夢の浮橋

下記3点に内容を絞って一から出直しです。 民俗・文化風俗や伝承音楽の研究に寄与できればと思っています。 ・大分県の唄と踊りの紹介 ・俚謡、俗謡、新民謡の文句の蒐集 ・端唄、俗曲、流行小唄の文句の蒐集

2012年05月

いよいよこのシリーズも最終回。
最後はとてもモダンな迷曲「モガモボソング」を紹介したい。
なんかもうハイカラすぎて何も言うことがないので歌詞の紹介にとどめておきます。


モガ・モボソング / 村田美禰子・村田竹子、朝居丸子 / 昭和3年(村田)、昭和4年(朝居)

♪私ゃ銀ブラのモボ モボ モボ モボ(モボ モボ モボ モボー)
 髪は長うてウエーブをつけて(ウエーブをつけてー)
 ロイド眼鏡にシガレットくわえ ソフト目深にセーラーズボン
 トランラランラランラ トララランラランララ
 トランラランラランラ トラーラーララー
 カフエーじゃ待っている愛人のモガが
 楽し銀ブラのモボ モボ モボ モボ モダーンボーイ

♪私ゃ銀ブラのモガ モガ モガ モガ(モガ モガ モガ モガー)
 髪はボブ刈り 両耳ょ隠し(両耳ょ隠し)
 服は膝まで 腕や足ょ出して 伊達にちょいと差すパラソール
 トランラランラランラ トララランラランララ
 トランラランラランラ トラーラーララー
 カフエーじゃ待っている愛人のモボが
 楽し銀ブラのモガ モガ モガ モガ モダーンガール

♪私ゃ円タクのウブ ウブ 運転手(ウブ ウブ 運転手)
 乗せたお客はモガ モボ 二人(モガ モボ 二人)
 ラブよ恋よと後ろでぺっちゃくちゃ 嫌に気になる仲のよさ
 トランラランラランラ トララランラ ラブブ
 トランラランラランラ トラーラーララー
 癪に障ってちょいとよそ見したら
 「危ない!」と踏んだ濡れ場の 三人一緒にアップアップ川の中

♪私ゃ今ではモガ モガ モガ モガ(モガ モガ モガ モガー)
 髪は五部刈り 両耳ょ出して(両耳ょ出して)
 数珠を片手に「南無阿弥陀仏」 孫の手を引きとぼとぼと
 トランラランラランラ トラララランラランララ
 トランラランラランラ トラーラーララー
 寺じゃ待っている愛人の和尚
 楽し入れ歯のモガ モガ モガ モガ モダーンバー

♪あの娘ぁ銀ブラのお馴染み女給(お馴染み女給)
 いつも厚化粧 エプロンかけて(エプロンかけて)
 紅茶 コーヒー サイダー ビールにレモン 生姜水 頼みゃ持ってくる愛想よく
 トランラランラランラ トララランラランララ
 トランラランラランラ トラーラーララー
 今日も待っている愛人のモボー
 憎や銀ブラのカフエ カフエ カフエ カフエ カフエ女給

♪花に似りゃこそモボ達ゃ騒ぐ(モボ達ゃ騒ぐ)
 茄子に似たなら見向きもしまい(見向きもしまい)
 輿に乗るのも車を押すも 持って生まれた器量次第
 トランラランラランラ トララランラランララ
 トランラランラランラ トラーラーララー
 ほんに器量は女の宝 親が恨めし どうしてこんな変な身ができたやら

♪ほんに東京は変な変な都(変な変な都)
 道はコンクリでも埃が上がる(埃が上がる)
 橋は滅法界だが渡れはしない 夏は水道がきっと足らぬ
 トランラランラランラ トララランラランララ
 トランラランラランラ トラーラーララー
 急ぐ自動車は馬力のお供 誰も生活難でぐずぐず言いながら子が増える

♪誰も生活難でぐずぐず言いながら子が増ーえるー!


※聞き取りなので間違いがあるかもしれませんが多分合ってます。

・女給の唄 / A羽衣歌子、B藤本二三吉 / 昭和6年

 女給とは今でいうホステス、キャバクラ嬢のこと。幼い子供を抱えた女給の悲哀を歌っており、大流行した。平易な節で唄い易いし、歌詞も決してお涙頂戴でなく健気さや芯の強さを仄かに感じられるようなよい歌詞で、それが長調の明るい節によく合っている。
 A面では羽衣歌子が美しい高音で歌っており、要所々々でテンポが変わるほか伴奏もなかなか賑やかでおもしろい。羽衣歌子はこの曲以外にこれといったヒット曲はないがなかなかの実力派。三島一声と結婚したがうまくいかず離婚、その後は一線を退いていた。ところが昭和40年代の懐メロブームで復活し、70歳を超えているとはとても思えない高音の美声、かつ強弱自在の情感豊かな歌声をテレビで披露することもあった。この歌の2番の歌詞をド忘れしハミングでごまかした映像を見たこともあるが、何にせよ歌は素晴らしかった。 B面の二三吉は、いつも通りの日本調伴奏に和風の唄声。しかし、いつになく感情のこもった唄い方である。


