うこた叶うた
  末は鶴亀 納めよく ハンレワヨイ
  ホイ エーコーノーコーノーコ サーンーサーエーイエイ
※盆踊りの最終に、「由来」から踊り方はそのままに、この唄に移行する。

ばんば踊り 三重町大白谷
〽ソリャ崩れそうなノ 踊りゃ崩れそうなノ
 踊りゃナー ヨーイヨーイ エー 踊りゃ崩れそうなノ
 「踊りゃ崩れそうな まだ夜は夜中ヨ 明くりゃお寺の鐘が鳴る
  ハーリャンリャ ソレ コノコノヨ ササ ヨーイヨイ
〽七夕 空の七夕 空の 空の七夕
 「空の七夕おいとしゅござる 川を隔てて恋なさる
〽万歳 千秋万歳 千秋 千秋万歳
 「千秋万歳 思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松

切り上げ 犬飼町大寒
〽くんずれそうなノ くんずれそうなノ 踊りゃエー エーくんずれそうなノ
 「踊りゃくんずれそうなまだ茶は沸かぬ 降り茶釜は割れ茶釜
  ハンレバリャ ヤーコノコノ サンサエー
〽引き寄せ 引き寄せ 硯ゅ引き寄せ
 「硯ゅ引き寄せ墨する方は 恋の手紙をつらつらと
〽万世 万世 千秋万世
 「千秋万世 思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松

切り上げ 三重町菅尾
〽ソレ崩れそうなノー オー崩れそうなノ
 踊りゃエイエーイ エイエーイ エー崩れそうなノ
 「踊りゃ崩れそうなまだ茶は沸かぬ この茶釜は ソレ割れた茶釜
  ハレワヨ ソレヤレコノー オサオーサ ヨーイヨイ
〽万歳 万歳 千秋万歳
 「千秋万歳思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松

ばんば踊り 緒方町上自在
〽アリャ七夕ノ アソリャ七夕ノ 空のナー ヨイヨイ エー空の七夕は
 「空の七夕はお愛しゅござるナー 川を隔てて恋なさる ハーリャンリャー
〽万世 万世 千秋 千秋万世
 「千秋万世 願うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松

二つ拍子 三重町芦刈
〽星さよノー 星さよノー
 空のエーイエーイ(エーイエーイ) エー星さよノー
 空のエーイエーイ(エーイエーイ) エー星さよノー
 「空の星さよお歩きなさる 様の夜遊び無理はない
  ハーレワリャー ハーコノコノサンサ エーイエーイ
〽そん切り様じゃ そん切り様じゃ 竹のそん切り様で 竹のそん切り様で
 「竹のそん切り様で溜まりし水は 澄まず濁らず出ず入らず
〽万世 万世 千秋万世 千秋万世
 「千秋万世 思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松

(7)葛引き ※三勝
 これは一句ごとに「ヤーンソレソレ」等の後囃子がつく類の節で、「三勝」の系統では最も単調なものである。この種の唄い方は湯布院町の一部から玖珠・日田方面、宇佐方面で「三勝」として、臼杵方面では「葛引き」として伝承されている。ただし節はそれぞれ異なり、1節1句という事象のみをもって一列に同種であると言い切ることは憚られる。特に日田方面のそれとは明らかに節が違うため、同じ「三勝」系統であっても、また別グループのものとみてよいだろう。

もろさし 直入町長湯
〽様と別れて松原行けば(ヤーンソレソレ ヤンソレナ)
 松の露やら ソリャ涙やら(ヤーンソレソレ ヤンソレナ)
〽声はすれども姿は見えぬ 様は深野の きりぎりす

(8)庄内節 ※三勝
 本場は庄内・挾間方面で、志賀に縁故関係で伝わってきた由。「田の草踊り」の音頭が入ってきて陰旋化したものである。

庄内踊り 朝地町志賀
〽老いもソラ 若いも皆さん方よ(ヨーイトナー ヨーイトナー)
 聞いてたしなめ世界のことを(アラヨーヤサノセー ヨーヤサノセー)
〽世にも邪険な女がござる まま子呪うて京清水の
〽三十三番観音様に 九十九本の呪いの釘を

(9)ヨーヤセ
 これは大野地方のうち三重・野津・清川・緒方を除く地域と直入地方全域に伝わっている唄で、盆踊りの冒頭で唄うことが多い。単調な節で、おそらくかなり古くから唄われているものだろう。北海部・南海部方面で広く唄われている「ヨーヤセ」とか「ヤートセ」の類の、1節2句の音頭とも元をただせば同系統かと思われる。①は1節2句で陰旋のもので、やや暗い雰囲気である。大元は、庄内節と大元は同じなのだろう。②は1節2句で陽旋のもので、田舎風で明るい雰囲気。③は②の上句ばかりを繰り返すもの。

① ヨーヤセ その1

二つ拍子 朝地町志賀
〽揃うた揃うたよ踊り子が揃うた(ヤレショーヤレショー)
 秋の出穂よりゃ品よく揃うた(ヨーイヨーイ ヨーヤーセー)
〽さあさ踊ろよ手拍子揃え 響く太鼓の囃子につれて

二つ拍子 朝地町上尾塚
〽エー 盆の踊りは供養の踊り(ヤレショーヤレショー)
 色気入らぬ口説をしましょ(ハーヨーイ ヨーイ ヨーヤーセー)
〽志賀のゆかりの道翁の話 道翁生まれて身の丈高く

左さし 大野町片島
〽ごめん下され お座元様よ(ヤレショー ヤレショー)
 それについでは村方様よ(ヨーイヤセー ヨーイヤセー)
〽聞けば今夜は供養じゃそうな あまた大勢引き連れまして

二つ拍子 大野町夏足
〽揃うた揃うたよ踊り子が揃うた(ヤレショー ヤレショー)
 秋の出穂よりゃしなよく揃うた(ヨーホイヨーホイ ヨイヤーセー)
〽踊りゃいろいろ数ある中で 志賀のゆかりの道翁の話

二つ拍子 直入町小津留
〽ハー わしが口説はもうこれ限り(アヨイトセー ドッコイセー)
 しばし間の声継ぎゅ頼む(ハーヨイヤサノセー ヨイヤサノセー)

二つ拍子 荻町柏原
〽二つ拍子でしばらく間(ヨーイナー ヨーイナー)
 どなた様にも一輪の願い(ハーヨーヤーセー ヨーヤーセー)
〽盆の踊りは伊達ではないよ 先祖代々サマ供養踊り

三つ拍子 直入町長湯
〽ごめん下さいこの家の亭主(ヤレショードッコイショ)
 それに継いでは村方様よ(ヨイヤサノセー ヨイヤサノセー)
〽できたできたよ片輪ができた できた片輪をそりゃ丸くせよ
※両手をアケで左右に流して数歩進み、左右で1回ずつ手拍子をするだけの簡単な踊り。昔は踊りながら初盆の家の坪に繰り込んで輪を立てていた。

三つ拍子 直入町下河原・原・柚柑子
〽ごめん下さいこの家の亭主(ヤレショードッコイショ)
 それに継いでは村方様よ(ヨイサノセー ヨイサノセー)

三つ拍子 久住町都野
〽ごめん下されこの家の亭主(アラヤーレナー ソーライナー)
 しばし間の坪貸しなされ(アラヨイヤサノセー ヨイヤサノセー)
〽盆の踊りは伊達ではないよ 先祖祖先の供養踊り

ヨイヤセ 竹田市古園
〽ごめん下されこの家の亭主(ヨーライナ ソーライナ)
 今日の踊りは御供養の踊り(アラ ヨイヤセー ヨーイヤーセー)
〽でけたでけたよ 大輪がでけた でけた大輪を崩しちゃならぬ
〽盆に踊るは伊達ではないぞ 先祖代々残せし踊り

二つ拍子 野津原町今市上町
〽先の太夫様しばらくお待ち(ヨイトセードッコイセ)
 しばし間の声継ぎします(ハーヨイヤサノセ ヨイヤサノセ)
〽わしの声継ぎゃ継がぬも知れぬ 竹の切株みかんの接ぎ穂

② ヨーヤセ その2

新平さん 犬飼町栗ヶ畑
〽私ゃこの村 百姓の生まれ(ヤレショー ヤレショー)
 何か一声口説いてみましょ(アーヨーヤーセー ヨーヤーセ)

由来/かぼちゃ 千歳村長峰
〽ごめん下され お座元様よ(ヤレショー ヤレショー)
 それについでは村方様よ(ヨーイヤセー ヨーイヤセー)
※「由来」と「かぼちゃ」に共通の音頭。「かぼちゃ」は「かぼちゃすくい」とも言うが、腰を曲げて両手を下げ、ぶらぶらと左右に振り分けるような所作が出てくる。これは畑のかぼちゃを拾う様子を表しているのだろう。

二つ拍子 三重町菅尾
〽エーヘー 節は二つで地はやりかけの (ヨーイヨーイ)
 今のやりかけせせろじゃないか(セーヨーヤーセー ヨーヤロナー)
※一連の盆踊りの最終に唄う。短時間この節を唄ってから、踊り方はそのままに「切り上げ」の唄に切り替える。

二つ拍子 荻町瓜作
〽盆の踊りは アー伊達ではないよ(ヨーイナー ヨーイナー)
 先祖代々供養の踊り(ハーヨーヤーセー ヨーヤーセー)
〽踊るうちではあの娘が一よ あの娘育てた親見たい

二つ拍子 熊本県高森町
〽ごめん下されこの家の亭主(ヨイナー ヨイナー)
 草鞋ゃ履きなれ鉢巻ゃしなれ(アーヨーヤセー ヨーヤセー)

門入り 久住町寺原
〽盆の踊りは アー伊達ではないよ 先祖代々供養の踊り
〽老いも若きも 心を合わせ みんな揃うて踊ろじゃないか
〽これが先祖の 祭りとなるよ 目には見えぬが草葉の陰で
〽村のみんなを 仏が守る 守る仏を大事にすれば
〽村も栄る 家庭ものびる 年に一度の行事の一つ
〽長く久しく こりゃ永遠に 孫子の末まで残そじゃないか

③ヨーヤセ その3

かぼちゃ 犬飼町黒松
〽それじゃ皆さん(アラドスコイドスコイ)
 かぼちゃでござる(アラヨーヤーセー ヨーヤーセー)
〽しばし間どま かぼちゃでやろな

(10)佐伯節
 堅田踊りの「長音頭」が入ってきたもので、本場は南海部地方である。堅田谷のものよりも田舎風で「ドスコイドスコイ」等の掛け声を多用している。これは音引きの細かい節を避けて囃子を挿むことで、より平易に唄えるように工夫した結果なのだろう。

佐伯踊り 大野町片島
〽先のエー 太夫様ヨー およこいなされ(ヨイヤヨーイ)
 しばし間のヤー(ドスコイドスコイ) 声継ぎしましょ
 しばしマタ(アラドスコイドスコイ)
 間の 声継ぎを(ハードンドセー ドンドセー)
〽わしが 佐伯の ダル棒のせがれ ダルを担いで 中の谷越ゆる
 中の 谷こそ 泣く谷よ

佐伯踊り 大野町夏足
〽佐伯エー 領土や堅田が宇山(ヨイヤヨーホイ)
 山では(ドッコイドッコイ) ないぞえ堅田が名所
 エー名所(ドッコイドッコイ) なりゃこそお医者もござる
 (アーヨイトセー ヨイヨナー)
〽お医者 その名を玄良というて それの 世をとる半蔵とござる
 半蔵 国では男の盛り

佐伯踊り 千歳村長峰
〽佐伯エー 領土は堅田が宇山(アヨイノヨイ)
 山じゃござらぬ名所でござる エーイソコジャ(ドスコイドスコイ)
 名所なりゃこそお医者もござる(マードンドセー ヨーヤルナー)
〽お医者 その名は玄了様と 玄了息子にゃ半蔵というて
 年は二十一男じゃ盛り

佐伯踊り 千歳村柴山
〽佐伯エー 領土は堅田が宇山
 山じゃござらぬ名所でござる(エーヨイ) 名所(ハドスコイドスコイ)
 なりゃこそお医者もござる(エードンドセー ヨーヤルナー)

佐伯踊り 犬飼町犬飼
〽佐伯エー 領土は堅田が宇山(サノヨイ)
 宇山なりゃこそ名所もござる 名所(シッカリサイサイ)
 なりゃこそお医者もござる(ハヨイトセー ヨイトセー)

八百屋 三重町大白谷
〽扇エー めでたや末広がりよ(ヨイサヨイヨイ)
 アーここに大内(ヨイコラサイサイ) 公卿大納言 エーイ公卿のサ
 娘にゃ玉津の姫と(アーヨイトセー ヨイヨナー)
〽美女が 悪女のあばたとなれば 広い都にゃ 添う夫がない
 夫が なければ三輪明神に

八百屋 緒方町辻
〽国はナー どこじゃと細かに問えば(ヨイサヨーイヨイ)
 国は奥州の(ドッコイドッコイ) 海部の郡 佐伯(ドッコイドッコイ)
 領土や堅田が谷よ(ヨイトサノセー ヨイヨナ)
〽堅田 谷では宇山が名所 名所なりゃこそ お医者もござる
 医者の その名は半蔵というて

八百屋 緒方町原尻・馬場
〽さてもナー 緒方のその生い立ちは(ヨサヨーイヨイ)
 ヤレー 今を去ること七百余年 頃は
 寿永の初めの頃に(アヨイトサノセー ヨーイヤナー)

佐伯節 野津町西神野
〽お為半蔵さんのちょいと長うやろで(ドッコイセードッコイセ)
 お為が(ドッコイサッサ) ことや帰ろやお為 二人
 連れなる下向の道よ(ヨイトセー ヨーヤヨー)
「ソレ 柏江道の若沢で
 しかと手をとし顔差し並べ(ヨーイヨーイヨーイ ヨーイヨナ)
〽弟見かくりゃもの問いかくる お為さんとは音には聞けど
 逢うて 対面今日いまが初
〽あなた思うは七年かぎり 寝ては夢見る醒めては思う
 さらに 忘れるその暇もない
※字脚によって節がかわり、75調の箇所では「祭文(津久見以南の節)」を入れ節にする。下句の囃子「ヨイトセーヨーヤヨー」の末尾をことさらに長く引き伸ばすのが特徴。

(11)杵築
 これの本場は速見・東国東方面で、杵築周辺の「六調子」が近隣に伝わり「杵築踊り」としてひところは非常に流行したものである。この系統の節をもつ盆口説は速見地方から国東半島一円、宇佐地方から下毛方面にも及ぶ広範囲に残っているが、大分市には伝わっていない。そこを飛び越えて大野・直入地方で広く「杵築踊り」が唄い踊られているのは、「志賀の田中某氏が各地の盆踊りをあつめてそれが近隣に広まった」云々の所以だろう。

杵築踊り 朝地町志賀
〽杵築山家の踊りを見たら(サノヨイ サノヨイ)
 おうこかたげて鎌腰差して(アーヨーイサッサノ ヨイサッサー)
〽歩くかたでに焼餅かじる それはうわごと 理を語ります
※踊り方がずいぶん変化しているが、継ぎ足で出ていったら後ろに数歩さがるところに杵築の「六調子」の名残が感じられる。

杵築踊り 大野町夏足、朝地町上尾塚
〽何を言うても国からが先(サノヨイ サノヨイ)
 国は近江じゃ石山源氏(アーヨーイサッサー ヨイサッサー)
〽源氏娘はおつやとござる おつやもともと信心者よ

杵築踊り 三重町大白谷
〽題は義経千本桜(サーヨイ サノヨイ)
 五題続きの第三段よ(サーヨーイサッサー ヨイサッサ)
〽角にゃ寿司屋と名は弥三衛門 これの娘におりつというて

杵築踊り 緒方町原尻
〽様よ出てみな奥嶽山にゃ(アレワイセー コレワイセー)
 みかん売り子が ヤレ火をとぼす(アーヨーイサッサー ヨイサッサ)
※節には杵築の「六調子」の名残が感じられるが、踊り方は全く違っていて西国東の「エッサッサ」に近い。おそらく国東方面から伝わった踊りとして、もとは唄も踊りも別々のものだったのが融合したのだろう。

銭太鼓九つ 竹田市次倉
〽盆の踊りは伊達ではならぬ(サマヨイ サマヨイ)
 先祖代々 サマ供養のため(アーヨーイサッサー ヨイサッサ)
〽姉と妹に丸髷結わせ どちら姉やら 妹やら

杵築踊り 竹田市倉木
〽杵築踊りはいと易けれど(サノヨイ サノヨイ)
 知らぬお方にゃ難しゅござる(サーヨーイサッサー ヨイサッサ)
〽みんな踊ろや若いときゃ一度 二度と枯木にソリャ花咲かぬ
〽こよさ行きますお寝間はどこな 東枕のソリャ窓の下

杵築踊り/団七踊り 竹田市古園
〽杵築踊りはいとやすけれど(サノドン サノドン)
 知らぬお方にゃ難しゅござる(アラヨイサノサー ヨイサッサ)
※杵築踊り(手踊り)と団七踊りに共通の音頭。今は、団七踊りは踊っていない。

杵築踊り 荻町柏原
〽みんな踊ろうや若いときゃ一度(サマヨイ サマヨイ)
 二度と枯れ木に ソリャ花咲かぬ(サマヨーイサッサー ヨイサッサ)
〽枯れ木花咲き実のなるまでは 心かわすな かわすまい

杵築踊り 荻町宮平
〽杵築踊りはしなよいけれど(サマヨイ サマヨイ)
 知らぬお方にゃ難しうござる(サマヨーイサッサー ヨイサッサ)
〽杵築山田の踊りを見たら おうこかたげて鎌腰差して
〽踊る片手じゃ焼き餅かじる それはうわごと理を語ります
※例示した文句の「杵築山田の踊りを見たら」の「山田」は、地名ではなく「田舎(農村部)」の意味である。つまり「田舎の踊りを見たら、野良仕事の格好で踊っていたよ」といった程度の文句で、これに類似する文句が日出や別府、挾間など広範囲に伝わっている。大野・直入地方では遠く離れた杵築にはあまり馴染みがなかったと思うが、同じ農村ということである種の親しみをもって「杵築山田の踊りを見たら…」と唄ったのだろう。

杵築踊り 熊本県高森町
〽杵築踊りはいと易けれど(サマヨイ サマヨイ)
 知らぬお方はそりゃ難しい(サマヨーイサッサ ヨイサッサ)

竹刀踊り 野津原町今市荷尾杵
〽盆の十六日おばんかて行たら(サノヨイ サノヨイ)
 叩き牛蒡に昆布の煮しめ(サノヨーヤーセー ヨーヤーセ)

(12)猿丸太夫
 文句によって「猿丸太夫」「そよそよ風」「笠づくし」など外題が違い、節もそれぞれ変化いているが、大元は同じと考えられる。①は、大野・直入地方においてはどの集落でも「猿丸太夫、奥山に、紅葉踏み分け鳴く鹿の」を首句としている。それからとって曲名を「猿丸太夫」と呼んだのだろうが、これは流行小唄的な呼称であって、「トッチンチンリン」云々の口三味線風の囃子も含めてこの唄の出自を示唆している。鶴崎踊りの「猿丸太夫」とはずいぶん雰囲気が異なるが、こちらの「猿丸太夫」をかなり遅いテンポで引き伸ばして唄うと鶴崎の節にそれなりに近くなることから、元は同じだろう。②は「笠づくし」の文句で、熊本県高森町、湯布院町等で盆踊り唄として採集されており、全国的に見ればこちらの方が優勢。

① 猿丸太夫 その1

猿丸太夫 朝地町志賀
〽猿丸太夫は(コリャコリャ) 奥山の 紅葉踏み分け鳴く鹿の
 (ヨイヨイヨイヨイ ヨイヤサー トッチンチンリン トッチンチンリン)
〽忠臣蔵なる初段目の 初段目 鎌倉 鶴ヶ岡
〽鶴ヶ丘なる神殿に 数多の兜を飾り立て
〽どれが義さの兜やら 義さの兜にゃ印ある
※首句のみ「猿丸太夫」の文句を置いて、その先は「仮名手本忠臣蔵」の数え唄(初段目から順番に寄せ集める)になっている。これは流行小唄「よしよし節」と同種の趣向で、やはり遊び唄、座興唄の転用であることを示唆する文句である。

