俗謡「安来節」
〽出雲名物荷物にゃならぬ 聞いてお帰れ安来節
〽安来千軒名の出たところ
 「社日桜に十神山 十神山から沖見れば
  いずくの船かは知らねども セミの元まで帆を巻いて
 ヤサホヤサホと 鉄積んで 上のぼる
〽私も昔は社日の桜
 「今は訪い来る人もなし それに十神は常盤色
 咲いた昔が アラサイサイ 思われる
〽松江名所は数々あれど 千鳥お城に嫁ヶ島
〽松江大橋流れよが焼きょが 和田見通いは船でする
〽出雲八重垣 鏡の池に 映す二人の晴れ姿
〽関は朝日よ杵築は夕日 名所出雲の西東
〽今度この町に魚屋ができて
 「おじさんこんちはご機嫌さん ただものおおきに有難うさん
  この鯛一枚いくらかね この鯛一枚一円四十銭 そんな高値じゃいけないよ
  三銭五厘に負けらんか そんなに安値は負かりません そうだかね
  また来ましょう さよならハイ はてな今のお客は何しに来ただろか
 おおかたアラ買いに 実まったく来たであろ
〽私ゃ出雲の三津浜生まれ
 「若布や若布 布の葉や布の葉 おばはんこんちは ご機嫌さん
  毎度はおおきに有難うさん あげこげさっしゃいますと 斤量の目が減りますよ
 かけた若布が コナおばはん 一貫飛んで二十四匁
〽私ゃ雲州 平田の生まれ
 「十里二十里三十里 西の果てから東の果てまで
  引くずる引っ張ってきたものを 今さら暇とて暇とらぬ
 広い世界に コナ旦さん 主一人
〽瀬田の唐橋 百二十五間
 「栗の木 松の木 欅の廊下とせいろ橋
  大津の鍛冶屋と草津の鍛冶屋が集まりて
  アラ朝から晩まで飯も食わずに打ち賃とらずにトッチンカラリヤチンカラリンと
  叩き延ばした唐金の擬宝珠 橋の上から眺むれば しかも天下の御定紋が
 水に映りて アラサイサイ 膳所の城
〽汚れどこ行く腰に籠さげて 前の小川へ泥鰌とりに
〽高い山から谷底見れば 娘姿の土壌すくい
〽人の手前は薄茶と見せて 心濃茶の四畳半
〽嵐山 桜なければありゃただの山 あなたも実なきゃただの人
〽思うて通えば 七曲がりも一曲がり 逢わず帰れば ただの一曲がりも七曲がり
〽嫌なお方と 寝た夜の長さを縮めておいて
 好いたお方と 寝たよな短さの夜の方へ回したい
〽平井権八 因州の生まれ
 「江戸で長兵衛さんの世話になり 吉原町では小紫 夫に操を立てたさに
 目黒に残せし アラサイサイ 比翼塚
〽御所車 くるくる回るはありゃ水車
 「子供の好くのは風車 女の繰るのが糸車
 私ゃあなたに コラ騙されまいとて載せられましたよ口車
〽明の鐘 ゴンと響けば 雀がチュンチュン烏がカー
 「次は鶏がコケコッコーと鳴く 主を帰さにゃなろまいと 雨戸開いて外見れば
 外に雨風 それに可愛い主さん帰さりょか
〽桜花 花は咲けどもありゃ散りやすい
 「岩に生えたる姫小松 徒な嵐で散りはせぬ
 枯れて落ちても アラサイサイ 二人連れ
〽やせた畑に茄子を植えて
 「ならぬならぬと若い衆が ならない心はなけれども
 肥えかけしゃんせにゃ アラサイサイ なりはせぬ
〽竹になりたや 紫竹破竹の蛇の目の傘 轆轤の竹に
 「好いたトイチさんとパラリと広げて 相傘さして
 御茶屋通いの アラサイサイ ほどのよさ
〽今宵今晩お酌に出たら
 「酒の肴に好まれて 唄を唄うに声足らず お肴取るにもわけ知らず
  お銚子の口へと菊をさし 根もきく葉もきく枝もきく
 そしてお客さんの アラサイサイ 無理も聞く
〽赤い小袖に迷わぬ者は
 「木仏 金仏 石仏 千里飛ぶよな汽車でさえ
 赤い旗見りゃ アラサイサイ すぐ止まる
〽村の祭りに映した姿
 「しかと抱きしめ思案顔