・平凡節 / 二村定一、佐藤千夜子 / 昭和3年

 ヨイトヨイトナーとか「アラマ、平凡ネ」などのお囃子の入る、ごく軽い日本調のコミックソング。1フレーズがごく短く、二村定一と佐藤千夜子が掛け合いで唄っている。おもしろい唄だが文句がやや低俗に走っている感は否めず、佐藤千夜子はそれが嫌だったのかレコードのレーベルには二村の名前しか記載されていない。でも、名前が出てなくても声を聴いただけでそれが佐藤千夜子だとすぐにわかるのだが…
 三味線など和楽器は一切使っていないが、いかんせん節が日本調だしお囃子も相俟って、モダンさは全くなし。


・不壊の白珠 / 四家文子 / 昭和6年

 同名映画の主題歌。とにかく暗い。暗黒。平たく言えば姉が妹に恋をゆずるという内容なんだけども、墓石がどうとか戒名の「姉」の字がどうとか、とにかく真っ暗闇の内容。同じようなシチュエーションの歌といえば島倉千代子の「月子の唄」が思い浮かぶけど、あれよりも断然こちらの暗い(月子の唄も暗いが)。そして曲も暗い。長調にすれば唱歌になるような節で、あまり新しさは感じられない。
 四家文子は「天国に結ぶ恋」を嫌々吹き込んだらしいが、きっとこの唄も嫌々吹き込んだのだろう。自分だったら嫌だ。


・尖端ガール / 三島一声、羽衣歌子 / 昭和5年

 ツッコミどころ満載の曲。簡単に言えば、モボ(三島一声)がモガ(羽衣歌子)をナンパし、仲良くなったかと思えばふとしたことでモガがヘソを曲げ、慌ててモボが謝り仲直りするような内容だ。セリフが随所にちりばめられていて、それがとても面白い。三島一声はなかなかの芸達者。羽衣歌子は、歌はうまいがセリフは… 最大の謎は、三島の歌ったこの歌を1番を羽衣が「何の歌?私にも教えてね」というようなことを言い、二村がいざ歌おうと思ったら出だしをとちってしまい、羽衣は平然と歌っているという点だ。教えてもらうんじゃなかったのか。知ってるじゃないか… ついヤボな突っ込みをいれてしまいたくなる。
 三島一声と羽衣歌子、この後めでたくゴールインしたが、なんでも三島一声の浮気が原因で破局したそうだ。三島一声はもともとは画家だったが、民謡歌手に転身したというかわった経歴を持つ。


・わたしこのごろ変なのよ / 四家文子 / 昭和6年

 なんといっても最初のセリフ。タイトルそのまんまのセリフを四家文子が呟くのだ。カマトトぶってるのか受けを狙っているのか知らぬが、思わず笑ってしまう。歌詞は案外普通で、ウブな娘が恋をして様子がおかしいというような内容。「恋をした」ということを一切言わずに、ひたすら具体例を紹介しながら「わたしこのごろ変なのよ」と繰り返すだけでそれとなく初恋を匂わすようなつくりになっている。
 四家文子の歌声は響きが柔らかく、どこか優しい感じがする。彼女はこの歌を「かわいい歌」と思ったようだが、音楽学校関係者をはじめ方々からは「低俗な歌を吹き込んで…」と批判されてしまった。


・チャッカリしてるわネ / 天野喜久代 / 昭和6年

 エロと涙は女の武器らしい。後に続く歌詞が全く頭に入らないくらいに強烈で、一度聴いたら忘れられない歌い出しだ。古賀政男による作曲で、マンドリンが効果的に使われている。1番でいうと「そこで男のネ、深情け、チャッカリしてるわネ」の部分に「さのさくずし(紫節)」の節回しをさりげなく引用しているのがおもしろい。多分、当時はみんな気付いただろう。
 著作権が切れているので歌詞を全部紹介しよう。作詞は西岡水朗。
♪エロと涙は女の武器よ イットを振りまく仇情け
 そこで男のネ 深情け チャッカリしてるわネ
♪恋のドライブ行く先ゃままよ 心気まかせ君まかせ
 あとは親父のネ 金まかせ チャッカリしてるわネ
♪安い酒でも嬉しいものよ キッス恋しや酔い心地
 ブルでいるよなネ 夢心地 チャッカリしてるわネ
♪踊れ踊れと毎日毎晩よ 恋のルンペン明日はない
 晦日来たとてネ あてはない チャッカリしてるわネ
♪機嫌取るときゃセンチでソロよ 泣いて妬くときゃ夜をこめて
 調子外れにネ ジャズります チャッカリしてるわネ