猿丸太夫 清川村臼尾
〽猿丸太夫は(ショイショイ) 奥山の 紅葉踏み分け鳴く鹿の
 (ヨイヨイ ヨイヨイ ヨイヤサー トッチンチンリン トッチンチンリン)
〽惚れてはまれば 泥田の水も 飲めば甘露の味がする
※2句目以降は近世調になっている。これは、元は7575の字脚の文句であったものが、都々逸等の騒ぎ唄や作業唄等の文句を流用する関係で、汎用性の高い近世調になったものと考えられる。

猿丸太夫 緒方町辻
〽猿丸太夫は(ヨイヨイ) 奥山の 紅葉踏み分け鳴く鹿の
 (ヨイヨイヨイヨイ ヨイヤサー トッチンチンリン トッチンチンリン)
〽様よ出てみよ 奥嶽山にゃ みかん売り子が灯をともす
〽みかん売り子じゃ わしゃないけれど 道が難所で灯をともす

猿丸太夫 緒方町馬場)、原尻
〽猿丸太夫は(コリャコリャ) あの奥山の 紅葉踏み分け鳴く鹿の
 (ヨイヨイヨイヨイ ヨイヤサー トッチンチンリン トッチンチンリン)
※継ぎ足で進みながら両手首をクルリクルリを向こう側に返していくところと、そのときの指の開き方がなんとも優雅。最後は輪の中に向いて両手を右に伏せて後ろにさがり一つ手拍子を打つところなど、鶴崎の猿丸太夫の踊り方の名残が僅かに感じられる。

猿丸太夫 大野町夏足
〽猿丸太夫は(コリャコリャ) 奥山の 紅葉踏み分け鳴く鹿の
 (ヨイヨイヨイヨイ ヨイヤーサー トッチンチンリン トッチンチンリン)
〽川端通る薪売り 上も木が行く下も行く
〽割れたもあれば割れぬのも あるは唐津屋の縁の下
〽長いもあれば短いも あるはお侍の腰のもの
〽畑の中の茶園株 八十八夜を待つばかり
〽忠臣蔵なる初段目は 初段目鎌倉鶴岡

猿丸太夫 大野町片島
〽猿丸太夫は奥山の 紅葉踏み分け鳴く鹿の
 (アラヨイヨイヨイヨイ ヨイヤーサー トッチンチンリン トッチンチンリン)
〽畑の中の茶園株 八十八夜を待つばかり
〽長いのもあれば短いも あるはお侍の腰のもの
〽川端通る掛け木売り 上も木が行きゃ下も行く
〽割れたのもあれば割れぬのも あるは唐津屋の縁の下

猿丸太夫 荻町恵良原、荻町柏原
〽猿丸太夫は(アラショイショイ) 奥山の
 紅葉踏み分け鳴く鹿の(アラヨイヨイ ヨイヨイ ヨイヤナー
 サートッチンチンリン トッチンチンリン)

猿丸太夫 熊本県高森町
〽猿丸太夫はホイ アラショイショイ あの奥山の
 紅葉踏み分け鳴く鹿の声(ヨイヨイヨイヨイ ヨイヤサ
 サートッチンリンリン トッチンリンリン)

猿丸太夫 久住町都野
〽猿丸太夫はホイ(アラショイショイ) 奥山の
 紅葉踏み分け鳴く鹿の声(アラヨイヨイ ヨイヨイ ヨイヨナー
 サートッチンチンリン トッチンチンリン)
〽鹿が鳴こうと 紅葉が散ろと 私ゃあなたにコリャ厭きは来ぬ
〽安芸の宮島 まわれば七里 浦は七浦コリャ七えびす
※首句は「鳴く鹿の」の5字で終わるのが普通だが、音引きを嫌ってか「鳴く鹿の声」までの7字で唄っている。親骨1本分を残して畳んだ扇子を拝み手で持ち、左右に小さく振りながら数歩進み、右足を後ろに踏みながら両手を低く開くと同時に扇子を振り開き、両手を低く開いたり閉じたりしながら左右交互に後ろ足に踏みかえながらさがり、扇子を畳んで束足。これの繰り返しだけの単純な踊りだが、さがり始めるところで扇子を一振りで開くのがやや難しい。

猿丸太夫 直入町下河原・原・柚柑子
〽猿丸太夫は(アラショイショイ) 奥山の
 紅葉踏み分け鳴く鹿の(アラヨイヨイ ヨイヨイ ヨイヤナー
 サートッチンチンリン トッチンチンリン)
〽山は焼けても山鳥ゃ立たぬ なんで立たりょか子のあるに

猿丸太夫 直入町長湯
〽猿丸太夫は(コラショイショイ) 奥山の
 紅葉踏み分け鳴く鹿の(アラヨイヨイ ヨイヨイ ヨイヤナー
 サートッチンチンリン トッチンチンリン)
〽思うて通えば 千里が一里 逢うて帰ればまた千里
〽別れ別れに さす盃の 中は酒やら涙やら
※都野や倉木と同じ節だが、ピョンコ節に近くなってる。踊り方は都野とほとんど同じだが、畳んだ扇子を拝み手で持ち数歩進んだあと、扇子を振り開いたかと思ったらすぐに畳む。扇子を開くのがほんの一瞬だけというのがなかなかおもしろい。

二つ拍子 竹田市古園
〽猿丸太夫は(コラショイショイ) 奥山の 紅葉踏み分けアノ鳴く鹿の
 (アラヨイヨイヨイサノ ヨイヨナー ヨイヨナー) 

猿丸太夫 竹田市倉木
〽猿丸太夫(コラショイショイ) 奥山に
 紅葉踏み分け鳴く鹿の(アラヨイヨイヨイヨイ ヨイヤサー
 サートッチンチンリン トッチンチンリン)
〽秋が来たとて 鹿さよ鳴くに なぜに紅葉は色づかぬ
〽鹿が鳴く鳴く 秋鹿が鳴く 寒さで鳴くのか妻呼ぶか
〽寒さで泣かぬ 妻呼ばぬ 明日はお山のおしし狩り
※手踊りで、緒方の踊り方に大変よく似ている。上体をやや傾けるようにしながら手に目をつけて、やわらかい所作で進んでいくところなど何とも優雅。

② 猿丸太夫 その2

笠づくし 熊本県高森町
〽一つ人目を忍ぶには 女心の吉野笠
 (ソレイヤソレ ソレソレソレー ヨイトセ)
〽二つ深草少将は 小野小町に通い笠

(13)伊勢音頭
 所謂「ヤートコセ」で、梅坊主の唄で流行した騒ぎ唄風の「伊勢音頭」や「道中伊勢音頭」「住吉踊り」等の影響が色濃く感じられる。テンポが遅く、節をこね回すようにして長く引っ張って唄う。都会の流行り唄として入ってきたものが毛槍ひねりの白熊音頭や作業唄などとして唄われるうちに節をことさらに引っ張るようになり、それを盆踊りに転用したものだろう。一節がとても長く節が細かいので唄うのは少々難しい。

綾筒踊り 朝地町志賀
〽様よ出て見よ(ソーコセーソーコセ) 御嶽山は(アーソーコセーソーコセ)
 みかん売り子が ソリャ灯をとぼす(ソレカラ ヨーイヤセーノヨーイヤセ)
 (ハレワイセー) ソラ(コレワイセー ササ ナーンデーモセー)
※短い筒の中に小豆など入れて、よい音が鳴るようにしたものを1本ずつ両手に持ち、互い違いに打ち合わせたりしながら踊る。

伊勢音頭 朝地町上尾塚
〽伊勢にゃナー 七度 熊野にゃ三度(ソーコセー ソーコセー)
 愛宕様にはヤンレサー 月参り
 (アーソラソラ ヤートコセーノ ヨーイヨナ)
 (ハレワイセー) ソコ(コレワイセー ササ ナーンデーモセー)

伊勢音頭 大野町夏足
〽伊勢へナー 七度熊野へ三度(ヨーイヨイ)
 愛宕様にはヤンレ 月まいり(アラヤートコセーノヨーイヤナ
 アーレモサイ コーレモサイ コノヨーイヤナ)

伊勢音頭 大野町片島
〽咲いたナー 桜になぜ駒つなぐ(アーソーコセー ソーコセ)
 駒がナー勇めば アーヤンレサ花が散る
 (アーソレソレ ヤートコセーノ ヨーイヨナ アレワイサ)
 ソレ(コレワイサー ササ ナンデーモセー)

伊勢音頭 清川村臼尾
〽伊勢にゃ七度 熊野にゃ三度(ハートーコセー トーコセー)
 愛宕様にはヤンレ 月参り
 (ヤーソレカラ ヤートコセーノ ヨーイヨナ ハレワイセー)
 ソレ(コレワイセー ササ ナーンデーモセー)

伊勢音頭 緒方町原尻・辻
〽伊勢にゃナー 七度熊野にゃ三度(アーソーコセー ソーコセー)
 愛宕ナー 様には ヤンレサ月参り
 (ソレカラ ヤートコセーノヨーイヨナー アレワイサー)
 ドッコイ(コレワイサーデ ササ ナンデモセーイ)
※扇子踊りと銭太鼓踊りがある。

伊勢音頭 緒方町馬場
〽伊勢にゃナー 七度熊野に三度(アラソーコセー ソーコセー)
 愛宕ナー 様には ヤンレサ月参り
 (アーソーヤラ ヤートセーノヨーイヤナー アレワイセー)
 ドッコイ(コレワイセー ササ ナンデモセー)
※開いた扇子の親骨の先の方をつまみ、右足を蹴り出しながら右手を下から前に振り上げて扇子を縦にひねって横に倒し、両手を小さく開くのを繰り返して前に進んでいき、左右に大きく流しながらさがる。大白谷の扇子踊りと同種の発想の踊りだが、こちらの方が難しい。

伊勢音頭 久住町都野、直入町長湯
〽伊勢にゃナ 七度熊野にゃ三度(アラソーコセー ソーコセー)
 愛宕様にはヤンデサ 月参り(アラソレカラ ヤートコセーノ ヨーイヤナ)
 アラ(ハレワイセーノ) ソコ(コレワイセーノ ササナンデモセー)

伊勢音頭 竹田市倉木
〽伊勢にゃヨ 七度ナ 熊野に三度(アーソーコセー ソーコセー)
 愛宕ナ 様には ハーヤンレサ月参り
 (アーソレソレ ヤートコセーノ ヨーイヨナ アレワイセー)
 ドッコイ(コレワイセーデ ササ ナンデモセー)
〽さてもナ 見事なヨ 沈堕の滝は(アーソーコセー ソーコセー)
 「ソレ落て口ばかりは十二口(ソレ) 十二の落て口ゃ布引で(ソレ)
  上には大悲の観世音(ソレ) 下には大蛇が七頭
 落つりゃヤ 大蛇の ハーヤンレサ餌となる
 (アーソレソレ ヤートコセーノ ヨーイヨナー アレワイセー)
 ドッコイ(コレワイセーデ ササ ナンデモセー) 
※音引きが多くて、一節がとても長い。例示した2節目に至っては半ばにイレコを挿んでいるため2分近くもかかる。開いた扇子の角のところを右手でつまんでひらりひらりと翻して踊る。輪の中を向いて、右・左・右・左と交互に足踏みしながら両手を右上・左上・右下・左下と小さく流すのを数回繰り返して、左右に流したりしながら輪の外を向き、また4回足踏みで両を上下左右に流すのを数回繰り返し、輪の中向きに戻る。所作は易しいが手数が多い。

伊勢音頭 竹田市古園
〽伊勢はナー 津でもつ津は伊勢でもつ(アラソーカセー ソーカセー)
 愛宕ナー 様には ハーヤンレサー月参り
 (アーソレカラ ヤートコセーノ ヨーイヤナー アレワイセー)
 ドッコイ(コレワイセーノ ササ ナンデモセー)

伊勢音頭 熊本県高森町
〽伊勢にゃナー 七度(ソレソレ) 熊野にゃ三度(サマヨイヨイ)
 愛宕ナー 様には(ジッサイジッサイ) ヤンレ月詣り
 (サマヨイヨイ ヨイヨイヨー ホリャンリャン)
 ソレ(コリャンリャン) ソレ(ササヨーイトセー)

1、志賀の盆踊りについて

 大野・直入地方の盆踊りは音頭も踊りも非常に多種多様、殊にその踊り方は手踊りはもとより扇子を使うやら銭太鼓を使うやら、非常に手の込んだものであって、民俗芸能として立派なものである。現在、この地域ではお神楽の方が伝承に熱心で、盆踊りはややもすると等閑視されているようなきらいがあり、殊に平成に入ってからは衰退著しいのが惜しまれるが、まだ点々と伝わっている。その中でも朝地町志賀地区の盆踊りは、大野地方(野津と三重の一部を除く)と直入地方の盆踊りの源流といっても過言ではないだろう。
 明治初年、旧岡藩の田中某氏が志賀に住んでいた。この人は盆踊りが好きで、県内外から広く盆踊りを集めて志賀の盆踊りに取り入れ、明治以降志賀では盆踊りが盛んになった。このエピソードを裏付ける事象として、志賀の盆踊りに「三勝」の系統の音頭を多用していることがあげられる。志賀の「銭太鼓五つ」「かますか踏み」「団七踊り」等の音頭はみな「三勝」の類で、しかも全部、節が違う。これは近隣在郷から踊りを集めたときに、その土地々々の節の「三勝」が入ってきたためだろう。どれも「三勝」だと都合が悪いので、様々な符牒で呼び分けたと考えられる。このように、各地で一旦は廃った踊りが志賀で復活し(節も踊りもアレンジされているが)、反対に近隣地域に志賀の盆踊りが広まったという。「盆踊りは志賀から習った」「志賀からお嫁に来た人が教えてくれた」等のエピソードが近隣地域の市町村誌その他の資料にて散見されることもあり、確かな話のようだ。

2、志賀の盆踊りとその周辺

 今となってはさしもの志賀の盆踊りも一重の小さな輪が立つのもやっとになり、細々と踊られている状況ではあるが、志賀で廃った演目も近隣他地域に残っている事例もある。この地方一帯には、「志賀の盆踊り」の流れの演目がかなりの数残っているというわけで、それを集めてみることで、今後の伝承の一助になれば、比較研究の助けになればと考える。その分類方法については、各演目の外題と節・踊りの関係が集落によってまちまちであり、外題でもって分類すると紛らわしいので、市町村別の記事同様に節によって分類していくことにした。
 なお、三重(大白谷を除く)と野津の踊りはその演目から、どちらかというと「臼杵踊り」の流れのものとして考える方が自然だが、長いスパンで見れば当然、相互関係があるものと考えられる。そこで、ここでは三重や野津も除外せずに取り上げる。また、荻町から盆踊りが伝わったとされる熊本県高森町の盆踊り唄についても取り上げることにした。比較対象を増やすことで、ある種の地域性というものが見えてくるだろう。

対象地域:大野地方および直入地方全域、熊本県高森町
(現行の地域区分でいうと、豊後大野市全域、竹田市全域、臼杵市野津町、大分市野津原町今市、高森町)

(1)三重節 ※三勝
 本場は三重郷であり現地では「由来」と呼ぶが、近隣では「三重から伝わった音頭」の意で、元からある「三勝」と区別するために通常「三重節」と呼んだものである。その伝承範囲は大野地方全域から臼杵の一部、大分市の一部にも及んでおり、往時の流行のほどがうかがわれる。曲調は陽旋で田舎風。一息は短めだが起伏に富んでいる。採集例が多く、節回しは種々ある、高調子に唄い始める節と低く唄い始める節を自由に取り混ぜて唄うことが多いため同一地域でも節がいろいろあるが、その範疇の差異は演唱者の個人差(唄い方の個性)によるところも大きいかと思われる。そのため必要以上に細分化することは避け、下句の頭を少し引っ張って唄うものを「その1」、引っ張らないものを「その2」として区別するにとどめた。

① 三重節 その1

団七踊り 朝地町志賀
〽ここに説きだす志賀団七の(ヨイトセーヨイトセー)
 エー いわく因縁口説いてみましょ(ソラーヤットセイセイ ヤットーセ)
〽国は奥州で仙台の国 頃は寛永十四年にて

由来 三重町菅尾
〽奥にエー どこかと アラたずねて訊けば(ドッコイセーコリャセー)
 エー 国はサ 豊州で海部の郡(サンヤートセーイ その調子)
○佐伯サ 領土や アラ堅田が宇山(ドッコイセーコラセー)
 エー 山じゃござらぬ名所でござる(サンヤーソレナーサー その調子)
メモ:野津の「三重節」のように高く唄い出す〽と、緒方の「団七踊り」ように低く入る○を自由に混ぜて唄うが、〽がメインでたまに○が入る程度。「佐伯踊り」のハンカチ踊りで、堅田踊り「長音頭」の16足の踊り方のおもかげが色濃く残っている。

由来 三重町芦刈
〽頃は寛永十四年どし(ドッコイセーコリャセー)
 ウンヨー父の仇を娘が討つは(サンヤーソレナーサー ヤンソレナー)
〽これは稀にて世にゃ珍しや 国はどこじゃと尋ねて訊けば

扇子踊り 三重町大白谷
〽ヤー願うサ 一輪は 扇子でござる(セードッコイセー)
 ヤレーおせもサ 子供も皆出て踊れ(サーヤットソーレ ヨーヤソーレナ)
※三重町中心部のものよりテンポが遅く、節回しも重々しい。両手を高く上げ、扇子を手前から向こうに素早くクルクルと回しながら継ぎ足で出ていき、左右に大きく流しながらさがる。

三重節 野津町野津市
〽あらまあ嬉しや アラまた落ててきた(ヤレトコセー コラセ)
 サーエー 落ててきたのは拾わにゃならぬ(サンヤートヤーコイ ヤレトコセ)
〽わしがやりかけ アラ三重節でござる(ドッコイセー コリャセ)
 サーエー 踊る方々よく聞きなされ(サンヤートセイセイ ヤレトコセ)
※節が細かく、唄い方が難しい。複数の節を自由に混ぜて唄い、細かく見ればたくさんの節があるが、高調子の節と低く入る節の2種類に収斂する。踊り方は三重の「由来」を簡略化したもので、16足の佐伯踊りの一種。堅田踊り「長音頭」の名残が色濃い。

三重節 野津町田野
〽踊るサ お方よ アラお手振り直せ(ドッコイセー コリャセ)
 エイエー お手が直れば足並みゅ直せ(サンヤートセイセイ ヤレトコセ)
〽そこで しばらく 理と乗せみます 二人子供のあるその中で

三重節 野津町西神野
〽今のサ 浮世は あら珍しや(ドッコイセー ドッコイセ)
 エイエー 淵が瀬となる瀬が淵となる(サーヤーレヤレトコ ヤレトコセ)
〽岩が 流れて 木の葉が沈む 嫁の機嫌を姑が取りゃれ

三勝/団七踊り 千歳村長峰
〽国は近江の石山源氏(ヨイトセー ヨイトセー)
 エイエー 源氏娘におつやというて(アーヤートセイセイ ヨイヤサノサ)
〽おつや七つで利発な生まれ(ドッコイショー ドッコイショー)
 一つなるとき乳たべ覚え(アーヤットセイセイ ヨイヤサノサ)
※三勝(手踊り)と団七踊りに共通の音頭。低く入る方の節ばかりを繰り返す。下句の頭に「エイエー」等が入るときと入らないときがあるが、入らない場合には頭3字をその分引き伸ばすので、節は同じ。

団七踊り 大野町片島
〽よやさそらそら志賀団七よ(ヨイトセー ヨイトセー)
 姉の宮城野妹の信夫(ハーヤットセイセイ ヤレトコセー)
〽中が団七死に物狂い 親の仇だ取らねばならぬ
※低く入る方の節ばかりを繰り返す。上句の囃子をやや引っ張り、その分下句の入りが後ろにずれている。

団七踊り 大野町夏足
〽二十と四間の二重の矢来(ヨイヤセー ヨイヤセー)
 エー 中で本懐遂げたる話(ソレーヤットソーレソレ ヤートコセー)
〽どこのことよと細かに問えば 国は奥州は仙台の国

② 三重節 その2

団七踊り 緒方町辻
〽揃うた揃うたよ踊りが揃うた(アヨイトセーヨイトセー)
 今の流行の団七踊り(ソラーヤートソレソレ ヤンソレナー)
〽老いも若いも皆出て踊れ 盆の一夜を踊りで明かす。