  <アー 浮世さびしや身は情けなや 都恋しやはるばると
   ショコホイ ショコイチリキヤノ 松ホイ>
  今じゃふるさと懐かしや せきくる涙を止めあえず
 枕抱きしめ アラサイサイ 一人泣き
〽親に孝なら君には忠義
 「思い余って五郎さん 叔父にあたりし神統兼道方を訪れる
  <「叔父さん叔母さん今日は
   「おい五郎じゃないか、お倫、五郎が来たぜ
   「まあ五郎さんよく来たね。今ね、叔母さんがお団子でも
    こさえてあげるからさあ、今日はゆっくり遊んでおいで
   「叔母さん、今日はお団子でも何にもいりません、
    叔父さんや叔母さんに少しお尋ねしたいことがあって参りました
   「尋ねてい何だ、仕事のことだったらお前、お父さんに聞きゃいいじゃないか
   「違います
   「違う何だ
   「叔父さん、これから先は五郎の体はどうなっていきましょうか
   「女々しいことを言うなよ、どうもなって行かねえじゃねいか。
    一所懸命に刀鍛冶を勉強して、お父さんのような日本一の刀鍛冶になるんだ。
    どうもお前、顔の色が悪いようだな。どうしたんだい一体
   「叔父さん叔母さん。五郎は生きていたのが孝行でしょうか、
    死んでしまうのが孝行でしょうか
   「何だ、またてめいお母さんにいじめられたんだな。
    そうだろう。言ってみな言ってみな
   「言うてすまぬことながら言わねば訳がわかりませず、
    母様が私をば毒で殺そうとあそばしました。
    そのとき死のうと思いましたが、孝か不孝かわからぬゆえに尋ねて来ました。
    叔父様、叔母様、どうぞ教えて下さいな>
 忠義美談の正宗 名刀とともに残るらん
〽荒波に 打たれ叩かれ
 <身は捨て小舟>
 <舟を引き揚げ漁師は帰る あとに残るのは櫓と櫂
  波の音 ヨイショコショ 浜の松風>
 沖でカモメの声がする
〽鳥なれば 飛んで行きたいあなたの側へ
 <昨日浜で見た酋長の娘 今日はバナナの木陰で眠る>
 夢で浮名は立ちゃすまい
〽会いたいは癪の種だよ 見たいは病
 <会うにゃ明るし道頓堀は ジャズに浮かれて人目を忍ぶ
  甘い酒呑みゃ櫓の上に 芝居もどきの月が出る>
 苦い薬は主一人
〽大工さんなら頼みがござる
 「私の寝ている部屋の戸が
  <開け閉めするのに エー音がする 音がする>
  忍ぶ恋路の邪魔となる
  音のせぬよに トンカラリと開いてトンカラリンと閉まらぬよに
 なりはしまいか大工さん
〽板子一枚 船頭さんの家業
 <吹くや川風袖寒く 浮いたかもめの夫婦連れ 楽しい仲をさいてゆく
  情け知らずの伝馬船 沖でカモメの鳴く声聞けば 船頭商売止められぬ
  舟のみよしがちょと回る 回るはずだよ取舵じゃ 橋を渡りて両国の
  柳光亭での二階では 芸者お酌の晴れ姿 浮いたお方のさんざめく>
 波にまかせたこの体
〽私とお前は将棋の駒よ
 <飛車飛車合わして香までも 跳んだ桂馬の不挨拶
  金銀使うて下さるな 私ゃ女房の角じゃもの>
 盤の上では王にさす
〽親に勘当され主にも別れ
 <沖の真中にわしゃ捨て小舟 櫓櫂とられて情けない
  <便りにするのは>
  ここへお越しのお客様>
 「行く末までも見捨てなく
 どうか御贔屓 アラサイサイ 願います
〽夏の涼みは あの両国の
 「出船入船 屋形船
  <吹けよ川風 上がれよ簾>
  <浅くとも 清き流れのかきつばた 飛んで行き来の濡れつばめ
   覗いて見たか 編み笠を>
 中の小唄の アラサイサイ 顔見たや
〽鳥も通わぬ八丈が島へ
 <やらるるこの身はいとわねど 後に残りし妻や子が>