・スピード娘 / 淡谷のり子 / 昭和7年

 ポエマやドンニャマリキータなどハイカラな歌ばかり歌っていたイメージのある淡谷のり子も、こんな歌を歌っていた! 歌詞をよく聞き取れないが、どうも「スピード時代」を歌っているようだ。時代の最先端を行く娘をおもしろおかしく歌っているのだろう。
 節は日本調で、三味線まで入っている。淡谷のり子は若さに溢れたきれいな高音を響かせて歌っているが、あまり日本調には合っておらずミスマッチ感が溢れている。ピョンコ節のリズムの「スピドだスピドだビュンビュンビュン」というお囃子がマヌケで面白い。淡谷のり子は似たようなタイトルの「スピードホイ」という歌も吹き込んでいるが、スピード娘よりはいくぶんハイカラ。


・アラモード節 / ふみ / 昭和5年頃?

 なぜかレーベルには「ふみ」とあるが、どこをどう聴いても藤本二三吉。おそらく本名の婦美から「ふみ」としたのだろうが、なぜ名前を伏せたのかはよくわからない。「上州小唄」のレコードでも「ふみ」の名前を使っているから、何か理由はあると思うが。
 さてアラモード節である。「アラモード」に「節」。洋風だか和風だかよくわからないタイトルだが、フタをあけてみればまるっきり和風。純日本調。三味線伴奏に横笛が入り、鉦が鳴り響いている。7・7・7・5のオーソドックスな字脚の文句に「アラモードアラモード」のお囃子をつけただけの単純な歌詞だが、わりとよくできている。「エロ」も「グロ」も「ナンセンス」も出てくるお得な歌だ。まさにアラモード。二三吉の唄い方にはまるでやる気が感じられず、端唄や舞踊小唄のレコードとはえらい違いだ。多分、事務的に吹き込んだんだろうなあ…


・当世銀座節 / 佐藤千夜子 / 昭和3年

 両面にわたって吹き込まれているが1フレーズが長く、また間奏も長めなので片面2節ずつ、合計で4番までしかない。歌詞がハイカラすぎてマニアックな単語が多くややわかり難いが、それでも十分面白いし当時の銀座の風俗がありありと浮かんでくる名曲。まさに時代を反映した歌だ。ウキウキとした感じがよくでている楽しげでおシャレな演奏がスイングしているし、曲も変化に富んでいてとてもよくできていると思う。
 この翌年に大ヒットし今でもよく知られている「東京行進曲」は、この歌よりもずっと歌詞が簡単で分かり易くなり、曲も単純になった。それはより大衆受けするように狙ってそうしたのだろうし、もちろん流行歌という分野を考えるとそれが当たり前なのだが、個人的には東京行進曲よりも当世銀座節の方がずっと好きだ。アラモード節やスピード娘のような面白さとはまた違った面白さが、この歌にはある。それに何度も言うけど演奏がおしゃれ。


…次回で一応、このシリーズも終わり。モガモボソングを取り上げます。

昭和初期のモダンでハイカラな流行歌を適当に紹介します。

・生活線ABCの歌 / 矢追婦美子 / 昭和6年

 意味不明なタイトルばかりが印象に残るが、聴いてみると案外普通の曲。「君恋し」とか「黒い瞳よ今いずこ」などのカテゴリに入れられそうな感じの昭和初期ジャズソングで、伴奏はやや物足りないがそれなりにハイカラな雰囲気が出ている。矢追婦美子は「ボレロ」などの声楽曲も多く吹き込んだ人で、強弱自在の歌い方にはなかなか迫力があり、しかも音程がしっかりしていてかなり上手だと思う。


・モダン節 / A二村定一、B藤本二三吉 / 昭和4年

 A面は洋楽器伴奏で、二村定一の歌。ハクション!ハクション!という謎の声や、「ナタで切るよなトンカツ料理」など意味不明な歌詞が耳に残り、一度聴いたら忘れられない。B面は和楽器伴奏で、藤本二三吉が唄っている。閉店セールといいながらいつまでも営業を続けるモダンな店など、こちらも歌詞が強烈。諷刺がきいていておもしろいが、純和風の伴奏に二三吉さんのイキな唄声があいまって、モダンとは程遠い仕上がりに…