団七踊り 緒方町馬場・原尻
〽国はいずこと尋ねて訊けば(ヨイヤーセー ヨイヤーセー)
 国は奥州仙台国よ(アーヤートソレソレ ヤンソレナー)

(2)三勝
 このグループの節は大野地方のうち緒方町・清川村・朝地町・大野町ならびに直入地方全域に亙る広範囲に伝承されている。そのうち①は、坂ノ市周辺の「三勝」や挾間の「三勝」も、元々はこれと同種と思われる。伝承範囲を見てもこれが最もオーソドックスな部類で、これから様々に分かれて「三重節」など数多くの変調を生むに至ったと推測される。②は節を少し引っ張り気味にしたもの。③は、①と「風切り・弓引き①」とを掛け合わせた節で、陽旋・陰旋それぞれあるが微妙なラインの節もあるため細分化は控えた。

① 三勝 その1

かますか踏み 朝地町志賀
〽国は関東で下野の国(ヨイトナー ヨーイヨイ)
 那須与一という侍は(ソラヤーンソーレ ヤーンソレナー)

かますか踏み 大野町夏足
〽これのナー 元をば細かに問えば(ヨイトナー ヨイヨイ)
 豊後岡領はお城がござる(アーヤーンソーレ ヤンソレナー)
〽お城 町なら竹田とござる ここのお医者で白道というて

かますか踏み 緒方町辻
〽やれなヨー やれしょなかますか踊り(ヨイトナー ヨーイヨイ)
 どうかどなたも一輪の願い(サマヤーンソーレ ヤンソレナー)
〽盆の 踊りは伊達ではないよ 先祖代々供養のためよ

かますか踏み 清川村臼尾
〽蛸にゃナー 骨なし海鼠にゃ目なし(ヨイトナー ヨーイヨイ)
 好いた男にゃ アノ金がなし(サンヤーンソーレ ヤンソレナー) 

三勝 竹田市倉木
〽来るか来るかと川下見れば(ヨイトナー ヨイヨイ)
 柳新芽の ソリャかげばかり(サマヤーンソーレ ヤンソレナー)
〽様はいくつな二十二な三な いつも二十二で ござれ様

かますか踏み 久住町都野
〽別れ別れとさす杯は(ヨイトナーヨイヨイ)
 中は酒やら涙やら ソリャ涙やら(ヤーンソレソレ ヤンソレサ)

かますか踏み 竹田市古園
〽それじゃそじゃそじゃその調子なら(ヨイトナーヨイトナ)
 踊りゃできましょ その夜明けまで(ソレヤーンソーレ ヤンソレサ)

かますか踏み 荻町宮平
〽踊り踊るならしなよく踊れ(ヨイトナーヨイヨイ)
 しなのよい娘を ソリャ嫁にとる(サマヤーンソーレ ヤンソレサイ)

かますか踊り 熊本県高森町
〽わしがマ 思いは阿蘇山やまの(ヨイトコナー ヨイヨイ)
 ハ峰の雪よりゃ ソリャまだ深い(サマヤーンソーレ ヤンソレサイ)

② 三勝 その2

団七踊り 犬飼町大寒
〽父が口説けば姉妹囃子(アリャサイ コリャサイサイ)
 とりたる草をば街道にゃ捨てる(アリャヤンソレナーサー ヨイガサノサ)

団七踊り 三重町芦刈
〽もうまそろそろ疑いもなく(アリャサイ コリャサイサイ)
 右の奥州にゃ下さぬものと(サンヤーソレナーサー ヨイーガサノサー)
〽そこで正雪餞別なさる 姉にリン鎌また鎖鎌
〽姉の宮城野妹の信夫 これを正雪餞別とする
〽そこで御内儀餞別として
 「ソリャ紫の 紫のサ 紫縮緬かかえ帯(チョイナーチョイナ)
  綾の鉢巻紅のサ
 襷袂はいと華やかに
※一部に75調の字脚が入り、その箇所では特別の節を入れ節にしている。このような唄い方は南海部方面で多々見られるが、大野地方では稀である。

三勝 野津町西神野
〽ハー 国は筑前遠賀の町よ(エイエイサッサ)
 つごう庄屋のたろびょえ様の(アラヤンソレナーサー ヨイヤサノサ)
〽何につけても不足はないが 不足なからにゃ世に瀬がござる

③ 三勝 その3

銭太鼓五つ 朝地町志賀
〽今度踊るは銭太鼓の五つ(ヨイトセーヨイトセー)
 できたできたよその調子なら(アラヤーンソーレ ヤンソーレナー)
〽てぬき手拭いきんぬいの笠(ヨイトセーヨイトセー)
 七夜こめたる紫竹の杖で(アラヤーンソーレ ヤンソーレナー)
※テンポが遅く、半ば陰旋化している。

三勝 犬飼町黒松
〽国は近江の石山源治(ヤレショー ドッコイショ)
 源治娘におつやというて(ヤーンソーレ ヤンソレサ)

三勝 犬飼町栗ヶ畑
〽親のない子は遊びにゃ加てぬ(ヨイトセー ヨイトセー)
 打てや叩けと横着された(サンヤーンソーレー ヤンソレサイ)
〽わしが父様どうしてないか そこで母親仰せしことにゃ
※陽旋で、軽やかな節にて親しみやすい。うちわ踊りで、両手を振り上げながら片足を引き、後ろに反っては反転していく所作がひときわ目を引く。

銭太鼓七つ 大野町片島
〽今度踊りは銭太鼓の七つ(ヤレショー ヤレショー)
 先の太夫様およこいなされ(アーヤーンソーレ ヤンソレサイ)
〽わしが貰うても行くかは知らぬ 行くか行かぬか行くところまで
※志賀の節とよく似ているが、こちらの方が若干テンポが速い。

九勝 荻町柏原
〽弓は袋に剣は鞘に(ヨイトナー ヨーイヨイ)
 納めおきます筑前の守(サマヨーイソーレ ヤンソレサイ)
〽思い山々どの山見ても(ヨイトコナー ヨーイヨイ)
 霧のかからぬサマ山はない(サマヤーンソーレ ヤンソレサイ)

十三勝 熊本県高森町
〽踊りゃ十三勝口説は九勝(ヨイトセーヨイヨイ)
 踊りゃマ やめまい ソリャ夜明けまで(サマヤーンソーレ ヤンソレサイ)

銭太鼓十三 竹田市倉木
〽今度踊るは銭太鼓の十三(ヤーレンショー ヤーレンショー)
 しばしそれにて ソリャ頼みます(サーヤーンソーレ ヤンソレナー)
〽様のゆえならダラの木山も はだし裸で 苦しゅない
※音頭は陽旋だが囃子は陰旋化しており全体的に陰気な雰囲気だが、倉木に伝わる数多くの踊りの中でも最も派手で、人目を引く踊りである。左手に持った扇子を素早く回しながら、右手で持った銭太鼓を揺すってカラカラと音を鳴らしつつ、その房飾りを振って右に左に回す。

もろさし 久住町都野、直入町下河原・原・柚柑子
〽それじゃしばらく もろさしやろな(ヤレショードッコイショ)
 誰もどなたも アノ品よくに(ソレヤーンソレソレ ヤンソレサ)
〽よいやそじゃそじゃ その様なれば 踊りゃできます 夜更けまで

(3)エイガサー ※三勝
 これは臼杵踊りの「三勝」で、臼杵から野津にかけてが本場。下句の頭3字を上句の後ろにくっつけて唄うのが特徴で、末尾の囃子も「ヤンソレ」の類ではなく、ほかの「三勝」とは毛色が異なる。
 
扇子踊り 三重町芦刈
〽節はエイガサーで地はやりかけのヨー 今のマタ
 流行の団七口説(エイガサー サイトコサイサイ)
〽願いあぐれば正宗公は 父の 仇を娘が討つは
※昭和30年頃までは三重町のほぼ全域で唄い踊られていたが、下火になった。野津の節に比べると細かい節回しが少ない。

由来 野津町野津市
〽どなたサー 様方 アラ由来でござるヨー
 どなたマー 様方 アラ丸輪の願い(エーイガサー サイトコサイ)
〽わしは 近頃 流行らぬ風邪で 声を とられて 蚊の鳴くほどで
※音引きが少な目で間合いのつまった節だが、細かい節をたくさん入れてこね回すように唄う。

由来 野津町田野
〽ここでマー 一つは アラ節ゅ替え願うヨー
 踊るマー お方よ アラお手振り直せ(エイガサー サイトコサイ)
〽お手が 直れば 足並み直せ 踊る お方よ しっかりしゃんと頼む

由来 野津町西神野
〽そこで団七 アラ刀を抜いてサー
 もうしこれいな アラ侍様よ(エーイヤサー サイトコサイ)
〽そこで與茂作 しんかたなさに 一手二手は 鎌の柄で受ける

(4)お夏 ※三勝
 これも臼杵踊りの音頭で、大野地方では野津・三重・犬飼にしか伝わっていない。「お夏々々夏吊る蚊帳は」云々を首句とするも、これは他愛のない文句で何のことはない。おそらく昔はこの唄に合わせて「お夏清十郎」を盛んに口説いたため、ある意味で段物の「イレハ」のような感じで同じような語感を持った「お夏々々夏吊る蚊帳は…」と唄い始めたのが、何の外題につけてもこれを首句とするようになったのだろう。

お夏 犬飼町大寒
〽伊予の宇和島長者のはんこヨー はんこマ(アーシッカリサイサイ)
 子供にゃ兄妹ござる
 「ヨーイガサーサノ ヨイガサノサ
〽兄の八兵衛の妹のお蝶 お蝶 生まれはきれいな生まれ

お夏 三重町芦刈
〽お夏ナー 夏々ヨー 夏かたびらはヨー 冬じゃマタ(シッカリサイサイ)
 冬々冬着るものは
 「焼餅ゃとっちょけ朝茶の子
〽節を お夏に 地はやりかけの 今の やりかけ団七口説
 「アヨーイガサッサデ ヨイガサノサ
※他地域に比べて頭3字を長く引き伸ばす傾向にある。

お夏 三重町菅尾
〽お夏ナー 夏々ヨ 夏かたびらよサー 冬はマタ(イヤコラサイサイ)
 冬々冬着る布子
 「ソラお月さんがちょいと出た松の影
〽節は お夏で 地はやりかけの お為 半蔵の心中口説
 「今晩の男衆さんな男前
〽佐伯 領土や 堅田が宇山 山じゃ ござらぬ宇山は名所
 「今晩の踊り子踊り好き
〽名所 なりゃこそ お医者もござれ 医者の その名は玄龍院と
 「今晩の踊り子さんなべっぴんさん
〽そのや せがれにゃ 半蔵というて 半蔵 もとよりきれいな生まれ
 「今度ん子は逆子じゃうんとけばれ
メモ:野津のものとは少し違い、頭3字をうんと引き伸ばす。踊り方はずいぶん簡略化されている。

お夏 野津町野津市
〽佐伯サー 領とや アリャ堅田が宇山ヨ
 宇山サ(アードシタ) なりゃこそ名所もござれ
 「アラお月さんがちょいと出て 山の上
〽名所サー なりゃこそ アラ医者もござれ
 医者のサ(アーイヤマカサイサイ) その名を玄了院と
 「アラヤンソレーサーサ ドッコイサノサ
〽玄了サー 息子にゃ アリャ半蔵とござるヨ
 半蔵サ(ハーシッカリサイサイ) 二十一男の盛り
 「アラ今度ん子は逆子じゃ うんとけばれ
〽男サー ざかりは アラ色する盛りヨ
 色をサ(ハーアリャコラサイサイ) 好んで着る糸仕立
 「アラ来るなら来てみよ 抱いて寝る
メモ:臼杵の旧市街の節よりも細かい節がたくさん入り、テンポも若干速い。

お夏 野津町田野
〽あらやマ 嬉しや アラまた落てて来たヨ
 落ててマ(アーヨヤコラサイサイ) 来たなら拾わにゃならぬ
 (ソラヤンソレサッサー ドッコイサノサ)

お夏 野津町西神野
〽私ゃナ 旅の者 ちょっと通りかけヨ
 不慮な(イヤコラサイサイ) 御縁でちょいと立ち寄りた
 「お月さんがちょいと出て 松の蔭
〽わしも 供養で 一節なりと 先の 太夫さんの助役しましょ
〽しばし 間は お休みなされ 先の 太夫さんの褒みょではないが

(5)風切り・弓引き ※三勝
 主に「風切り」「弓引き」に使う音頭で、2種類の節がある。①は通常「風切り」の音頭として唄われることが多いが、「弓引き」になっている場合もある。音頭から囃子から全てが陰旋で暗い雰囲気が感じられる。細かい節も音引きも少なく、唄い易い。②は概ね陽旋で、上句は高調子から入って下がり調子に進み、また上がって中音域に戻り、音頭が「チョイトエー」などと囃したらそれに続いて踊り手が「セガセー、セガセー」などと返す。そして下句の頭3字を短く押し込め、末尾は上がり調子で止め「ヤッチョイナンサー…」云々の囃子が入る。ずいぶんのんびりした雰囲気の田舎風の節だが、こちらの方が唄い方が難しい。

① 風切り・弓引き その1

風切り 朝地町志賀・上尾塚
〽奥の一間に花ゴザはえて(ヨイトナー ヨイトナー)
 酒やタバコをゆるりとあがれ(ハーヤッサガホイナー ヨーヤルナ)
※扇子の角をつまんでヒラヒラと翻しながら踊る。ゆったりとした踊りで、輪の中を向いたり外を向いたりするのを繰り返し、あまりその場から動かない。

風切り 緒方町辻
〽来るか来るかと川下見れば(ヨイトナー ヨイトナー)
 川にゃ柳の ソリャかげばかり(アーヤッサガホイナー ヨーヤルナ)
〽盆の踊りは伊達ではないぞ 先祖祖先のお供養に

風切り 緒方町原尻・馬場
〽お貸しなされよ先太夫様よ(ヨイトナー ヨイトナー)
 わしが当座の声継ぎしましょ(アヤッサガオイナラ ヨイヤルナ)
※輪の中を向いて扇子を細かく揺すりながら上げ下げし、両手ですくい上げて下ろして…で左右に流しながら下がったり出たりする踊りで、その場から全く動かない。

風切り 大野町夏足
〽先の仕口とまた延ばします(ヨイトナー ヨイトナー)
 背は小兵でござ候えど(アーヤッチョイナンサー ドッコイセ)
〽親の代々十九の春よ 平家方なる沖なる船の

弓引き 千歳村長峰
〽弓は袋に剣は鞘に(ヨイトセー ドッコイセー)
 源氏平家の御戦いに(アラヤッチョンナンサー ドッコイセ)
〽平家方なる沖なる船に 的に扇をさらりと上げて

弓引き 竹田市倉木
〽今度踊るは弓引き踊り(トナー ヨイトナー)
 しばしそれにて ソリャ頼みます(サーヤッサガホイナラ ヨーヤルナ)
〽踊り踊らば手に目をつけて 足を揃えて しなやかに
メモ:扇を返しながら両手で輪を描くように振り上げ振り下ろしでゆっくりと数歩進み、輪の中を向いて扇を引く。

九勝 荻町宮平
〽さあさどなたもこの調子なら(ヤレショーヤレショー)
 踊りゃやめまい ソリャ夜明けまで(アラヤッサガホイナラ ヨーヤルナ)
〽わしが口説は京都な江戸な しばし間よ お手振り頼む

団七踊り 熊本県高森町
〽姉の宮城野 妹の信夫ホイ(ヨイトセーヨイトセー)
 中に立つのが志賀団七よ(サマ ヤッサガホイナラ ヨイヤセノセ)

風切り 竹田市古園
〽思うがままならあの振袖と(ヨイトナー ヨイトナー)
 朝日差すまで ソリャ寝てみたい(アラヤッサガホイナラ ヨーヤルナ)
〽思い山々どの山見ても 霧のかからぬ 山はない

弓引き 久住町都野、直入町長湯
〽様は三夜の三日月様よ(チョイトエー チョイトエー)
 宵にちろりと見たばかり(トコイヤトコナンサー ヨーヤルナ)
〽踊り踊ろか弓引き踊り 弓の引く手も品よくに

② 風切り・弓引き その2

弓引き 朝地町志賀
〽よいなやれしょなどなたもよいな チョイトエー(セガセー セガセー)
 でけたでけたよその調子なら(アーヤッサガホイナー ヨーヤルナー)
〽国は関東で下野の国 那須与一という侍は
※扇子をくるくると翻す優美さと弓を引く所作の勇ましさを兼ね備えた踊りで、ところの名物といってよいだろう。扇子を右上でくるくる回す所作には平家の連が船の上に扇を上げて、できるものなら射貫いてみよと煽る様子を、弓を引くところはその扇を那須与一が狙うところがよく表現されている。源氏、平家、それぞれの様子を的確に表し、とてもよくできた所作である。他の踊りと異なり、左回りの輪で踊る。

弓引き 朝地町上尾塚
〽先の太夫さん長らくご苦労 チョイトエー(チョイトエー チョイトエー)
 わしが当座の声継ぎしましょ(ハーヤッサガホイナー ヨーヤルナ)
〽国は関東下総の国 那須与一という侍は

弓引き 大野町片島
〽それじゃしばらく弓引きしましょ チョイトナー(チョイヤナーチョイヤナー)
 過ぎし昔のその物語(ヤッチョイナンサー ドッコイセ)
〽国はどこよと尋ねてきけば 国は九州豊後の国で

弓引き 大野町夏足
〽月に群雲 花には嵐 コリャセー(コリャセーコリャセー)
 おごる平家に咲いたる花が(アーヤッチョンナンサー ドッコイサ)
〽夜半のひと咲き散りゆく姿 四国讃岐の屋島が沖の

銭太鼓七つ 竹田市倉木
〽今度踊るは銭太鼓の七つ チョイトエー(セガセーセガセー)
 しばし間はよろしく頼む(アーヤッチョイナンサー ドッコイセ)
〽様は三夜の三日月様よ 宵にちらりと ソリャ見たばかり
※右手で銭太鼓をカラカラ…と鳴らしながら房飾りを翻し、左手で扇子をクルリクルリと回し続ける踊り方の乙なこと、筆舌に尽くしがたい。

弓引き 直入町長湯
〽弓は袋に刀は鞘に チョイトエー(チョイトエーチョイトエー)
 槍は旦那の ソリャ床の間に(トコヤンチョイナンサー ヨーヤルナ)
〽様は出て待つ出るこたならぬ 出るに出られぬかごの鳥
※志賀の節とほとんど同じだが、こちらは音頭の「チョイトエー」と中囃子の間に休符が入り若干尺が長いほか、後囃子が半ば陰線化している。

(6)兵庫節 ※三勝
 これの本場は久住町で、大野地方ではほとんど唄われていない。志賀でも採集されていないが、或いは、古くは唄われていた可能性もある。①は都野周辺に伝わるもので、上句は低音から上がり調子に唄い始めて下がり、また上がって下がり、中囃子を挿む。②は、高調子から徐々に下がっていき、上がって下がり、中囃子を挿む。どちらも細かい節が多いが、特に①は技巧的な印象を受ける。

① 兵庫節 その1

団七踊り/兵庫/八百屋 久住町都野
〽姉の宮城野 妹の信夫アーヨイ(ヤレショードッコイショ)
 中を切るのは志賀団七よ(サマー ヨイヤサノサノ ヨイヤサノサ)
※兵庫(綾筒踊り)、団七踊り、八百屋(扇子踊り)に共通の音頭。二重の輪を立てて中の輪では団七踊り、外の輪では綾筒踊りというふうに同時進行で踊っていくこともある。

団七踊り 直入町下河原・原・柚柑子
〽姉の宮城野 妹の信夫ナ(ヤレショードッコイショ)
 中を行くのは志賀団七よ(アー ヨイガサノサノ ヨイガサノサ)

八百屋 直入町長湯
〽姉の宮城野 妹の信夫アーヨイ(ヤレショードッコイショ)
 中を切るのは志賀団七よ(サマー ヨイヤサノサノ ヨイヤサノサ)

② 兵庫節 その2

八百屋 竹田市古園
〽八百屋お七と国分の煙草(ヨイトナー ヨイトナー)
 色でわが身を ソリャ焼き捨てる(サマー ヨイヤーサノー ヨイヤサノサ)
〽唄は理で押す三味ゃ撥で押す 桶の魚寿司ゃ 蓋で押す