 「どうして月日を送るやら
 思えば涙が アラサイサイ 先に立つ
〽出雲で名所は境の港
 <西の入口ゃお台場で 東の入口ゃ辰巳山 辰巳山から沖見れば
  蒸気船やら帆前船 千石積んだる船でさえ 伝馬いらずの上港
  少し上がれば遊女街 遊女街から揚屋街>
 「揚屋街には玉屋に三輪の茶屋 君鶴小波の申すには
  お客さんおいでなさいと 白いお手々で出て招く
 いかなるお方も アラサイサイ のろけこむ
〽花は上野か染井の躑躅
 <京か飛鳥と日暮らしの 君に王子の狐穴から
  いろはの女郎衆に招かれて うつらうつらと抱いて根岸の
  身代り地蔵を横に見て 吉原五丁廻れば ひけ四つ過ぎには情夫の客>
 散らぬその間にあがらんせ
〽逢いたさを じっと堪えて末待つからは
 <苦労させますわたしもします 浮気しもせぬさせもせぬ
  キタサノサー ドッコイショ
  三千世界の松の木は枯れても あなたと添わなきゃ
  娑婆へ出た甲斐がない キタサノサー ドッコイショ>
 晴れて添う日を アラサイサイ 待つわいな
〽私ゃ酒好き煙草は嫌い
 <煙草で死んだ人がある 鈴木弁蔵氏という人は
  バットで叩かれ死んだそな 安田善次郎という人は 朝日のために殺された>
 <哀れや伊藤の博文さんは ハルピンのステンションで殺された 二十マタ>
 「五銭じゃないかいな そりゃまた何故かと尋ねたら
 国家のためでは アラサイサイ ないかいな
〽千両箱 富士の山ほど積んでもいやよ
 「好いたお方と暮らすなら
  <あれ聞かしゃんせ吉原の>
  廓雀の言うことにゃ 男がようて気がようて
  <それに女が惚れるなら 奥州仙台 陸奥の守
   なぜに高尾が コレナンダイ 惚れなんだ>
  金無き島田に義理立てて
 さすが浮世は 義理と人情のからみ合い
〽十七八なるあの姐さんが
 <片手に唐傘下駄さげて ちりめん小袖をちょいと出して
  姐さんあなたはどこ行きか 追分習いの帰りがけ
  所望とあるならやりましょか>
 <今まで訳もわからぬ浮気もしたが>
 妻と定めりゃ辛抱する
〽好いたお方と添われるならば
 <ままよ三度笠 横ちょにかむり>
 <馬子衆のくせか高声で 鈴をたよりに小室節>
 <坂は照る照る鈴鹿は曇る 間の土山 雨が降る>
 親に願いはこればかり
〽あまり寒さに火鉢にもたれ
 <ちょっと一杯菅相丞 燗が熱けりゃ梅王丸 飲めばお顔は桜丸
  今宵の座敷は刈屋姫 もはや東は白太夫で>
 朝の返事を松王丸
〽浮気なあなたに凝り性な私
 <去年の秋の患いに いっそ死んでしもうたら こうした難儀はあるまいもの
  お気に入らぬと知りながら 未練な私が悋気ゆえ>
 苦労したのも水の泡
〽花は桜よ アノ人は武士
 「変わりやすいは人心 されど変わらぬ忠臣は
  上は大石内蔵助 下は寺坂吉右衛門
  <今なる鐘は 芝か上野かまた浅草か また鳴る鐘は泉岳寺
   四十七士の供養の アラドッコイショ 鐘>
  四十七士の丈夫が 怨みも積もる雪の夜に 亡き我が君の仇を討つ
 誉れも高輪 アラサイサイ 泉岳寺

<拳唄>
〽負けなよ負けなよ(ハエッサッサーイ) 拳には負けな(アーコラコラ)
 負けりゃこの場の恥さらし(ハイサ ハイドン ハコラサ
 コイサ トコドン ハイノハイ コイサ トコドン キターコラサ…)
〽山晴れ山晴れ 出て山見れば 雲のかからぬ山はない
〽山晴れ山晴れ どの山見ても 霧のかからぬ山はない
〽山晴れ山晴れ 山から見れば 瓜や茄子の花盛り
〽三味は一筋 胡弓は四筋 私ゃお前さんに一筋に
〽呑めや騒げや 上下戸なしに 下戸の建てる蔵はない