・都会交響楽 / A二村定一・青木晴子、B藤本二三吉 / 昭和4年

 A面はなんといっても青木晴子の歌声が強烈。B面は洋風に始まったとみせかけて、唄に入った途端に三味線が入って日本調に…二三吉さんの「野球(やきう)」という発音がいかにも端唄風。 曲の構成がおもしろく、両面ともに(マイナーのイントロ、メジャーのメロ×2、マイナーのサビ)×2という展開になっておりなかなか凝っている。ブルジョワジーとプロレタリアを対比させた歌詞もよくできており、昭和初期の世相を知るのに役立つ。


・麗人の唄 / 河原喜久恵、曽我直子 / 昭和5年

 歌詞が強烈で、特に各節結びの文句が印象深い。この唄はかなりヒットしたようで、先に河原喜久恵が吹き込み、やや遅れて別の会社から曽我直子も吹き込んでいる。暗く悩ましい曲調で歌詞にも救いがない上に、前奏や間奏もまた暗い印象。河原喜久恵は高音だが柔らかい発声で、ややおさえて歌っているようだ。
 曽我直子バージョンは、河原喜久恵バージョンとは違う歌詞も唄っている。曽我の歌声は、河原よりも高音が突き抜けるような印象。最初から最後まで三味線が賑やかに響いており、ちょっとミスマッチな感じが… 和洋折衷がいかにも昭和初期らしい。


・摩天楼 / A佐藤千夜子、B藤本二三吉 / 昭和4年

 摩天楼といえば岩崎宏美の曲を思い浮かぶが、戦前の摩天楼は岩崎宏美のそれとはまるで正反対の印象。まず、タイトルだけ見ると戦前ジャズっぽい曲かと思うのだが、見事に裏切られて日本調の節回し。佐藤千夜子はいつも通りに高音を思い切り張り上げており、藤本二三吉もいつも通りに淡々と地声でどこか端唄風に唄っている。金や欲、いろんな思いが渦巻く夜の都会をあらわしたような怪しげな曲調に怪しげな伴奏、そして「サタン」など怪しげな言葉がポンポン出てくるおどろおどろしい歌詞に、昭和初期の混沌とした雰囲気が出ている。


・尖端的だわね / A曽我直子、B新富町明子 / 昭和5年

 歌詞も曲も平易で分かり易く、おもしろい。(当時の)流行の最先端のあれこれをおもしろく並べており、当時の世相がよくわかる。「尖端的だわねー」という結びが耳に残り、おそらくかなりヒットしただろうし広く口ずさまれたことだろう。特におもしろいのはA面の「モダン芸者」の節で、これを曽我直子が洋楽器伴奏で唄っているので余計に印象に残る。B面は明子という謎の芸者歌手が三味線伴奏で淡々と唄っており、こちらもおもしろいのだが印象の強さとしてはA面に軍配が上がる。


・黒ゆりの花 / 佐藤千夜子 / 昭和4年

 佐藤千夜子の持ち歌の中で、最もハイカラでお洒落な印象。曲構成が当時の流行歌としてはかなり洒落ていて、1節が2部構成になっておりなかなか凝っている。文語体の歌詞が格調高く、歌い出しの「~ぞ~けれ」という変な係り結びがやや気になるが(筆者が無知なだけでそういう言い回しもあるのかもしれぬが)、それ以外は突っ込みどころのない名曲。後年、松島詩子や二葉あき子、淡谷のり子らが唄った洋風の流行歌につながる、時代の一歩先を行った曲といえるだろう。佐藤千夜子の歌い方も、お得意の高音を張り上げるようなものではなく言葉の意味を噛み締めたような、やや抑えたものになっていてよく合っている。彼女の東北訛りの発声が、悩ましい歌詞を強調しているような気さえしてくる。


・君恋し / 佐藤千夜子 / 昭和4年

 二村定一バージョンのヒットを受けて、本人の希望で吹き込まれたもの。こちらもヒットしたとのこと。二村定一もよく歌っているのだが、個人的には佐藤千夜子バージョンの方が好み。フランク永井のカバーが大変有名だが、フランクバージョンとはまるで印象が異なる。こちらの方がずっとテンポが速く、2拍子で、切迫した感情がよく表れている。伴奏も洒落ており昭和初期ジャズの金字塔といえるだろう。佐藤千夜子の思いのほか情感豊かな歌声もよい。高井ルビーが吹き込んだ旧歌詞バージョンにも捨てがたい魅力がある。


次回に続く…

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