団七踊り 直入町長湯
〽姉の宮城野 妹の信夫ヨ(ヤレショー ドッコイショ)
 中を行くのが 志賀団七よ(ハーヨイガサノサノ ヨイガサノサ)
〽遺恨重なるアリャ父の仇 娘二人が仇を討つは
※唄い出しが高調子から下がっていく節と、低く入って上がって行く節とを適当に取り混ぜて唄う。①に入れてもよさそうな気がしたが、上句の末尾をこねまわさずに短く切っているので、一応②グループにした。

八百屋 荻町柏原・宮平・瓜作
〽八百屋お七とヒノクマ煙草(ヨイトセー ヨイトセー)
 色でわが身を サマ焼き捨てる(サマー ヨイヤソジャソジャ ヨイヤサノサ)
〽踊りゃゆるゆる 小囃子しゃんと 囃子なけらにゃ口説かれませぬ
※手踊りと扇子踊りがある。

八百屋踊り 熊本県高森町
〽八百屋お七のヒノクマ煙草ホイ(ヨイトセーヨイトセー)
 色で我が身を サマ焼き棄てる(サマ ヨイヤーソラソラ ヨヤサノサ)

綾渡盆踊り
「越後甚句(出踊り)」
 〽ヨーイーヨイーヨーイー
  宵にゃ来もせで いま夜 夜中 どこへ忍びの戻りやら 
「甚句(手踊り)」
 〽セー 綾渡踊りは板の間で踊れ
  板の小拍子でノーサ 三味ゃいらぬ トコドッコイドッコイショ
 〽綾渡参りゃれ皇太子様の 願い尊や観世音
 〽綾渡参りは一度じゃ知れぬ 見なよ経が嶺 金草鞋
「御嶽(扇子踊り・手踊り)」
 〽木曽へ木曽へと付け出す米は
  伊那や高遠の 伊那や高遠のお蔵米 トコショイ
 〽木曽へ木曽へと付け出す米は
  諏訪や高遠の 諏訪や高遠の涙米
「娘づくし(扇子踊り)」
 〽三つとせ みかん屋の娘はいつまでも
  きかん顔して粋な人 イロで裸になるわいな
 〽七つとせ 何を行っても晒し屋の娘
  人が言おうが笑おうが 年もとらずにイロさらす
「よさこい節(扇子踊り)」
 〽連れて行きたやお供がしたい
  せめて箱根の番所まで ヨサコイヨサコイ
メモ:越後甚句で1列に坪に繰り込み、輪を立てる。上記のほかに「高い山」「十六踊り」「笠づくし」「東京踊り」が残っており、10種類の踊りがある。無伴奏で、節が3拍子に近くなっている。扇子踊りは扇子の使い方が独特で、一つ一つの踊りの所作にそれぞれ特徴がある。手踊りもそれぞれおもしろく、殊に「甚句踊り」ではかいぐりをしながら左に傾いてナンバで横にずれて、右のムダ足を3度続けて踏むのが特徴的。輪の中を向いた状態が基本で、少しずつ右か左にずれていく踊りが多い。

北設楽盆踊り
「おさま甚句」
 〽おさま甚句はどこから流行った 三州振草 オサマ 下田から 
  (アどこから流行った) 三州振草 オサマ 下田から 
 〽三州振草 安いものは煙草 一両百出しゃ五駄買える 
  (安いものは煙草) 一両百出しゃ五駄買える 
「かんびょえ様」豊根村 
 〽かんびょえ様の一の御門の内へ めでたい鷹が巣をかけた
  巣をかけた 一巣もかけた 二巣もかけた
  三巣四巣七巣 八巣かけた 八巣かけた 
 〽かんびょえ様は飯炊き上手 七合の鍋に八合そえて
  八合そえて 水は少なし 炊く火は炭で
  殿御に見られて恥かいた 恥かいた 
 〽かんびょえ様は樵の娘 向かいの山で光るもの何だ 
  月か星か 蛍の虫か 蛍の虫か
  後に来る夜目の目が光る 目が光る 
 〽かんびょえ様は馬乗り上手 植田の中へ馬乗り込んで
  馬乗り込んで 小手をば翳し 四方を眺め
  今年ゃ豊年万作じゃ 万作じゃ 
 〽かんびょえ様の嫁入り道具 長持七棹 箪笥が十二 
  箪笥が十二 十二の箪笥に 油単をかけて
  締めよ越前 加賀の糸 加賀の糸 
「さんさ」東栄町
 〽段戸山越しまた山越えて 会いに来た殿 サンサ 帰さりょか 
  (サンサ 帰さりょか) 会いに来た殿 サンサ 帰さりょか 
「さんさ」豊根村 
 〽盆が来た来た田口まじゃ来たが ソリャ まんだ境川 サンサ 橋越さぬ 
  (サンサ 橋越さぬ) ソリャ まんだ境川 サンサ 橋越さぬ 
「さんさ」津具村 
 〽さんさ振れ振れ六尺袖を 親が見たがる サンサ 嬉しがる 
  (六尺袖を 親が見たがる サンサ 嬉しがる) 
「十六」
 〽今年十六 ささげの年よ 誰につましょか初なりを 
  (ササ初なりを 誰につましょか初なりを)
 〽今年初めて十六踊り 足で九つ手で七つ
  (手で七つ 足で九つ手で七つ) 
「しょんがいな節」 
 〽しょんがいなしょんがいなと言うたこたないが 
  今年ゃしょんがいなの世でござる ションガイナ 
  (アリャ言うたこたないが
   今年ゃしょんがいなの世でござる ションガイナ) 
 〽ござりゃ茣蓙敷く枕を直す 何が不足でおよられぬ 
  (枕を直す 何が不足でおよられぬ) 
「せこせ踊り」富山村
 〽せこせ踊るなら三人でも踊れ 四角三角 蕎麦のなり 
  三角四角 四角三角 蕎麦のなり 
 〽唄いなされよお唄いなされ 唄でご器量が下がりゃせぬ 
  ご器量が唄で 唄でご器量が下がりゃせぬ 
「せっせ踊り」
 〽せっせ踊りは切ない踊り
  親のねんねこさをもみ下げる(ササ セッセノドード) 
 〽せっせ踊りを横から見れば 猿が沼田をこねるよあ 
 〽こらさどっこいさで儲けた金を たった一夜でちゃちゃもちゃに 
「津具音頭」津具村
 〽津具はよいとこ柳の並木 娘可愛や柳腰
  柳腰 柳腰  娘可愛や柳腰
  (ソレヒケ ヤレヒケ アラヨイショヨイショ) 
 〽初音聞いたか天神山の 恋の初音の一声を 
  一声を 一声を 恋の初音の一声を 
「のーさ」<富山村> 
 〽盆よ盆よと春から待ちて 盆が過ぎたら ノーサ 何ょ待ちる 
  (過ぎたら盆が 盆が過ぎたら ノーサ 何ょ待ちる) 
 〽出せよ大黒 搗きょやれ恵比寿 つけて回せよ福の神 
  (回せよつけて つけて回せよ 福の神)

西春日井盆踊り
「しょんがい踊り」
〽ヒンヤーレ 盆が来たとて蓮の葉が売れる
 ヤーレ わしの道楽いつ売れる ションガイ
 ヨイソレ 鐘が鳴る 明けりゃお寺さんの鐘が鳴る ションガイ
〽一つ度胸だに買い遂げなされ 先のお客の前もある
 鐘が鳴る 明けりゃお寺さんの鐘が鳴る

阪本盆踊り
「開き」
 〽一つで開くのがひともじの花(ヨーイヤナー ヨーイヤナ)
  二つで開くのがふくりんの花(ヨーイヤナー ヨーイヤナ)
 〽三つで開くのがみかんの花よ 四つで開くのが蓬の花よ
 〽五つで開くのがいちょうの花よ 六つで開くのがむくげの花よ
 〽七つで開くのが南天の花よ 八つで開くのが山吹の花
 〽九つで開くのが小梅の花よ 十で開くのが唐辛子の花
「政吉踊り」
 〽エー 小代阪本ヨ 昼寝はヨ できぬ
  (エー淡路文蔵がヨ 殺された ショーンガヨ)
  アリャ殺された
  (エー淡路文蔵がヨ 殺された ショーンガヨ)
 〽小代阪本 今伐る桧(淡路文蔵の公事の金)
  公事の金(淡路文蔵の公事の金)
 〽小代阪本 四十と八戸(みんな政吉さんに救われた)
  救われた(みんな政吉さんに救われた)
 〽月は十月 日は廿七(今日は政吉さんの墓参り)
  墓参り(今日は政吉さんの墓参り)
 〽私ゃ愉快で踊るじゃないが(これも政吉さんへの恩返し)
  恩返し(これも政吉さんへの恩返し)
「天誅踊り」
 〽頃はコラ 文久の三年なるぞ
  亥年八月十七日よ(アー ソレサ コレサ)
 〽七つ半刻はや暮れ方に 鎧兜や太刀長刀や
 〽槍や鉄砲やさて陣太鼓 旗や指物 吹きなびかせて
「薬師踊り」
 〽よーお コリャヨーホーホ(ヨイヨ) アリャ広くその名は高く
  知られていますヨー(コレワイショイ)
 〽二つ 深い情けの仏 瑠璃光如来
「播磨」
 〽とろりヨーエ とろりとヨ 馬ヨ 追いかけて(ハリヤートセ ヨーイヨ)
  春はヨーエ 参ろやヨ ソーレワ伊勢様へ(ハリヤートセー ヨーイヨ)
「川崎」
 〽高いヨー 吊橋ヤーレ 風そよそよと(ヤソーレ)
  暑さ知らずのヤレコリャ 奥吉野ヨ
  (サーヤレオッセ ソリャオッセ サーヤットヤー ソレドッコイ)
「サノサ踊り」
 〽大和名所でヨ 見せたいものはヨ(サノサーヨイヨー)
  吉野桜にナ(コラチョイト 奈良の鹿
  サノヨーイコノナーライヨ サノサーヨイヨー)
 〽大和名物 見せたいものは 阪本踊りと奈良の筆
「役者」
 〽天誅口説のちょいと抜き読みよ(サーヨーイヨーイ ヨーイヤナ)
 〽下は富貴村 鳩の首かけて
「八つ拍子」
 〽恋しヨーホホホエ 恋しとヨー 鳴く蝉ヨ よりもヨ
  (ハイヤートコセ エイヨーイヤナ
   イヤハリャリャン コリャリャ エンソリャヨーイトセ)
  鳴かぬヨーホホエ 蛍がヨ ソーレワ 身を燃やすヨ
  (ハイヤートコセ エイヨーイヤナ
   イヤハリャリャン コリャリャ エンソリャヨーイトセ)
「まねき」
 〽一番がお伊勢の外宮内宮(ハレワシター コレワシタ)
  日本国参らす これが名所(サハ ヤートセー ヤートセ)
 〽二番にゃ二条の離宮城は 日本国照らす これが名所
 〽三番にゃ三条の行者さん 銭かけ登らす これが名所
 〽四番にゃ吉野の蔵王さん 片足上げるが これが名所
 〽碁盤にゃ五条のお代官 善悪分けるが これが名所
「都」
 〽十津川エー 村とて千本槍よヨーエ
  禁裏御守護の役人なれば(サーヤートヤー ヨーイヤサ)
 「アラ役人なればヤーエ
  これを語らい味方となして(サーヤートヤー ヨーイヤサ)
 「味方となして 五条川原で勢をば揃え
「ヤッチョンマカセ」
 〽盆にゃサ 踊ろよナー コラ正月にゃ寝ろや(ドッコイショ)
  今度にゃサ 九月にゃナ チョイト米刈ろや
  (ササ ヤッチョンマカナラ ヨイトキナ)
 〽盆と正月が一度に来たら こたつ背負って蚊帳かぶれ
「ナンチキドッコイ」
 〽大和阪本 一度はござれ 高野大峯 アノ中の宿
  (ナンチキドッコイ ナンチキドッコイ)
 〽きのこたずねて深山に入れば 里は秋晴れ修羅落とし
「ヤッテキサ」
 〽揃うた揃うたよヤーレ 舞子が揃うた(アレワイサ コレワイサ)
  秋の出穂より ヤレコリャよく揃うた
  (ヤレ ヤッテキサッサー コリャサッサ)
メモ:奈良県大塔村の阪本・小代・簾・天辻・中原・境野・塩谷の各集落に伝承されている盆踊りで、上記13種のほかにも「大文字屋」「豊年踊り」「やってきさ」などが踊られており、合計で20種類を越える。

西川盆踊り
1、大踊
「よりこ」
 〽峯の唐松 エーソーリャー 穂に穂が咲いて
  (サーなびけよ小松) エーソレーエーソレ (エイ 一の枝)
 〽雨はしゅげしゅげ 稲穂はさらなり よい世の中は この村へ
 〽寺のお庭の青竹召され 尺八竹に 世が伸びる
 〽今朝も浅瀬で筏を漕げば たもとに砂が千五百
「入端踊」
 〽ハーエーンョウ 踊りが参る どれから参る 加賀越前の京から参る
  ハーエーンー∃ー エーエンソーリャ エーン エーン 
  エーイヨーエーソーレーエー
 〽思いもよらぬ江戸船着いて 旦那も繁昌 寺繁昌
 〽お船のかかりをよくよく見れば
  お船は白金櫓は黄金 錦の帆かけあらみごと
 〽お船に召したは色なみ揃い
  下には銭積み中黄金 上には白金お積みある
 〽白金黄金の花咲き散れば みな国々が繁昌する
 「江戸にお城がある故に 思う殿御はみな江戸へ お江戸踊もひと踊り
 「江戸に下りし道すがら 瀬田の唐橋うち渡り
  関の地蔵に額を打つ お江戸踊りも一踊り
 「関の地蔵をうち過ぎて 伊勢の港に宿をうつ お江戸踊もひと踊り
 「伊勢の港をうち過ぎて 覚悟めされよわが殿よ
  箱根の山を難所とえ お江戸踊もこれまでよ
「忍び踊」
 〽わが殿は名古屋の普請で 三年お留守はいますまい 忍び踊もひと踊り
 〽さてもお留守はもの憂いものよ 相の殿御はなお恋し 忍び踊もひと踊り
 〽尾張で染めし帷子を 国のみやげに好まれて 忍び踊もひと踊り
 〽肩と裾には忍びを染めて 袂に恋の玉梓よ 忍び踊もこれまでよ
「鎌倉踊」
 〽鎌倉の 御所のお庭にうわなりふんじが始まる 鎌倉踊もひと踊り
 〽打つ姫は今年十三 打たるる姫はこんこ九つ 鎌倉踊もひと踊り
 〽つのよやこんねんの心で 鎌倉小太刀を構えて 鎌倉踊もひと踊り
 〽あれ召されよ わが姫たちはしんとの殿御とねとるまい 鎌倉踊もひと踊り
「御門踊」
 〽これのお門の御門を召され 唐門作りとうち見える 御門踊りも一踊り
 〽これのお庭のやよひと椿 先も残さず散りもせず 御門踊りも一踊り
 〽これのお背戸の八重糸桜 咲いて焦がれてあらみごと 御門踊りも一踊り
 〽これの館はめでたい館 黄金の真砂がざござごと 御門踊りもこれまでよ
「お花踊」
 〽京の北野のそうし山 藤を一本遊ばせて お花踊もひと踊り
 〽吉野の桜 野田の藤 高野の紅葉に鶯が お花踊もひと踊り
 〽一夜泊りし初恋を 初音を聞いてなすなれば
  いざや泊まろよここもとで お花踊もひと踊り
 〽四方四角に組みあげて 黄金座敷とうち見える お花踊もこれまでよ
「かけ入り」 略
「大もち」 略
2、餅搗き踊り
「伊勢音頭」
 〽サーヨーホイナーエ とろりとろりとヨ ヨイヨイ
  馬追いかけて サーヨーイセ エーコリャセ
  ヤレ 春はナーエ ござれやヨー ソリャーエ 伊勢様へ
  エーソリャー ヨートコセー エーヨーイヤナ ソリャ
  アレワイセー コレワイセー ソリャー ヨイトセ
 〽伊勢の雀が奈良へ巣をかけて ここは奈良かよ伊勢恋し
 〽伊勢へ伊勢へと萱の穂もなびく 伊勢は萱びき こけらぶき
「餅搗き唄」
 〽アリャ 祝いめでたのヨ ソリャ 若松様は
  アリャ 枝も栄えるヨ ソリャ 葉もしゅげる
  エイソリャ エーン エーン エー
  エイトーナー ソリャ エーン エイトーナー イヤサー
「松づくし」
 〽一本目には池の松 二本目には庭の松
  三本目には下がり松 四本目には島の松
  五本目には五葉の松 六つ昔は高砂で
  七本目には姫小松 八本目には浜の松
  九本目には九葉の松 十で豊国の伊勢の松
  松に鶴なら池には亀よ 内にはお嬢さんが恵比寿顔
  鶴は千年 亀は万年 松はいつまでも青々と
  雄松 雌松 五葉の松 あらめでたいの松づくし
  餅はねれたがとり手が見えぬ とり手や臼のかげ ヨーソリャ いかきどり
  祝いめでたで始めた餅を 祝いめでたで搗き納め
「数え唄」
 〽アリャ 一で俵をふんまえて サーエートナイヨサ
  ニでにっこり笑うて サーエートナイヨサ
  三で酒を造りて サーエートナイヨサ
  四つ世の中良いように サーエートナイヨサ
  五ついつものごとくに サーエートナイヨサ
  六つ無病息災に サーエートナイヨサ
  七つ何ごとないように サーエートナイヨサ
  八つ屋敷を広めて サーエートナイヨサ
  九つ小倉を建てならべ サーエートナイヨサ
  十で宝を納めた サーエートナイヨサ ササナーイヨサ
3、バカ踊り
「木曽節」
 〽木曽のナ 仲乗りさん 木曽の御嶽さんは ナンジャラホイ
  夏でも寒い ヨイヨイヨイ ヨイヨイヨイノ ヨイヨイヨイ
 〽袷 袷やりたや チョイト足袋そえて
「ホイホイ」
 〽行たら見て来い名古屋の城を ホイホイ
  金のしゃちほこヨ 雨ざらしヨ ヨイトコシャンセ ドッコイショ
「五条や橋本」
 〽五条や橋本を車が通う ドッコイショ あれは浮き世のヨ 花車
  サノヤレ ドッコイサノサノ ドッコイサデショ
 〽五条で五十日よ橋本で二十日 嫌な和歌山じゃただ七日
 〽五条から十津川までは二十と一里 なぜに鉄道が着かぬやら
「今の川堀」
 〽今の川掘に何が良うて惚れた 茜だすきがヨ 良うて惚れた
  アソコジャイ ソコジャイ
 〽茜だすきが良うて惚れたなら たすき切れたら縁切れる
 〽縁の切れ目にこの子ができて この子やさしや縁の綱
「せんよ椿」
 〽せんよ椿はお庭の飾り 娘よいのは家の飾り サノーエー ドッコイショ
「有田節」
 〽私ゃヨー コリャ 有田のヨ サードッコイ  コーリャコーリャイ
  みかんの接ぎ木 台は ナンジャイナ ササ 柚の木よ
  チョイト ほはみかん サーヨイヤイ ヨイヤヨ チョイトチョイト
 〽今度来るときゃ持てきておくれ 有田みかんの鈴なりを
「さのさくずし」
 〽花づくし 山茶花 桜か水仙か ドシタドシタ
  寒に咲くのは梅の花 ヨイショ 牡丹芍薬ネ 百合の花
  オモトのことなら南天 菊の花
  ナンダ ヨイショヨイショヨ ナンダ ナンダ
「サノーサノサイ」
 〽サンヤレ茶屋の婆 なぜそれ注さぬ サノーサノサイ
  注さにゃヨ 酒屋がヨ サマ 建たんとは サノーサノサイ
「鴨緑江節」
 〽十津川の 清き流れに筏を下す ヨイショヨイショ
  谷間の鶯 アリャ つれて鳴く ヨイショ
  筏は矢のよにヨ アリャ 下りゆく ヨイショ
  目指す マタ チョイチョイ 新宮も近くなる
  チョイチョイ チョイヤナー チョイチョイ
「追分」
 〽盆の十四日のヨ 踊りのヨ ハヨイショコラ 晩に ナンジャイ
  扇子投げたがヨ ハヨイショコラ 届いたかとは ナンジャイ
  アチョイトチョイト チョイトダヨ
 〽届きましたよ黒骨扇子 折り目折り目に文書いてとは
 〽盆と正月が一度に来たら こたつ抱えて蚊帳の中とは
「笠踊り」
 〽アリャ 輪島ナ 出るときゃ ホイ 涙で ホイナ 出たがヨ ホイナ
  今じゃ輪島の ホイナ 風も嫌ヨ
  「アリャ 浮いたか瓢箪 軽そに流れる
   行く先ゃ知らねど あの身となりたや ホイソレ ホイソレ
 〽とんと飛ぶ鳥 頭が白い 頭ばかりかおもしろい
  「あちらの藪からこちらの小藪へ チュンチュンバタバタ
     羽交を揃えてしなよくとまるよ 止めて止まらぬ色の道
 〽わしと行かんか板持ちゃさせぬ さすりゃ米屋か呉服屋か
  「惚れたらついて来い箱根は番所じゃ 男は通すが女は通さぬ
   通さぬときには縁切る身となる
 〽ござれ金持ち宝を比べ 千両箱より子が宝
  「負う子も抱いた子も縁の端這う子も ふんどし担いで獅子舞する子も
   あんたの子じゃないか 縁づきするまで世話にゃなるまい
 〽とんと戸立てても細目にあけて 敷居枕に殿を待つ
  「餅米三升に合わせて六升 臼へ入れてはたいて細かい粉にして
     湯で練って団子にして 串に刺してトントコトン
「トントンドッコイショ」
 〽来るか来るかとヨ 川下見れば トントン ドッコイショ
  川原柳のヨ ホントニ 影ばかり トントン ドッコイショ
 〽川原柳は何見て暮らす 水の流れを見て暮らす
「ラッパ節」
 〽猿飼橋から下見れば 上り来るのは吉野号
  吉野号には用がない コラ 乗っている船頭さんに用がある ナントナント
 〽あなたに貰うたハンカチの 松葉の模様が気に入った
  なぜに松葉が気に入った 枯れて落ちても二人連れ
 〽あの子に貰うたハンカチの 蝶々の模様が気に入らぬ
  なぜに蝶々が気に入らぬ よそに花咲きゃ飛んでいく
 〽あの子に貰うたハンカチの 紅葉の模様が気にくわぬ
  なぜに紅葉が気にくわぬ 紅葉色づきゃ秋が来る
「ヤットヤ」
 〽盆にゃ踊ろよ正月にゃ寝ろよ 花の サドッコイドッコイ
  八月にゃ嫁いろよ ソレソレヤートヤーヨ ヤトヤーヨイヨイ
 〽盆が来るとも正月は来るな 若い姉らが年をとる
「串本節」
 〽習いましたよ串本節を 尻をひっからげて走るよな
  アラヨイショ ヨーイショヨイショ ヨーイショヨイショ
「帽子片手に」
 〽帽子片手に皆さんさらば 長のお世話にサ なりました
 〽明日はお立ちかお名残惜しや 雨の十日も降ればよい
 〽雨の十日はまだまだおろか 槍の二十日も降ればよい
「ヨイショコラコラ」
 〽ヨイショコラショと囃しておくれ ヨイショコラコラ
  囃子ないのにゃ ソリャエ 踊られぬ オドリガ ヨイショコラコラ
 〽ヨイショコラショで儲けた金も ヨイショコラショで皆遣うた
「月は無情」
 〽月は無情というけれど ヨイショ
  月より主さんまだ無情 ヨイショヨイショ
「関の五本松」
 〽ハー関の五本松 ドッコイショ 一本切りゃ四本
  あとは切られぬ夫婦松 ショコホイ ショコイチリキヤノホンマツホイホイ
「ヤッチョン踊り」
 〽ヤッチョン踊りに コラ 太鼓はいらぬ ヨイトソレ
  太鼓サ 持て来てよ コラ 恥かいた
  ヤッチョンマカセテ ヨイトキタ ヨイトソレ
「宮津節」
 〽丹後但馬は米どこ田どこ ドンドン 娘やりたや婿ほしや
  「丹後の宮津でドンスドンス
「磯節」
 〽磯で名所は大洗様よ 松が見えます チョイト ほのぼのと
  松がネ 見えます コラショイ 松が見えます
  イソ ほのぼのと サイショネ ドンドン
「高い山」
 〽高い山からヨ 谷底見ればヨ 瓜や茄子のヨ 花盛りヨ
  アレワードンドンドン コレワードンドンドン
「ストトン節」
 〽一つの小言は何じゃいな 人目忍んで寝た夜は
  かわいかわいと抱きしめて 昼は互いに 知らぬ顔 ストトン ストトン
 〽二つの小言は何じゃいな 二股街道で道迷うて
  辻の地蔵さんに訊いたなら 石の地蔵さんで知らぬ顔
 〽三つの小言は何じゃいな 皆世界の金持ちが
  金のあるときゃちゃらほらと 金がなくなりゃ知らぬ顔
 〽四つの小言は何じゃいな 嫁をいじめる姑は
  なんぼ信心したとても 神や仏は知らぬ顔
 〽五つの小言は何じゃいな 一家親類友達が
  金を貸せよと言うけれど 聞いたふりして知らぬ顔
 〽六つの小言は何じゃいな 無理におさまる青二才
  君じゃ僕じゃと言うけれど いろはのいの字も知らぬ顔
 〽七つの小言は何じゃいな なんぼ可愛い孫じゃとて
  わけのわからぬ駄々を言や チイチイパッパで知らぬ顔
 〽八つの小言は何じゃいな やけに洒飲みクダを巻き
  どいつこいつとも喧嘩して 酔いが冷めたら知らぬ顔
 〽十の小言は何じゃいな 時計もないのに鎖つけ
  時間何時と訊いたれば 空を眺めて知らぬ顔
「草津節」
 〽草津よいとこ一度はおいで アードッコイショ
  お湯の中でも コリャ 花が咲くヨ チョイナ チョイナ
「シャシャシャノシャンシャン」
 〽今夜風呂焚く風呂入りにおいで シャシャシャノ シャンシャン
  お風呂ついでに ヨイトコショ 泊まりゃんせ
  シャシャシャノ シャンシャン
「東京音頭」
 〽ハー 様の居眠り チョイト 窓から見れば ヨイヨイ
  五月野に咲く 五月野に咲く百合の花 ソレ
  ヤートナ ソレヨイヨイヨイ ヤートナ ソレヨイヨイヨイ

鞍手盆踊り
「雁と燕」
 〽雁と燕はどちらが可愛い ややを育つる燕が可愛い
  花を見捨つる雁がねならば 文の便りもマタ 頼もしそうかいな
  「エーそうじゃいな
 〽梅と桜はどちらが可愛い 口実結びしお梅が可愛い
  仇に桜は嵐に揉まれ 曇る心も 頼もしそうかいな
 〽恋の源たずねてみれば 神の昔の二柱
  君おのころ島にましましてより 賎が伏屋の 我々までも恥ずかしや
 〽東名所は名も懐かしく 春の初めは梅若詣で
  都鳥浮くあの隅田川 恋風そよそよ 吉原桜なびき染め
 〽思い深草小将様は 小野小町の色香に迷い
  百夜近いて通いしうちに 露と消えし 胴欲そうな
「花匂う」
 〽花匂う 山の端出づる月影に 光の君にいつ会い染めて
  思い明石の浦波に 立ち遅れつつ見る目かる あまのみながら恋忍ぶ
 〽梅香る 東ゃ軒の端に 早くも慣れて啼く鶯の
  初音しおらし娘気の 丈の思いを一筋に 松の齢を契りけり
 〽恋の種 誰いつの世に蒔き初めて 情けの見栄え今日咲き染めて
  愛し可愛いの花盛り 男盛りや色盛り 遊び嵩じて粋となる
 〽豊年は 民も栄ゆる万代に 七福神の舞い姿こそ
  恵比寿大黒始めには 鯛つり昆布 巻きするめ 末は鶴亀 五葉の松
 〽秋の夜の いとど月影さやけきて 露にわが身を世にうつせ草
  姿移ろう鏡草 わけて優しき姫つつじ 君に思いの深見草
 〽千代八千代 御代も栄ゆる常盤木の 松の葉色はなお寿ぎて
  茂れる枝のその中に 鶴のつがいの巣篭もりや 君が齢は長からん
メモ:豊前方面では現在、「思案橋」「高い山」など近世調の盆踊り唄が幅を利かせているが、「ひよひよ」「松坂」など特殊な字脚の唄もまだ残っている。かつてはここに紹介したような「雁と燕」「花匂う」など、小歌踊りの名残とも思えるような唄も広く行われ、殊に日若踊りのそれが著名である。この種のものは大変優雅でよい唄・踊りだが、あまり難しくて伝承者がおらず途絶えたものも多い。「雁と燕」は古い流行小唄「ほんかいな」と同種で、この種の盆踊り唄・座興唄はかつて全国的に行われた。著名なものでは山形の「菊と桔梗」があるが、ほかに福知山踊りの小唄、大分県では堅田踊りの「ほんかいな」「花扇」など、数多い。

福岡「添田盆踊り」
「松坂」
 ○松坂揃うたエイコノショ(サカホイ) ほんに松坂よく揃うた
  「松坂揃うたサ アリャリャ ヨイヤヨイヤヨイヤナ
 〽向かいの山に咲く花は 桔梗や刈萱 女郎花
  「北山照らすサ アリャリャ ヨイヤヨイヤヨイヤナ
 ○北山照らす ほんに北山よく照らす
  「北山照らす
 〽太閤記十段目 明智光秀 竹の槍
  「母親殺す
 ○母親殺す ほんに母親突き殺す
  「母親殺す
 〽寝ても寝ても寝あかぬは 夏の昼寝と冬炬燵
  「殿御の添い寝
 〽筒や筒 筒井筒 井戸の釣瓶の縄切れに
  「縄もてござれ
 〇縄もてござれ ほんに縄もて早うござれ
  「縄もてござれ
 〽若い衆さんの手拭は いかなる紺屋が染めたやら
  「中端を紅で
 ○熊谷さんは 花の敦盛討ったとさ
  「墨染衣
 〽一つや二つや三つや四つ 五つ六つなる幼児が
  「父母恋し
 ○巡礼御報謝 背に笈摺 杖と笠
  「しおらし娘
「ひよひよ」
 〽ひよひよと 鳴くがひよどり(お池に住むが鴛鴦)
  住むが鴛鴦(お池に住むが鴛鴦)
 〽鴛鴦の 想い羽をば(一しゅげ欲しや頼みましょ)
  欲しや頼みしょ(一しゅげ欲しや頼みしょ)
 〽一しゅげは 天に立つとも(想いの羽になるまい)
  羽になるまい(想いの羽になるまい)
 〽天竺の 天の川には(尺八竹が流れる)
  竹が流れる(尺八竹が流れる)
 〽手にとりて 吹いてみたれば(恋しき殿の音がする)
  殿の音がする(恋しき殿の音がする)
 〽あの山に 木伐る女は(殿御持たで木を伐る)
  持たで木を伐る(殿御持たで木を伐る)
 〽殿御 持つは持ったが(北山中で討たれた)
  中で討たれた(北山中で討たれた)
 〽討つ殿は 鎧兜で(討たれし殿は丸腰)
  殿は丸腰(討たれし殿は丸腰)
 〽討つ殿は つつや五になる(討たれし殿はつつ二十)
  殿はつつ二十(討たれし殿はつつ二十)
 〽つつ二十を 厄と申します(厄負けしたかわが殿)
  したかわが殿(厄負けしたかわが殿)
 〽娘には 今朝の仕事には(寝茣蓙を上げて髪をとけ)
  上げて髪をとけ(寝茣蓙を上げて髪をとけ)
 〽嫁女には 今朝の仕事には(寝茣蓙を上げて麦を搗け)
  上げて麦を搗け(寝茣蓙を上げて麦を搗け)
 〽搗く麦は 四斗や四斗五升(湿りの水が五斗五升)
  水が五斗五升(湿りの水が五斗五升)
 〽五斗五升の 水はいるまい(涙で搗いてみせましょ)
  搗いてみせましょ(涙で搗いてみせましょ)
 〽娘には 鯛の浜焼き(嫁女にはこちの小頭)
  こちの小頭(嫁女にはこちの小頭)
 〽小頭も 皆はやるまい(小髯のもとに身がある)
  もとに身がある(小髯のもとに身がある)
 〽あの山は 親のたて山(見上げてみれば懐かし)
  みれば懐かし(見上げてみれば懐かし)
 〽あの山に たたら大木(都に流行るもみの木)
  流行るもみの木(都に流行るもみの木)
 〽あの山に 二度と行くまい(烏が七羽 舞いよる)
  七羽舞いよる(烏が七羽舞いよる)
 〽七羽とは なんぼ七羽か(十三連れが七連れ)
  連れが七連れ(十三連れが七連れ)
「英彦山踊り」
 〽編笠さんはエイコノチョ(アーヨイトコソリャ) 少しお顔が見たやサ
  叶わぬ(ドッコイ) 浮世ヤー(サーハリャリャ ヨイヤヨイヤヨイヤサ)
 ○東山に咲く花は 桔梗 刈萱 女郎花
  穂に出る(ドッコイ) 薄ヤー(サーハリャリャ ヨイヤヨイヤヨイヤサ)
 〽来い来い小女郎 ござれ髪結うてとらしょか 蝉丸 髷に
 ○忠臣蔵初段 顔世御前を召出して 兜の 目利き
 〽与市兵衛は 縞の財布の五十両 命を 落とす
 〽お軽は二階 由良の長文読み下す 九大夫は 下に)
 〽貴方はお上手 私ゃ下手将棋飛車角 飛車角 とられ
 〽瀬田の橋越え やがて大津や三井寺の 矢走に 帰る
 〽矢走の船は 風の間に間に帆を上げて 波路を 帰る
メモ:「ひよひよ」は特異な字脚が注目されるが、これは近世調以外の流行小唄で、かつては広く行われたものだろう。大分県では一部地域で同種の唄が、羽根つきの遊び唄として唄われた。「松坂」と「英彦山踊り」は同種で、どちらも字脚を混合して、2つの節を取り混ぜて唄う。殊に松坂は節がよく、各節結びの節をぐっとせり上げて思い切り伸ばすところが耳に残る。

日若踊り
「思案橋」
 〽この町は繁盛 末は鶴亀五葉の松
  鶴亀末は 末は鶴亀五葉の松
 〽若松様よ 枝も栄えて葉も繁る
  栄えて枝も 枝も栄えて葉も茂る
 〽思案橋越え 来るは誰ゆえそ様ゆえ
  誰ゆえ来るは 来るは誰ゆえそ様ゆえ
 〽思案橋越え 行こか戻ろか思案橋
  戻ろか行こか 行こか戻ろか思案橋
 〽編笠さんよ 少しお顔が見とうござる
  お顔が少し 少しお顔が見とうござる
 〽辛抱は宝 年の寄るほど楽になる
  寄るほど年の 年の寄るほど楽になる
 〽北山時雨 曇りなき身は晴れてゆく
  なき身は曇り 曇りなき身は晴れてゆく
 〽この町に二人 どちが姉やら妹やら
  姉やらどちが どちが姉やら妹やら
2、梅の春
 〽万代の 民の竃も賑わいて 袂も揃う舞の手に 多賀の神に歩み行き
  葦の川岸うち連れて 老いも若いも一様に 霊棚祀る一節に
  またも催す浜風に 葦もさわ立つ葦川の 流れを汲んで行く年も
  謡う小歌のおもしろや
3、浦島
 〽名にし明石に仮寝の旅路 都恋き旅枕 袖にもつるる秋風や
  若葉の色深み 慕うその身のついうたた寝の はかなく冷めし袖の露
4、加賀の千代
 〽賑わいや 日若祭りも秋過ぎて 人の思いも神さんに
  頼むの雁と一筆に いつしかここに葦川の 流れも清く水の面
  渕瀬とかわる月の船 エー賑わしき多賀の宮 後の逢瀬を待つばかり
  願う心を残すらん 天地の恵み深くも波静か 五風十雨の潤いに
  八束穂稔る国豊か 鎖さぬ御代のありがたき
  八千代も千代も尽きせなき 治る年のしるしには
  エー賑わしき民の業 鶴と亀との舞い遊ぶ げにもめでたき例かや
メモ:「思案橋」以外の3種は古式ゆかしい雰囲気である。唄や踊りがあまり難しいため「思案橋」以外を省略することが多く、伝承者の減少が著しいとのこと。なお、この「思案橋」は近世調になる前のもので、同種のものは大分県佐伯市の堅田踊りでも唄われる。一般に「思案橋」というと近世調に変化した節の方が優勢で、福岡県のほか大分県北部、佐賀県などでも盛んに唄われ、その文句は「思案橋から女郎屋が見ゆる、行こか戻ろか思案橋」などがある。

門司盆踊り
「長刀踊り」
 〽今はすくりを家業となさる(サノヨイヨイ ヨイヤサノサ)
  田代村にてお暮らしなさる(サノヨイヨイ ヨイヤサノサ)
 〽それに数多の兄弟ござる 末な息子に吉衛というて
「馬追踊り」
 〽義理という字は何から生える(ソレーショイ ショイトコショイショイ)
  思慮合うたる種から生える(アヨイヤマカセー ヤトエー)
メモ:長刀踊りは、これと同種の音頭が大分県北部に至る広範囲で流行した。大分県では「小倉」と呼んでいる。

行橋盆踊り
「高い山」
 〽高い山からヤレ 谷底見ればナ(ヨイ)
  瓜や茄子の花盛りヨ(アレモ ヨイヨイヨイ)
 〽高い山から 低い山見れば 高い山よりゃ低うござる
 〽高い山から 握り飯こかしゃ 烏よろこぶわしゃひもじ
「長州踊り」
 〽ハーヨーイヤサーエ 花はいろいろ文化の花が(アーヨーヤルナ)
  開きましたよ サンサ 稗田町
  「アラヨーヤルヨーヤルサーンサエト サンサで踊りは大極上で
   皆さん親達ゃあるかいな 親はあれども極楽 ハラエー
 〽稗田名所は数多けれど わけて目に立つ 銀杏の森
  「サンサで踊りは大極上で これがまたお俊伝兵衛 お俊伝兵衛は猿踊り
 〽稗田よいとこ一度はおいで 秋のナバとり 蛍狩り
  「サンサで踊りは大極上で これがまた雷の女房 上が鳴らねば下が鳴る
「ばんば踊り」
 〽ハーヨイショコラヨイショ何からやろか
  私ゃちょいと出の田舎の者で 何というても何頼りだに
  知らぬ中から二口三口 やりちゃみましょかやりかけちゃみろか
  ここに読み出すあの外題には 古き外題にござ候えど
  鈴木口説と出かけちゃみろか…
「四十や」
 〽四十や八字のいろはの踊り(ハーヨーイヨイ)
  揃うた揃うたよ踊り子が揃うた
  (ハーヨーイヨーイヨーイトナ アリャリャ コリャリャ ヨーイトナ)
 〽稲の出穂よりゃまだよく揃うた さんさこれより外題にかかる
 〽かかる外題を尋ねてみれば 世にも名高い仇討口説

向島盆踊り
「一つ拍子」
 〽花のお江戸のそのかたわらに(コラショイ)
  さてもヨ 珍し心中話(アラヨイヤサノセ ヨンヤサノセ)
「二つ拍子」
 〽播州ヨ 高砂宝木の 姫路の(ホイ) 町にてヨ 中の町
  (アラヨンヤサノセ ヨンヤサノセ)
 〽田島屋さんと町人の子供 子供兄弟は二人持つ
「三つ拍子」
 〽河内の国では住人の のぼよし長者の俊徳は(アヨーイヨイ ヨーイトナ)
 〽幼うて母さんに死に別れ 継母の親にと仕えする
「四つ拍子」
 〽今度エ 播磨の大分限者の(アドーシタドーシタ)
  ところ申せば編干じゃそうな
  (アラヨーホイヨーホイ ヤイヤナ アリャサ コレワイサー ヤートセ)
 〽梅も色よき粋なる娘 いつの頃やら三病の病
メモ:尾道市向島

本村盆踊り
「きそん」
 〽ヤーハレー 踊りゅ踊るにゃエーヨー お寺がよかろ
  お寺がよかろ 踊りゅヤレ 踊るも後生ヨ 願うエーイ
「大坂」
 〽ハ東西ナー 東西ナー(ヨーイ) 東西南北静かもれ
  (アーヤートナー ヤートナー)
 〽静かもれとは御免なれ わしが一重の頼みがござる
「麦さがし」
 〽今の音頭さんはいずれでどなた(ヨイサーヨイサー)
  声もよい声よ節ゃ面白いノ(ヤーハーレノー ヨーイサーノセ)
 〽私ゃあのようにやるこたならぬ 声は悪いし節ゃなおまずい
「伯耆」
 〽アー 花のお江戸のその傍らに(ヨーイトセ)
  さても珍し心中話(サーマヨーイヨーイ ヨーイヤナ)
「七つ囃子」
 〽アー 花のお江戸のその傍らに(アラショ コラショイ)
  さても珍し心中話(アラヤートナーエ ヤートナ)
メモ:安芸高田市美土里町本村

甲立盆踊り
「きそん」
 〽踊り踊るにゃエーヨー お寺が良いで お寺が良いで
  踊りゃヤレ 踊るもヨ 後生願う
 〽踊り子が来た信田の沖に 紅の鉢巻 しゅすの帯
 〽寺に参りてどこの間につこか 後生大事と中の間に
 〽寺に参りてお経読み聞けば とかくこの世は仮の宿
 〽寺に参りて早う目に付くは 阿弥陀如来のお姿よ
「片拍子(扇子踊り)」
 〽アー京の清水 縁の下(ホイ) 菰や蓆を夜着として
  (アレー ヤートナー ヤートナー)
 〽俊徳丸をば休まれる 河内の国では並びない
「諸拍子」
 〽アーよいやよいやでまたどうじゃ(オイーオイ)
  なんとお稚児よ愚かな訪ね(アーヨーイヤナー ヨーイヤナ)
 〽旅の他国で人訪ぬるは 国は何国 ところはどこと
「三角踊り」
 〽アー 一つぁ人々よく聞き給え(ヤッショ コラショイ)
  二つぁ不浄のヨ 境涯なるぞ(アラヤートナー エーヤートーナ)
 〽三つ未来は大事じゃほどに 四つ夜昼 念仏申せ
「源七さん」
 〽三左もとより武士なる生まれ(アヨーイヨイ)
  今は世に落ち哀れな暮らし(サーマ ヨーホイヨーホイ ヨーイヤナ)
 〽母を一人養いかねる 次の小村の左官屋さまへ
「四方踊り(しんぱん)」
 〽そこでナーエ 二親言われしように(アヨーイセー コーラセ)
  今年ゃ行くなや行なや権現ヨ(アーヤートナー ヨーイサーノセ)
 〽聞けば世間に不良な病 風邪に麻疹に疱瘡の序病み
「十七踊り」
 〽十七がヤーハレナーエー 汲んだる水で(イヤサ コリャサ)
  ヤ影を見るヤーハレナー エー影を見るヤーハレ
  ア影を見るヤーハレ 様美しやわが姿
 〽お寺にはお経の声やら杢の音
  杢の音 杢の音 罪障消すやリンの音
 〽十七が嫁入りするとてカネつけて
  カネつけて カネつけて 殿御に忠義を立てまする
 〽聖徳は手習い子供の守り神
  守り神 守り神 これこそ文字の始まりよ
「麦さがし」
 〽今度ナエー 鞍馬のヨー 安珍様は(アヨイトセー)
  親のヨー 代から大森廻る(ササヤンハレナー ヨーイサーノセ)
 〽行けど戻れど庄司が茶屋へ 煙草吸いつけ寝泊りなさる
「手拭踊り」
 〽そこでおセキの言われしように(アオーイナートーコセ)
  親のあるうち子のないうちに(サマヨーホイヨーホイ ヨーイヤナー)
 〽ならぬ世帯も貰わぬうちに どうで参らば杯ょ致す
メモ:安芸高田市美土里町のうち旧甲立町域

●●● その4 ●●●

様よ忘れた 豊前坊の原で 羅紗の羽織を 茣蓙とした
私ゃ英彦山 ざっつさんの娘 米のなる木を まだ知らぬ
 米のなる木を 知らんなら教ゆ すわる高木の 裏を見よ
草本金山 かねつく音は 聞こえますぞえ 守実に
 花の草本 まわりの山は ここもかしこも 金が出る
 唄じゃ小屋川 仕事じゃ吉野 花の草本 御所どころ
花の奥谷 流れちゃならぬ 植えた木もありゃ 花もある
豊前山国 その山奥で 一人米搗く 水車
上りゃ英彦山 下れば中津 ここが思案の 朝日橋
春の耶馬溪 谷間の桜 三日見ぬ間に 色がつく
 秋の耶馬溪 おしゃれなところ 山は紅葉で 化粧する
咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る
 花は散るとも 繋がにゃならぬ 中津お城の 殿の駒 
 中津中津と さしては行けど どこが中津の 城じゃやら
中津十万石 おどいもんなないが おどや垂水の えびが淵
中津小犬丸 米屋の奥へ 広津小川に 身をはむる
番所役人 親切物よ 腹の痛い時ゃ 万金丹
私ゃ小祝 浜辺の生まれ 色の黒いのは 御免なれ
安心院五千石 底霧分けて 様の姿は もう見えぬ
 安心院盆地に 底霧こめて 上に浮かんだ 豊後富士
安心院盆地の 不思議な話 語り伝えて 七不思議
 水沼お水は 濁らず涸れず いざり大蔵の 脚も立つ
 忠義一途の 二階堂様の 五輪汚すな 腹がせく 
 騒ぎ過ぎると お叱り受けて 泣かぬ蛙の 最明寺 
 乳を貰いに 五十里百里 岩に刻んだ 生不動 
 七つ星さま 六つこそござる 一つ深見の 剣星寺
 奇岩屹立 麓は桜 床し宇佐耶馬 仙ノ岩
 佐田の京石 昔の名残 都偲んだ 祭り跡
宇佐の三瀑 西国一よ 古く賑わう 滝参り
 裏に回って 眺める滝は 日光裏見と 竜泉寺 
 さすが雄滝 西椎屋凄や しぶき巻き上げ 鳴りたぎる 
 東椎屋は 九州華厳 絵でも見るよな 艶姿
バスは二色 湯の香を乗せて 安心院安心院と 一筋に 
桜名所は 香下神社 山も社も 花霞 
走る早瀬の 三つ又川を 蹴りて行き交う 鮎の群れ 
春は岳切 布目の流れ 岸の石楠花 しだれ咲き
昔栄えた 仏法の形見 国の宝の 竜岩寺 
親が大工すりゃ 子までも大工 宇佐の呉橋ゃ 子が建てた 
 宇佐の百段 百とは言えど 百はござらぬ 九十九段
 宇佐に参るよりゃ お関に参れ お関ゃ作神 作がよい
 宇佐に参るよりゃ 御許に参れ 御許元宮 元社
 宇佐にゃ参らず 宇佐餅ゃ搗かず 何を力に 髪梳こか
 見ても見事な お宇佐の榎木 榎の実ゃならいで 葉が繁る
豊前長洲の エビ打つ音が 聞こえますぞえ 向うが島
臼野港に 二瀬がござる 思い切る瀬と 切らぬ瀬と
見目の長崎 香々地の尾崎 仲を取り持つ みやの山
 うちのお殿さん 長崎鼻で 波に揺られて 鯛を釣る 
 鯛は周防灘 港は香々地 海も情けも 深いとこ
 深い情けに 命をかけて しけりゃ漕ぎ出す 助け船
 助け上げられ 抱き締められて 寝たがその子の 名は知らぬ
香々地ゃよいとこ 海山近い 娘器量良し 仕事好き
 浜の娘は 藻に咲く花よ 波の間に間に 夫婦岩
盆の踊り子が 塩浜越えて 黒い帯して 菅笠で
来浦浜を 鳴いて通る鴉 金も持たずに 買う買うと
 来浦で名所は 金毘羅様よ 島が見えます ほのぼのと
 三十五馬力の 発動機船で 行くは漁が島 下関
富来よいとこ 一度はおいで 日本三つの 文殊ある
守江灯台 霞がかかる 私ゃあなたに 気がかかる
 わしの思いは 神場の浜じゃ 他に木はない 松ばかり 
私ゃ湯の町 別府の生まれ 胸に情の 灯がとぼる 
来ませ見せましょ 鶴崎踊り いずれ劣らぬ 花ばかり 
 花が見たくば 鶴崎踊り 肥後の殿さえ 船で来る 
 清き流れの 大野の川の 月に浮かべた 屋形船
 夏は遊船 川風夜風 眺め見あかぬ 大野川 
 下る白滝 情けの金谷 末は鶴崎 抱き寝島
 月は九六位 大野の川に 映えて鶴崎 盆踊り
 昔ゃ肥後領 百千の船が 上り下りに 寄る港
 百合か牡丹か 鶴崎小町 踊り千両の 晴れ姿
 豊後名物 その名も高い 踊る乙女の しなのよさ
 私ゃ踊りの 鶴崎育ち しなのよいのは 親ゆずり
逢えば新川 磯馴の松の 誘う風ありゃ 片靡き
 潮干狩りなら 青崎浜よ 路は並木の 土手続き 
 細はよいとこ 磯崎海で 波に揺られて 鯛を釣る
嫁を取るなら 判田の米良へ 見どりよりどり 器量よし
 わしの思いは 本宮の山よ ほかに木はない 松ばかり
 本宮清水を 堤で温め 秋は黄金の 米良の原
嫁に行くなら 湯平がよかろ 夏は涼しゅて お湯が湧く 
わしが思いは 由の岳山の 朝の霧よりゃ なお深い 
わしが在所は 猪の瀬戸越えて 米の花咲く お湯どころ
星か蛍か ぴかぴか光る 照らし輝く イロハ川
 軒端伝うて 来る蛍さえ 月の隠れた 隙に来る
 心やさしの 蛍の虫は 忍ぶ畷に 灯をともす
 人の手を刺す あざみでさえも 蛍に一夜の 宿を貸す
 憎や尺八 我たき落とし ひとよぎりとは 恨めしや
行こか神崎 戻ろか大平 ここは思案の 中ノ原
関の権現様 お水が上がる 諸国諸人の 目の薬
関の一本釣りゃ 高島の沖で 波にゆられて 鯛を釣る
日照り続きの 雨乞まつり 九六位お山の 水もらい
志生木小志生木の ベラとるよりも 瓦切っても 細がよい
高い山では 白山お山 臼杵五万石 目の下に
 臼杵五万石 大豆にゃ切れた 狭い佐伯に 豆詮議
 臼杵五万石 縦縞ならぬ 碁盤格子の アラレ織り
 臼杵五万石 広いようで狭い わしに似合いの 妻がない
 臼杵五万石 かけこそ名所 出船入船 なお名所
 さても見事な 臼杵様の城は 地から生えたな 浮き城な
広い日本の どこより先に 南蛮船の 来たところ
 春の丹生島 浮城跡は 今じゃ桜の 花どころ
 昔なつかし 本丸跡の おぼろ夜桜 縁となる
 花の宴に 一差し舞えば 差す手引く手に 花が散る
下ノ江港にゃ 碇はいらぬ 三味や太鼓で 船繋ぐ
 下ノ江女郎衆は 碇か綱か 今朝も出船を 二度とめた
 下ノ江可愛や 金比羅山の 松が見えます ほのぼのと
 月が出ました 下ノ江沖に 波に揺られて 濡れながら
 下ノ江港にゃ 浅瀬が二つ 思い切る瀬と 切らぬ瀬と
 船は出て行く 心は残る 残る心が 三ツ子島
 ナカギ・セイダロ コジロが浜で 泣いて別れた 節もある 
尾崎ヤブの内 小迫は都 間の花崎ゃ 松のかげ
 仲間谷底 日陰の屋敷 浜は高尾で 色内名
保戸の高子は さいの波絶えぬ わしが胸には 苦が絶えぬ
 押せよ押させよ 船頭さんもかかも 押さにゃ上がらぬ この瀬戸は
佐伯内町 米屋のおよし 目許ばかりが 天女かな
 堅田行くなら お亀にゃよろしゅ 行けば右脇 高屋敷
灘と女島は 棹差しゃ届く なぜに思いは 届かぬか
 ここと島江は 棹差しゃ届く なぜに届かぬ わが想い
羽出よいとこ 朝日を受けて 住める人たちゃ 和やかで
色利ゃ日が照る 宮野浦曇る 中の関網 雨が降る
 小野市ゃ照る照る 釘戸は曇る 並ぶ楢ノ木ゃ 槍が降る
 坂は照る照る 鈴鹿は曇る 間の土山 雨が降る
わしは小浦の 粟島様に 燈明明かして 願ほどく
うちのお父さん シマンダ沖で 波に揺られて 鯛を釣る
 うちのお父さん 鯛釣り上手 他人が千釣りゃ 二千釣る
山が高うして 丹賀が見えぬ 丹賀かわいや 山憎や
 わしが思いは あの山のけて 様の暮らしが 眺めたい
 様の暮らしは いつ来てみても たすき前かけ シュスの帯
ここと中越に かねの橋かけて 中のくぼるほど 通いたい
私ゃ佐伯の 灘村生まれ 朝も疾うから 上荷取り
 沖の暗いのに 白帆が見ゆる あれは佐伯の 宝重丸
 船が一杯来りゃ お客さんか思うて 宿のおげんさんが 出て走る
 石間おげんさんの 鉄漿壺は 鉄漿を入れんでも 浮いてくる
わしの思いと 長瀬の原は ほかに木はない 松ばかり
西野長池にゃ 蛇が住むそうな 怖い池じゃげな 嘘じゃげな
黒沢来さんは 菜種の花じゃ 舞い来る島田が 皆とまる
わしの思いは 戸穴の役場 レンガ造りの ガラス窓
嫁にやるなら 田原にゃやるな 田原田どころ 畑どころ
 親がやるとも 山田内にゃ行くな 寒の師走も 水の中
 畑木極楽 山田内地獄 間のいぜ屋が 御所どころ
なんぼ広島産の 掛刃でも 佐伯二条刃にゃ かなやせん
竹田中川侯は 情ある殿よ 年に一度は 駕籠で来る
錫は出る出る 大平坑に 今日もカネ吹き フイゴ差し
 錫で名所の 木浦の山は 日向豊後の 国境
 豊後木浦は カネ吹き名所 竹田中川侯の お抱え鉱
 木浦銀山 カネ吹く庭に 夏の夜でさせ 霜が降る
緒方名所は 原尻巡り 滝のしぶきが 客招く 
豊後緒方は 踊りの町よ 川の水さえ 踊ります  
三重の内山 紙漉き所 紙を漉く娘の 器量よし
様よ出て見よ 奥嶽山に みかん売り子が 灯を灯す
 みかん売り子じゃ わしゃないけれど 道が難所で 灯を灯す 
 道は難所じゃ イヤなけれども 家が難渋で 灯を灯す
西が暗いが 雨ではないな 雨じゃござらぬ よな曇り
 雨の降り出しゃ 一度はやむが わしの思いは いつやむな
西は久住山 南は祖母よ 中を取り持つ 大野川
岩戸川より 沈堕の瀬より 浅い野尻が 気にかかる
駒の腹巻 主の名を入れて 臼杵と竹田に 名を残す
一棹二棹 緒方のミサオ ミサオなけらにゃ 通やせぬ
竹田々々と 名は高けれど 城がなけらにゃ 山いなか
月は照る照る 九重の峰に 河鹿鳴く鳴く 夜は更ける 
飯田高原 広漠千里 山は紫 水清し 
田野じゃ北方 湯坪じゃ挟間 夏の涼しさ 地蔵原
さても見事な 上野のつつじ 枝の豆田に 葉は隈に  
隈じゃ太政官 豆田じゃお鶴 塾じゃ中六 とどめさす
千丈小橋で 出逢うた言うたが どこが千丈の 小橋やら
茶山茶山と みな言うて登る 津江は茶どころ 縁どころ
鯛生通いは もうやめなされ 鉄のわらじも たまりゃせぬ
佐伯なば山 鶴崎ゃ木挽き 日田の下駄ひき 軒の下 
色は竹田で 情けは杵築 情けないのが 日出・府内
豊後湯の岳 豊前じゃ屋山 御国境の 英彦の山 

●●● その3 ●●●

思い互いに 掛け合う橋の 中も苦界の 浮き沈み
 辛い川竹 勤めの苦から 痩せが日に増す 橋の杭
 命かけても ぜひ渡ろうと 思い長良の 橋普請
 ほかに心を 掛けよと思い 引いた言葉の 橋普請
 吾妻橋ちょう その名も嬉し やがて添わるる 我が身には
 出すは十八番で 弁慶気取り あとに引かれぬ 五条橋
 君の面影 うつつに見るは 夢の浮橋 恋い渡る
 恋に互いの 身も浮橋か 渡り逢う夜は 夢心地
 夢の通い路 結ぶの神の かけて嬉しい 枕橋
 晴れて夫婦に いつ業平と 嬉し並べた 枕橋
 ともに思案を 涼みの果の 首尾は四条の 橋の上
 ここで嬉しう 藍染橋と 寝ずに語ろや 待つことを
 こころ松橋 離れぬ仲を 嫉むとやこう 騒ぐ水
 石の反橋 身どもが恋は 文を尽くせど 落ちもせず
思案橋から 女郎屋が近い 行こか戻ろか 思案橋
 思案橋から 文ゅ取り落てた 惜しや二人の 名を流す
 思案半ばに 空飛ぶ鳥は 連れてのけとの 辻占か
 思案しかえても ま一度来ぬか 鳥も古巣に 二度戻る 
 思案しかゆりゃ 古巣はおろか 鳥も枯れ木に 二度とまる
 思案月かげ 苦労の癪か 更けてさし込む 寝屋の窓
 裏の窓から カニの足投げた 今宵這おとの 知らせかな
 裏の窓から ダイダイ貰うた 抱いて寝よとの 判じ物
 裏の窓から こんにゃく玉投げて 今夜来るとの 知らせかや
 いのか猪之助 戻ろか茂助 ここで別りょか 源之助
関の地蔵さん 親切者よ 雨も降らぬに 傘くれた
 傘を貰うたじゃ 柄のない傘を 末はお医者の 手にかかる
 関で女郎買うて 高島沖で 弾くソロバン 胸の内
 関の女郎衆は 医者より偉い 縞の財布の 脈をとる
 関の女郎見て うちのカカ見れば 千里奥山 古狸
坑夫さんには どこ見て惚れた 現場帰りの 千鳥足
 妹なるなよ 坑夫さんの嫁に 山がどんと来りゃ 若後家じゃ 
 十日叩いて 一度にドンと あの娘にやる金 欲しゅはない
 工事ごまかして お金を儲け 芸者ひかして 膝枕
 おやま買うよな たいまな金が あれば味噌買うて おじや炊け
 お山ちゃんちんさんで 儲けた銭を おやまで取らるりゃ 是非がない
わしは卑しき 芸子はすれど 言うた言葉は 変わりゃせぬ
 縞の木綿の 切り売りゃなろが 芸子切り売りゃ そりゃならん
 わしが木綿引きゃ お馴染みさんが 寝ろや寝ろやと 糸切らす
 木綿引く引く 居眠りなさる 糸のでるのを 夢に見た
 木綿ひきひき 眠りどまするな 眠りゃ名が立つ 宿の名が
 木綿ひくひく 眠りどまするな 眠りゃ伽衆が みな眠る
 寝ても眠たい 夏の夜に 木綿ひけとは 親が無理
 木綿引き習うて 機織り習うて 仕立て習うたら 人の嫁
昼はとんとん 床替えばかり 晩は桑摘み 眠たかろ
 蚕飼い上げ まぶしにゃあげて 様とおおぼの 湯に行こや
 かわいがられた 蚕の虫も 今は地獄の 釜の中
 製糸工女さんに どこ見て惚れた 赤いたすきで 糸を引く
 工女三日すりゃ 弁護士ゃいらぬ 口の勉強が よくできた
 蚕飼い上げて まぶしにあげて 早もお国に 帰りたや
恋の唐船 碇を見れば 沖の鴎も 忍び泣き
 沖の鴎に 汐時問えば 私ゃ立つ鳥 波に問え
 波に問やまた 荒瀬に問えと 荒瀬なければ 波立たぬ
 波に問うのは いと易けれど 沖の白波ゃ 物言わぬ
蒸気ゃ出て行く 煙は残る 残る煙が 癪の種
 主の心は 蒸気の煙 遠くなるほど 薄くなる
 情け荒波 手蔓を切りて 通う私を 止める舟
 梶の取り様も おぼつか浪の 主を頼りの 掛り船
 便り少ない この身の上と 知っていながら 捨小舟
宇治の柴舟 早瀬を渡る 私ゃ君ゆえ 上り舟
 主と白波 気軽に乗せて うまく私を 釣の舟
 人目離れて 気も浮船に 胸を明かして 夕涼み
 忍び大川 人目の岸を 離れ楽しむ 涼み舟
 主と近江の 夜を長浜と 寝物語に 下る船
 晴れて二人が 乗り出す船を 波もねたむか 荒く打つ
主の出船を 見送りながら またの逢瀬を ちぎり草
 船は出て行く 帆かけて走る 茶屋の娘は 出て招く
 娘招くな あの船待たぬ 思い切れとの 風が吹く
 一里二里なら 伝馬で通う 五里と離るりゃ 風便り
船に乗るとも 高い帆は巻くな 風に情けは ないほどに
 風に情けが ないとは嘘じゃ 上り船には 西がよい
 西に吹かせて 早う上らんせ またの下りを 待つばかり
 様は下りたか 百二十七艘 様もござろか あの中に
 船が来たぞな 三杯連れで 中の新造が わしが様
 船の新造と 女房の良いは 人が見たがる 乗りたがる
 船は新造でも 櫓回りゃようても お前乗らねば 動きゃせぬ 
 抱いて寝もせにゃ 暇もくれぬ 繋ぎ舟とは わしがこと
われは津島の 鍛冶屋の娘 金の鎖で 船つなぐ
 沖のとなかに お茶屋を建てて 上り下りの 船を待つ
 松の周りに 胡桃を植えて 待つより来る身は なお辛い
 様は来るはず なぜ様遅い どこに心を とめたやら
 人目厭うて 裏道廻る 知らず待つ身は 気がもめる 
押せや押せ押せ 七つや八つも 押せば都が 近くなる
 舵を枕に およるな殿御 舵はお船の 足じゃもの
船を出しゃらば 夜深に出しゃれ 帆影見ゆれば 懐かしや
 沖の暗いのに 白帆が見える あれは紀の国 みかん船
 主に一筋 思いも深く 恋は思案の 帆掛け船
 ふいと様子の かわった風に またも苦労を 白帆船
 深い底意の あるとは知らず うまくかかった 沖の舟
 船が来たぞな 白帆をあげて 明日はみかんの 市が立つ
 お市後家女に 三年通うた 通うたかどめに 子ができた
 なんとしましょか この月ゃ三月 梅が食べたい スユスユと
 月は重なる お腹は太る 様の通いは 遅くなる
 いちで後家でも 塩売りゃするな どこの門でも しよしよと
 してもしたがる 若後家さんは 今朝も二度した 薄化粧
酒を飲もうか 汁粉にしよか 今日の八つ茶にゃ お寿司食う
 さより街道 鰯が通る 鯖も出て見よ 鯵連れて
 鰯ゅ引いてきたが ほんに塩がない 塩は大阪 塩釜に
 塩釜街道に 松の木植えて 誰を待つやら 気にかかる
細い元手の 三筋の糸は 長い浮世の つなぎ棹
 佐渡と越後は 棹差しゃ届く なぜに届かぬ わが想い
 わしが思いは 月夜の松葉 涙こぼれて 露となる
 こぼれ松葉は あやかりものよ 枯れて落ちても 夫婦づれ
 ござれ話しましょ 小松の下で 松の葉のよに 細やかに
 松の葉のよな 細い気は持たで 広い芭蕉葉の 気を持ちゃれ
 昔ゃ松の葉に 五人は寝たが 今は芭蕉葉に ただ一人
 口にゃ一筋 心にゃ三筋 辛い調子を 合わす三味 
 三味の糸さえ 三筋に分かる なぜに分からぬ 主の胸
 三味は三筋に 胡弓は四筋 わしはお前に 一筋に
 お前一人と 定めておいて 浮気ゃその日の 出来心
 桃の袱紗に 紅絹裏つけて 何も包めど 色に出る
 折りてやりたや 浮気の枝を 徒な花には 実が入らぬ
 引く手数多の 我が袖なれど 針目かけたは 君一人
わしとあなたは 出雲の神の 結びあわせた 仲じゃもの
 惚れちゃまたやめ また惚れちゃやめ それじゃ出雲の 帳汚し
寒の師走も 日の六月も 辛い勤めも せにゃならぬ
 寒の米踏み さびしゅてならぬ 氷に浮き寝の 草もある
 仕事するときゃ 泣きべそ顔で 酒を飲むときゃ 腕まくり
木曾へ木曾へと 枯れ木を流す 流す枯れ木に 花が咲く
 佐渡へ佐渡へと 草木も靡く 佐渡はいよいか 住みよいか
 能登へ能登へと 茅萱も靡く 能登はいよいか 住みよいか
 隠岐へ隠岐へと 雁さえ渡る 隠岐はいよいか 住みよいか
天の香久山 かすみがとれて 夏を知らすか 時鳥
 お夏々々 夏吊る蚊帳は 冬は吊られぬ 夏ばかり
 お夏花なら 清十郎は紅葉 花と紅葉が 手を引いて
 小舟作りて お夏を乗せて 花の清十郎に 櫓を押さしょ
 お夏どこ行く 手に花持ちて わしは清十郎の 墓参り
 御墓参りて 拝もとすれば 涙せきゃげて 拝まれぬ
 清十郎二十一 お夏は七つ 合わぬ毛抜きを 合わすれば
 合わぬ毛抜きを 合わしょとすれば 森の夜鴉 啼き明かす
 向こう通るは 清十郎じゃないか 笠がよう似た 菅の笠
 笠が似たとて 清十郎であれば お伊勢参りは 皆清十郎
 似たと思えば わけない人の 後ろ姿も 仇にゃ見ぬ
かさを買うなら 三つ買うてごんせ 日傘雨傘 踊り笠
 破れ菅笠 締緒が切れて さすが着もせず 捨てもせず
 ままよ菅の笠 被り様がござる 後ろ下がりに 前よ上げて
 様よ三度笠 こくりゃげて被れ 少しお顔が 見とうござる
 土手の三度笠 あとから見れば しながよござる 笠の内
一つ人目を 忍ぶ夜は 女心の 吉野笠
 二つ深草 少将は 小野小町に 通い笠
 三つ見もせぬ 仲なれど 君が心の 知れぬ笠
 四つ夜な夜な 門に立つ 人が咎むりゃ 隠れ笠
 五つ今まで 逢うたれど 一夜も逢わずに 帰り笠
 六つ紫 小紫 顔にちらちら 紅葉笠
 七つ情けの ない客に お寄りお寄りと 遊女笠
 八つ山城 小山城 国を隔てて 近江笠
 九つここに 小網笠 雨の降り笠 日照り笠
 十で十まで 上り詰め 笠もこれまで 終わり笠
笠を手に持ち 皆さん去らば いかいお世話に なりました
 笠を忘れた 峠の小道 憎や時雨が また濡らす
 茶山戻りは 皆菅の笠 どれが姉やら 妹やら
 姉と妹に 紫着せて どちら姉やら 妹やら
 姉がさすなら 妹もさしゃれ 同じ蛇の目の 傘を
 姉も妹も 縁づきゃしたが 私ゃ中子で 縁がない
 縁がないなら 茶山にござれ 茶山茶どころ 縁どころ
 私ゃあなたに 惚れてはいるが 二階雨戸で 縁がない
 思いなさるな 思うたとても 枯木茶園で 縁じゃない
猿丸太夫 奥山の もみじ踏み分け 泣く鹿の
 向かいの山で 鹿が鳴く 明日はあの山 おしし狩
 鹿が鳴こうが もみじが散ろが わしが心にゃ 秋は来ぬ 
 安芸の宮島 廻れば七里 浦が七浦 七えびす
いざり勝五郎 車に乗せて 曳けよ初花 箱根山
 箱根八里は 馬でも越すが 越すに越されぬ 大井川
 都鳥とや 鳴く声もゆかし われは吾妻に 隅田川
貞女立てたし 浮気はしたし 心二つに 身は一つ
 身には衣着て 名は帯しめて 心濁らぬ 樽の酒
 呑めよ騒げよ 上下戸なしに 下戸の立てたる 蔵はない
 うちのお父さん お酒が好きよ 今日も朝から 茶碗酒
 お酒飲む人 花なら蕾 今日も咲け咲け 明日も咲け 
 酒が云わする 無理とは日頃 合点しながら 腹が立つ 
 腹が立つなら ねんねをおしな 寝ればお腹が 横になる
ここは田の畦 滑るなお為 転ばしゃんすな 半蔵さん
 長い畦道 よく来てくれた 裾が濡れつら 豆の葉で
静御前の 初音の鼓 打てば近寄る 忠信が
 小野道風 青柳硯 姥が情けで 清書書く
 斧九太夫 胴欲者よ 主の逮夜に 蛸肴
 加古川本蔵 行国が 女房戸無瀬の 親子連れ
 お前や加古川 本蔵が娘 力弥さんとは 二世の縁
 恋の音を出す 力弥が笛は さすが都の 竹じゃもの
 早野勘平さんは 主人のために 妻のお軽にゃ 勤めさす
 後の世までも 尽くせし忠義 残す誉れの 仮名手本
 どれがどれやら 数ある色に 目さえ届かぬ 縞手本
 人目あるゆえ 言いたいことも 胸に畳んで 折手本
 今宵逢うたる よい折手本 読ませ訊きたい ことがある
 色の初訳を よく折手本 主を師匠に 習い初め
 薄く染めるも 末濃くなるも 実と不実の 色手本
 浮気ゃ習わぬ 互いの実意 人の手本に なる心
 人に手本と 言わるる主が なんで読めない 胸の内
 痴話が嵩じて 障った手本 末は行儀も 崩す文字
 人の手本に なるならきっと 折り目正しく するがよい
天下泰平 治まる御代は 弓は袋に 矢は壺に
 治めおきます 刀は鞘に 槍は旦那の 床の間に
萩のクマ女は 白歯でよいが 鉄漿を召したら なおよかろ
博多帯締め 筑前絞り 歩姿が 柳腰
 博多柳町 柳はないが 女郎の姿が 柳腰
 博多騒動 米市丸は 刀詮議に 身をはめた
 博多米市 千菊連れて 刀詮議に 身をはめた
もののあわれは 石堂丸よ 父を尋ねて 高山に
 女人禁制の 高野の山よ 誰が植えたか 女郎花
様を持つなら 川越しにゃ持つな 水に降る雪 たまりゃせぬ
 雪の中でも 梅さえ開く 兎角時節を 待たしゃんせ
 辛抱しなんし また来る時節 泣いてばかりは いぬわいな 
雪は巴と 夜は更けたれど 笹はいらんか 煤竹や
 竹の切り様で 溜まりし水は 澄まず濁らず 出ず入らず
 入れておくれよ 痒くてならぬ 私一人が 蚊帳の外
不意を討たれた 千代松丸を 愛し愛しと 生仏
受けた情に 生身を埋めて 火事を封じた 快長院
花は霧島 煙草は国分 燃えて上がるは 桜島
 八百屋お七と 国分の煙草 イロでわが身を 焼き棄てる
安倍保名の 子別れよりも 今朝の別れが 辛うござる
 恋の気狂い 迷いの保名 またも迷うたか 葛の葉に
親のあるとき 子のないときに お伊勢参宮 してみたい 
 伊勢へ七度 熊野に四度 愛宕様には 月詣り
 三十三間堂 柳のお柳 可愛いミドリが 綱を引く
 伊勢は津で持つ 津は伊勢で持つ 尾張名古屋は 城で持つ
 行たら見て来い 名古屋の城は 金の鯱 雨ざらし
 雨に打たれて 色も香も失しょう 散らせともなや 梅の花
 わしとおまえは 道端小梅 ならぬ先から 人が知る
 覚えない身に また言いがかり 立たさにゃならない 私の胸
 行きに寄らんせ 帰りは日暮れ あらぬ噂の 風が立つ
 行きに寄ろうか 帰りにしよか ならば行きにも 帰りにも
 お前一人か 連れ衆はまだか 連れ衆ぁ後から 駕籠で来る
 主の連れ衆が しげしげ来れば 嬉しながらも またふさぐ
 送りましょうかよ 送られましょか せめてあの丁の 角までも
 重く見しょうの 形見の寝間着 怨みながらも 着ておくれ
槍は錆びても その名は錆びぬ 昔ながらの 落し差し 
 石は錆びても その名は錆びぬ 昔ながらの 泉岳寺
 鳶は錆びても その名は錆びぬ 昔忘れぬ 纏持ち
 笛は冴えても 心は冴えぬ 秋の嵯峨野に 露分けて
重ね扇は よい辻占よ 二人しっぽり 抱き柏 
 君が情けを 仮寝の床の 枕片敷く 夜もすがら
 伽羅の香りと この君様は 幾夜泊めても 泊め厭かぬ
獅子は喰わねど 宍喰越えて 雨や霰や 甲浦
五尺手拭 中染め抜いて 誰にやろよりゃ 様にやろ
 様の手拭ゃ 山形ヤの字 どこの紺屋で 染めたやら
伊豆の山には 名所がござる 籠で水汲む これ名所
 伊豆じゃ七島 四国じゃ八島 房州館山 鷹の島
奈良の大仏さんを やっこらやと抱いて お乳飲ませた 親見たや
野暮な屋敷の 大小捨てて 腰も身軽な 町住い
縁がないなら 茶山にござれ 茶山茶どころ 縁どころ
 茶山茶山と 楽しゅで来たら 上り下りの 坂名所
 茶摘み茶摘みと みな言うて来たが お茶の摘み道ゃ まだ知らぬ
 お茶の摘み道ゃ 知らんならおそゆ 古葉残して 新芽摘む
 茶山だんなんさんな ガラガラ柿よ 見かきゃよくても 渋うござる
 茶山だんなんさんと ねんごろすれば 決めた給金よりゃ 袖の下
 決めた給金よりゃ 袖の下よりも 私ゃごりょんさんの 眼がえずい
 こんなやわい茶は 五貫どま摘まにゃ 様のかんざしゃ 何で買う
 茶摘みゃしまえる じょうもんさんな帰る ここに残るは 渋茶園
 お茶は揉め揉め 揉みさよすれば どんな柴茶も 濃茶となる
 お茶は揉めたか 釜の上はまだか 早く揉まねば 遅くなる
 四月は茶山に 夏は筑前に 秋は豊前の 櫨に山
 お茶を揉んでくれと 足取り手取り 終ゆりゃご苦労じゃと 戸をつめる
 矢部がよいかな 星野がよいか 矢部で妻持ちゃ 矢部がよい
 今年ゃこれぎり また来年の 八十八夜の お茶で逢お
 様は今来て またいつ来やる 明けて四月の 茶摘み頃
 茶摘み頃かや わしゃ待ちきらぬ せめて菜の葉の 芽立つ頃
山陽鉄道 神戸がもとよ 九州鉄道 門司がもと
 それじゃ主さん 行こではないか ここで照る日は よそも照る
 ここも旅じゃが また行く先も 旅の先なら ここがよい
うちの親父にゃ 位がござる 何の位か 酒狂い
 かかの古べこ 質屋へ入れて 親父ゃ酒屋で 酒を飲む
ちょいと行ってくる 豊後の湯まで あとに花おく 枝折るな
 枝も折るまい 折らせもすまい 早くお帰れ しぼれます
堅いようでも 女はやわい やわいようでも 石ゃ堅い
 上り下りの 石の目も知らず 鉱夫さんとは 名がおかし
 朝も早うから カンテラさげて 坑内下がるも 親の罰
 トロッコ押しさんは トロッコの陰で 破れ襦袢の 虱とる
 発破かければ キリハが進む 進むキリハで カネが出る
 朝から晩まで 叩かにゃならぬ 叩かにゃ食えぬと かかが言うた
 坑夫々々と 見下げてくれな 家に帰れば 若旦那
 あなた鉱夫で わしゃ水引きで 同じ山にて 苦労する
 鉱夫女房にゃ なれなれ妹 米の飯食うて 楽をする
 妹なるなよ 坑夫さんのかかにゃ 妹だまして 姉がなる
 石刀はカネでも 棒は千草でも 叩かにゃ食われんと かかが言うた
 フイゴさすさす 居眠りなさる カネの流れる 夢を見た
 トコヤ上には 二股榎 榎の実ゃならいで カネがなる
 鳥が舞う舞う トコヤの上を 鳥じゃないぞえ カネの神
 新造フイゴに あら皮巻いて さぞやきつかろ 手子の衆は
唄の上手の お一人よりも 下手の連れ節ゃ おもしろい
 歌の段かよ 仕事の段か 様は病気で 寝てござる
 雨は降り出す 殿御は山に 蓑をやりたや 笠そえて
 馬が勇めば 手綱も勇む 手綱勇めば 鈴が鳴る
 いちで後家とて 駄賃取りゃするな いつも夜で出て 夜で帰る 
 馬方さんには どこ見て惚れた 手綱持つ手の しおらしさ
 馬方女房にゃ なるなよ妹 妹だまして 姉がなる
 駒よ勇めよ この坂越えりゃ 荷物下ろして はみをやる
 馬がよければ 馬方様の つけた葛籠の しなのよさ
 馬はやせ馬 男は小なり 長の道中で 苦労する
 駄賃取りちゃあ 聞く名も恋し いつも小銭の 絶えがない
 わしのスーちゃんの 引かしゃる駒は 紺の前だつ 白の駒
 白の駒引く あの馬子さんに 契こめたぞ 深々と
生まれ山国 育ちは中津 命捨て場は 博多町
 博多町をば 広いとおっしゃる 帯の幅ほど ない町を
 帯にゃ短し たすきにゃ長し お伊勢編み笠の 緒によかろ
 お伊勢編み笠を こき上げて被りゃ 少しお顔を 見てみたや
 見ても見厭かぬ 鏡と親は まして見たいのは 忍び妻
 忍び妻さん夜は 何時か 忍びゃ九つ 夜は七つ
 七つ八つから 櫓を押し習うて 様を抱く道ゃ まだ知らぬ
 様を抱くにも 抱きよがござる 左手枕 右で締め
 締めてよければ わしゅ締め殺せ 親に頓死と 言うておきゃれ
 親にゃ頓死と 言うてもおこうが 他人は頓死と 思やせぬ
 思うてみたとて 色には出すな お前若いから 色に出る
 色にゃ迷わぬ 姿にゃ惚れぬ わしはお前の 気に惚れた
 惚れたほの字が 真実ならば 消してたもれや わしが胸
 胸にゃ千把の 火を焚くけれど 煙あげねば 他人は知らぬ
 誰も知るまい 二人が仲は 硯かけごの 筆のみぞ
 筆と硯ほど 染んだる中も 人が水差しゃ 薄くなる
 薄くなっても また磨りゃ濁る そばに寝ていりゃ なお濁る
 そばに寝ていりゃ こっちを向けと 朝の別れを 何としょう
 何としたやら この四五日は 生木筏か 気が浮かぬ
 生木筏で 何の気が浮こうぞ 様が浮かせぬ 気じゃものを
 様は切る気じゃ わしゃ切れぬ気じゃ 割って見せたい 腹の中
 腹の立つときゃ この子を見やれ 仲のよいとき 出来た子よ
 仲がよいとて 人目にゃ立つな 人目多けりゃ 浮名立つ
 浮名立つなら 立たせておきゃれ 人の噂も 二三月
 三月四月は 袖でも隠す もはや七月 隠されぬ

●●● その2 ●●●

主の側なら 浮世を捨てて 深山住まいもいとやせぬ
 山で恋すりゃ 木の根が枕 落ちる木の葉が 夜着となる
 木の根枕に 床とりゃさいな 木の根はずせば 石枕
 木挽ぐらいが 色しょた何か 似合うた松の木にゃ 横止まり
 木挽ゅ見ろどちゃ 藪で目を突いた 木挽ゃ見まいもの 身の毒よ
 唄は節々 ところでかわる 竹の節でさえ 夜でかわる
 木挽さんとて 一升飯ゃ食ろうて 松の枯節ゃ 泣いてわく
 大工さんよりゃ 木挽きどんが憎い 仲のよい木を 引き分ける
 木挽さんには どこ見て惚れた 帳場戻りの 足袋はだし
 木挽さん達ゃ トンボな鳥な いつも深山の 木を頼る
 木挽さん達ゃ 山から山へ 花の都にゃ 縁がない
 木挽女房にゃ なるなよ娘 木挽きゃ腑を揉む 早う死ぬる
 木挽さん帰るかと 鋸の柄にすがる 離せまた来る 秋山に
 鋸は京前 諸刃のヤスリ 挽くはお上の 御用の板
 御用の板とは 夢にも知らぬ 墨をよけたは ごめんなれ
 鋸もヤスリも 番匠のカネも 置いてお帰れ 米の代
 米の代と言うちゃ そりゃ置ききらぬ ヤスリ代とでも 言うておくれ
 木挽さん達ゃ 芸者の暮らし 挽いて唄うて 金を取る
 木挽ゃ山中の 山には住めど 小判並べて 女郎を買う
 何ぼ挽かんでも 二間どま挽かにゃ かかの湯巻は 何で買う
障子開くれば 稽古場が見える かわいお相撲さんは 砂だらけ
 お相撲さんには どこ見て惚れた 稽古戻りの 乱れ髪
 泣いてくれるな 土俵入り前に 締めたまわしが ゆるくなる
 櫓太鼓の 鳴るたびごとに 思い出します 関取を
 櫓太鼓に ふと目を覚まし 明日はどの手で 投げてやろ
様はいくつな二十二な三な いつも二十二で ござれ様
 様のゆえならダラの木山も 裸足裸で 苦しゅない
器量の悪いのに 声なと良けりゃ 声で一夜の なびかしょに
 男ぶりよりゃ 器量よりゃ心 心よいのに 誰も好く
 昔なじみと つまずく石は 憎いながらも 振り返る
 姿かたちは 自慢にゃならぬ 味が自慢の 吊るし柿
 程のよいので 油断がならぬ 添うた私が 気がもめる
 揉めた揉めたは 柴茶が揉めた 揉めた柴茶の 味のよさ 
はだけられても 世間は広い 広い世間に 出て遊ぶ
 広い世間に お前と私 狭く楽しむ 窓の梅
 梅にゃ粋あり 松には操 竹なら割りたい わしが胸 
 割って見せたい 胸三寸に 辛い浮世の 義理がある
下の畑に 山芋植えて 長うなれ太うなれ 毛も生ゆれ
 宵にゃ私の すりばちで とろろになるまで 摺りましょか
 娘十七八ゃ 根深の白根 白いところにゃ 毛が生えた
 抱いて寝なされ 抱かれて寝ましょ 私ゃ今宵が 色初め
 嫌じゃ嫌じゃと 畑の芋は 頭振り振り 子ができる
先で丸う出りゃ 何こちらでも 角にゃ出やせぬ 窓の月
 月と花との よい仲を見て 松は緑の 角はやす
 丸い玉子も 切り様で四角 ものも言い様で 角が立つ
 破れふんどし 将棋の駒よ 角かと思うたら 金が出た
 エビシャ小屋では 色事ぁでけぬ 将棋碁盤で 目が多い
永の年月 心の曇り 晴れて逢う夜は また時雨
 今朝の時雨は 宵暮かけて 雲の上まで 通りもの
 雨の降る夜は おもしろけれど 忍び辛いは 下駄のあと
 雨の降る日にゃ ござるなよ殿御 濡れてござれば なおいとし
 雨の降る夜は 恋しさまさる せめて待つ夜は 来たがよい
 さんさ時雨か 萱屋の雨か 音もせずして 濡れかかる 
 差した傘 柄漏れがすれど あなた一人は 濡らしゃせぬ 
 私ゃ春雨 主や野の草よ ぬれる度毎 色を増す
 濡れてしっぽり 打ち解け顔に 更けた世界を しみじみと
 好いて好かれて 口まで吸わせ 末は捨てられ 巻煙草 
 雨の夕べは 降られて帰る 今宵月夜に 照らされた
 月に照らされ 雪には降られ せめて言葉の 花なりと
 月が差すかと 蚊屋出てみれば 粋をきかして 雲隠れ
 月に群雲 花には嵐 散りて儚い 世のならい
 月が花影 描いた窓も 今じゃ青葉の 青すだれ
 屋根のすだれを 下ろして急ぐ 粋な爪弾き 水調子
 吹けよ川風 上がれや簾 中のお客の 顔見たや
 粋な蛇の目が 柳を潜る 下を燕が また潜る
 吹けよ川風 柳がなびく 誰に思いの 洗い髪
 髪の結いだち 洗いのしだち カネのつけだちゃ いつもよい
皺は寄れども あの梅干は 色気離れぬ 粋な奴
 私ゃ青梅 揺り落とされて 紫蘇と馴染んで 赤くなる
 君は小鼓 調べの糸よ 締めつ緩めつ 音を出だす 
 抓りゃ紫 食いつきゃ紅よ 色で仕上げた この体 
 色に染まるも 元はと云えば 浅い心の 絵具皿
しょおが婆さんな 焼餅好きじゃ ゆんべ九つ 今朝七つ
 ゆんべ九つぁ 中りもせねど 今朝の七つは 食中り
唐に色置き 名古屋に住めば 二日酔いかよ 唐恋し
 阿波に色置き 讃岐に住めば ねぐら鳥かよ 粟恋し
 美濃に色置き 尾張に住めば 雨も降らぬに 蓑恋し
お寺に参るよか 臼すりござれ 二升と三升すりゃ 後生になる
 四升五合すったじゃ あと五合頼む まあ五合願えば 後生になる
 臼をすり来た すらせちゃおくれ 私ゃやり木の 番にゃ来ぬ
 臼はヨシマ臼 やれ木は堅木 臼の中碾きゃ 忍び妻
 臼は石臼 やれ木は堅木 臼の元ずりゃ お染さん
 臼はすれすれ すりにこ来たよ こごつこまごつ 聞きにゃ来ん
 臼はすれすれ すりにこ来たよ 臼はやめまい 夜明けまで
 臼をすり来て すらんような奴は いんでくたわけ 朝のため
 臼をすり来て すらんで帰りゃ 宿の名が立つ 角が立つ
 ものをすらせち だらせち寝せち 後ぢ歯がゆがりゃ きびが良い
 臼の元ずりゃ なりふりゃいらぬ 襷つめかけ 引き回せ
 臼にゃ好かねど 臼元さまの 入れる手じなに わしゃ惚れた
 様と米搗きゃ 中トントンと 糠がはぼ散りゃ おもしろさ
 臼はひょんなもん つまんで入れて 入れて回せば 粉がでける
 できたその子は 誰ん子か知らぬ 団子丸めて 食うてしまえ
 今晩これん臼は 身持ちでないか 中の白いのは 粉でないか
 臼をするなら 身を揺り込んで 思う力を みな入れて
 臼をすれすれ すらんもんな帰れ 家の名が立つ 損が立つ
 今宵別嬪さんの 臼する姿 枕屏風の 絵に欲しゅい
 臼は重たい 相手は眠る 眠る相手は 嫌じゃもの
 隣のばあさんな 欲なこた欲な 臼はすらせて 餅ゃくれぬ
 臼は台でもつ なかごで締まる わしとあんたは 寝て締める
 主が振舞う 霜消し酒に やり木持つ手に 汗が飛ぶ
 臼に麦を入れ ぬかぶく時にゃ 五尺体が 乱れゆく
 臼をすらしょどち 袖引く手引く しまやご苦労と 戸を立つる
 臼はすれすれ 碾かねばならぬ 碾かでまうのは 水車
 ものをすり来て すらんような奴は いっそ来なよい 失すらよい
 ものをするなら やり木をしゃんと 押して回せば 粉はすれる
 お前見たさに ものすり来たが おまや他人の 人とする
 俺がもとすりゃ お前は裏を 調子揃えば 臼はまう
 臼がまいます 下臼までも 唄にあわせて よう回る
 廻りさんなら 唄わにゃならぬ 唄うて廻しましょ 次の人
 小麦五升すりゃ へこすり破る またとすりまい 御所小麦
 小麦五升どま 唄でもするが かすの粉ばなしゃ 嫁こびし
 嫁をかわゆがれ 嫁にこかかれ 愛しわが娘は 他人の嫁
 小麦すりなら 宵からおいで 夜中過ぐれば カスばかり
 小麦五升どま 唄でもするが 後の小話ゃ わしゃ知らぬ
 お月ゃ山端に おうこ星ゃ西に もはや止め頃 上がり頃
唄でやらんせ この位の仕事 仕事苦にすりゃ 日が長い
 娘精出せ この土手つけば 粟のごはんが 米となる
 わしが池する 役人ならば 一度のたばこも 二度させる
 やろうえやろうえは 部長さんの役目 油売るのは こちの役
 私この池 監督なれば 一度休みを 二度にする
様の江戸行き 浴衣を縫えば 涙じゅめりで 糸がこぬ
 源氏車は 後へは退かぬ 一度我慢の 江戸気質
今日の苗取りゃ 若手の揃い どこで約束 して来たな
 どこで約束 しちゃ来ぬけれど 道の辻々 出合うて来た
 萎えた男に 苗取らすれば 苗は取らずに 萎え萎えと
田植々々と 楽しゅで来たら 主は代掻き わしゃ田植
 五月男の どこ見て惚れた 代田上がりの 濡れ姿
 腰の痛さよ この田の長さ 四月五月の 日の長さ
 四月五月は 日が長けれど 様を待つ夜は まだ長い
 田植小噺ゃ 田主の嫌い 唄うて植えましょ 品良くに
 わしが唄うたら 向かいからつけた 昔馴染みか 友達か
 田主旦那どんと 心安うすれば 決めた日傭よりゃ 袖の下
 五月五月雨に 白足袋雪駄 あげな妻持ちゃ 恥ずかしや 
 五月五月雨に 乳飲み子が欲しや 畦に腰掛け 乳のましょ
 植えてひどるな 一本苗を 天の恐れで 子が差しぬ 
 子持ちよいもの 子にくせつけて 添い寝するとて 楽寝する
 五月三十日ゃ 寝てさよ眠い さぞや眠かろ 妻持ちは
 雨は降り出す 心は急ぐ 急ぐ心が ままならぬ
 いつも五月の 田植ならよかろ 様の手前で 植ようものに
 祝いめでたで 植えたる稲は からが一丈で 穂が五尺
 さんさ振れ振れ 三尺袖を 袖が三尺 身が五尺
 今年ゃ豊年 穂に穂が咲いて 道の小草に 花が咲く
 早稲が七石 中稲が九石 ずんと晩稲が 十二石
 今日の田植は みな雌鶏な 時を知らぬな 唄わぬな
 今日の田植に 親方ないか もはや止め頃 あがり頃
 今日の田植は どなたもご苦労 これにこれずと またござれ
 五月ながせに 絞らぬ袖を 今朝の別れに 袖絞る
 今年初めて 田の草とれば どれが草やら 田稗やら
わしに通うなら 裏からござれ つつじ椿を 踏まぬよに
 つつじ椿は 踏んでもよいが うちの親たち 踏まぬよに
 うちの親たちゃ どうでもよいが 村の若い衆の 知らぬよに
何をくよくよ 川端柳 水の流れを 見て暮らす 
 来るか来るかと 川下見れば 川にゃ 柳の影ばかり 
 川に立たせて 待たしておいて 内でダツ編みゃ 手につかず 
 川に立つより 立ち聞きしよと ごめんなされと 寄るがよい
 あんたよう来た よう来てくれた わしが思いの 届いたか
 逢えば心も つい急き立って 話す言葉も 後や先
 何を言おうにも かを語ろうも あわれ明日の 切なさよ
 話しらけて ついつくねんと あけて口説の 夏の月
 宵の口説に 白けた後を 啼いて通るや 時鳥
 よせばよいのに 舌切り雀 ちょいと舐めたが 身の詰まり
 竹に雀が しなよくとまる 止めて止まらぬ 色の道
 たまに首尾して 根笹の甲斐も 夜明け短や 朝雀
 雉のめんどり つつじが元よ 妻よ恋しと ほろろうつ
 雉も啼かずば 撃たれもしまい わしも逢わねば 焦がれまい
 花を見捨てて 帰るや今朝の 霞隠れの 鳥の声
 暮を待つ身にゃ 啼くさえ嬉し 明けにゃ怨んだ あの鴉
 今宵浮気に さえずり出でて 徒し香に立つ 枝移り
 羽交伸ばして 気も晴々と どこへ幾夜の 夫婦鶴
 仲を妬んで 立つ荒波を よけて離れぬ つがい鳥
 竹に鶯 梅には雀 それは木違い 鳥違い
 焦がれ寄辺の わしゃ浜千鳥 波に浮かれて うかうかと
 俺は船なし 磯辺の千鳥 海を眺めて 鳴くばかり
 わしは親なし 礒辺の千鳥 汐が干りゃ泣く 満つりゃ泣く
 潮の満干に 思いの袂 乾く間もなき 沖の石
 女波男波を 汲み分けおいて 焼くや藻汐の 夕煙
様は出て待つ 出るこたならぬ 庭に篠箱 二度投げた 
 様はよう来た よう来てくれた わしが思いの 届いたか
 籠めた夜霧に 待つ身を託ちゃ 千丁松明 つけて来る
 来るか来るかと わしゃ松風に どこへ行平 中納言
 来るか来るかと 待たせておいて よそにそれたか まぐれ雲
いとしいとしと 思えばなおも 去るに去られぬ 垣の外
 誰か来たそな 垣根の外に 庭の鈴虫 音を止めた
 声はすれども 姿は見えぬ 様は荒れ野の きりぎりす
 今宵さ行くぞと 目で知らすれど 竹の接ぎ穂で 木はつかぬ
紺の前掛け 松葉の散らし 松に来んとは 腹が立つ
 来るか来るかと 待つ夜に来んで 待たぬ夜に来る 憎らしや
 待つ夜幾度 つぎ足す灰に いつか怨みの 積もる灰
 待つに苦労も 気も埋火の 消えて怨みの 残る灰
 待てど来ぬ夜に 怨みの火鉢 一人思案に 窪む灰
 人目忍びて 目に物言わせ 書いて見せたる 灰の文字
 灰に書いたる 文字ゃないかいな 読みも分からぬ 主の胸
 燃ゆる思いの 火は消えやらで 怨み数増す 胸の灰
 燃ゆる思いも うわべにゃ見せず 腹で焦がるる 懐炉灰
 主を浮世に かためぬ心 嘘と誠を 振るう灰
 添うて嬉しさ 気が舞いだして 今朝も所帯が 灰神楽
 首尾に夜風は さて憎らしや 吹いて浮名を 散らす灰
 返す辛さを 懐炉の灰も さすが火付の 悪い今朝
 夜毎怨みを 書いたる灰も 今は所帯に つかう灰汁
様よ様よと 恋い焦がれても 末は添うやら 添わぬやら
 添えば我が夫 別るりゃ他人 なまじ大事は 語られぬ 
ぼんさん山道 破れた衣 肩にゃかからず 木にかかる
 山で怖いのは イゲばら木ばら 里で怖いのは 人の口
わしのスーちゃん 下田の狐 行かな来ん来ん 行きゃだます
 なんぼ通うても 青山紅葉 色のつかぬが 是非もない
 いくら口説いても 張子の虎は すまし顔して 首を振る
 徒やおろかで 逢われるものか 二町や三町の 道じゃない
磯部田圃の ばらばら松は 風も吹かぬに 気がもめる
 風も吹かんのに 豆ん木が動く どこかテレやんが 来ちょるじゃろ
 表来たかや 裏から来たか 私ゃ裏から 思うて来た
 思うて来たのに 去ねとは何か 秋の田をこそ 稲と言う
 可愛がられた 五月の水も 末は秋田で 逆落とし
絵島ゆえにこそ 門に立ち暮らす 見せてたもれよ 面影を
 花の絵島が 唐糸ならば 手繰り寄しょうもの 我が宿へ
 恋の科人 絵島が墓の 里に来て鳴け 秋の虫
 雁が渡るに出てみよ 絵島 今日は便りが 来はせぬか
 花に別れて行く かりがねも 辛い苦労の 苦の字形
 雲井遥かに飛ぶ かりがねに 文が遣りたや かの里へ
あなたよう来た 何しに来たか わしに心根を 持つのかえ
 好いておりゃこそ 朝夕通う 嫌な思いを するじゃない
 厭なお方の 親切よりも 好いたお方の 無理がよい
様の来るときゃ いつでもわかる 裏の小池の 鴨が立つ
 裏の小池の 鴨さえ憎い 鴨が立たなきゃ 人は知らぬ 
 鴨が立つとは 昔のことよ 今は濁りて 泥鰌が住む 
様は来る来る 栗毛の馬で 私ゃ青々 青の駒 
 様が来たじゃろ 上野の原に 駒のいななく 鈴の音 
 咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る 
七里墓原 栗山道を 様は夜で来て 夜で帰る
 様の来る道 粟黍植えて 逢わで帰れば きびがよい
 小癪言うやた 竹んかえ包うじ 水の出端にゃ かえ流せ
逢わぬうちなら 夜露も怖い 濡れりゃ浮名が いつか湧く
 たとえ逢わいでも 声さえ聞けば 逢うた心で わしゃ帰る
殿御さんたちゃ 御兄弟連れで 唄の稽古にゃ 上方に
 さても見事な 上方道は 松に柳を 植え混ぜて
 行ったな行ってみたな 上方道を 松と柳が 植えてある
 松に柳は 植えまいものを 柳枯れたら 松ばかり
 待つがよいかな 別れがよいか 嫌な別れよ 待つがよい
 待てど帰らぬ お方と知れど 今日もくるくる 糸車 
 淀の川瀬の あの水車 誰を待つやら くるくると 
 淀の車は 水ゆえ廻る 私ゃ悋気で 気が廻る
よんべ来たのは 姉ちゃん誰か 弟馬鹿言うな 猫じゃもの
 よんべ夜這どんが 二階から落てた 猫の真似して ニャオニャオと
 よんべ来たのは 夜這どんか猫か 猫が雪駄で 来りゃすまい
 かかの丸髷 鼠がかじる 親父ゃ啼く泣く 猫を呼ぶ
 恋の痴話文 鼠に引かれ 猫を頼んで 取りにやる
 猫が嫁入りすりゃ 鼬が仲人 二十日鼠が ちょろちょろと
今朝の寒さに 笹山越えて 露が袴の 裾濡らす
 木の根茅の根 草の根分けて 訪ね逢いたい 人がある
 遠い山道よく 来てくれた 花の雫か 濡れかかる
思うて通えば 千里が一里 逢わで帰れば また千里
 虎は千里の 山さえ登る 小障子一枚が ままならぬ
 思いはまれば 石の戸も開く 金の鎖も 切れまする
 切れたからとて 便りをさんせ 厭いて別れた 仲じゃない
よがな夜通し ジャコの子も乗らぬ お手をはだけた 蛸ばかり
 天が狭いのか 三つ星ゃ並ぶ 海が狭いのか エビゃかがむ
 西へ西へと お月も星も さぞや東は さみしかろ
 西と東に 立て分けられて 合わにゃわからぬ 襖の絵
吉田通れば 二階から招く しかも鹿子の 振袖が
 灯り障子に 梅屋と書いて 客は鶯 来てとまる
 宵は紛れて 暮らしもしょうが 更けて待つ夜の 畳算
 ふっと目覚まし 煙管を杖に 行灯目当てに ひとりごと
 いつがいつまで 廓の内に 何をたよりに うかうかと
 君は格子に 思わせぶりか 見えつ隠れつ 波の月
 意気な丸髷 結城の小袖 旦那おはようと 言うてみたや
 長の年季を 指折り数え 眉毛隠して 見る鏡
 惚れた証拠にゃ これ見ておくれ 腕に替名の 入黒子
 二つ枕の この引き出しに 嘘も誠も 入れてある
 わしとお前は 浦島太郎 明けて悔しき 玉手箱
 貞女両夫に まみえぬわしが 勤めなりゃこそ 仇枕
 鬢のほつれは 枕のとがよ 顔のやつれは 主のとが
 何も髪文字や もつれも解けて やっと浮名の 洗い髪
別府浜脇 啼いて通る鴉 金もないのに 買お買おと
 粋な鴉は 夜明けにゃ啼かぬ 野暮な鴉が 滅茶に鳴く
 わしも若い時ゃ 吉野に通うた 道の小草も なびかせた
 歳はいたれど 江戸吉原の 女郎の手枕は 忘りゃせぬ 

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