夢の浮橋

下記3点に内容を絞って一から出直しです。 民俗・文化風俗や伝承音楽の研究に寄与できればと思っています。 ・大分県の唄と踊りの紹介 ・俚謡、俗謡、新民謡の文句の蒐集 ・端唄、俗曲、流行小唄の文句の蒐集

2011年07月

七日七日が七七日 四十九日に当たる日が 明日は花田の寺参り
寺の書縁に腰をかけ 花園の花を眺むれば 開きし花は散りもせず
蕾の花の散るを見て さぞやわが子もあの如し
南無阿弥陀 南無南無阿弥陀
南無阿弥陀 南無南無阿弥陀
南無阿弥陀 南無南無阿弥陀

1、坪借り
・東西南北おごめんなされ 家にござるかご主人様は 家にござれば願いがござる
 わしはこれから二三丁四五丁 しばし離れた住居でござる 風の便りで承れば
 どうか御当家にゃ誰某さまの お果てなされし初盆そうで さぞや御家内お寂しうござろ
 寂しかろとて青年子供 皆心を打ち寄せまして 盆の供養なり菩薩のためと
 今宵一夜は踊りてあげる しばし間は坪貸しなされ 坪は貸すともお世話はいらぬ
 あらよ嬉しや坪借り受けた 皆どなたも踊りておくれ
・東西南北おごめんなされ おうちござるかこの家の亭主 家にござれば願いがござる
 聞けばこの家は初盆そうな さぞやご家族お寂しうござろ 盆の供養の踊りをせんと
 おせも子供もみな寄り来たで しばし間どま坪貸しなされ 坪は借りても持ちては行かぬ
 やれ嬉しや坪借りました それじゃみなさん輪を立てましょや 

2、輪立て
・今日はお盆の十六日よ 月はなけれど灯はあかあかと 音に名高き忠霊廟で
 数多輩あるその中で 上下集まる部落の集が 殉国英霊御霊の前で
 心揃えてお供養の踊り そこで遺族は大喜びで 涙流してお礼を申す
 差す手引く手も見事でござる 団扇ハンカチ色白娘 白い鉢巻ゃ若い衆達で
 広いお庭も白波渡る 如来様までお覗きなさる 覗きなさるな御仏様よ
 今日はお盆の十六日で 餓鬼の首さえゆるむじゃないか 今宵明くれば明日から地獄
 踊りましょうよ夜の明けるまで 踊り抜きましょ夜の明けるまで
・秋の空澄み馬さえ肥えて 広い田の面にゃ秋風渡る 今年ゃ豊年穂に穂が咲いて
 道の小草もお米が実る どこのどなたもお揃いなれば 手拍子そろえて踊ろじゃないか
 さあさ皆様踊りておくれ
・誰もどなたもはよ出ちゃ来ぬか 足もだるかろ手もだるかろが 今宵や踊りは供養の踊り
 供養なりゃこそしっかりしゃんと踊れ 踊りゃ輪になれ片輪にゃなるなされ
・今宵や踊りは伊達ではないぞ 先祖・祖先のお供養の踊り 一つ手を振りゃ千部の供養
 二つ手を振りゃ万部の供養 太鼓打て打て空まで響け 踊るお方はお囃子頼む
 老いも若いもどなたも様も しばし間は踊りておくれ

3、文句の枕
・やれ嬉しや一輪ができた できたところでこの次の声 しばししばらく文句にかかる
 誰もどなたもよく聞きなされ そこで説き出す口説きの文句 何がよいかえ踊り子様よ
 あれよこれよと探しちゃみたが 慣れぬ私にゃ見つかりませぬ 早く出て来いよいよな文句
 やっとでました文句の一つ しばし間は理と乗せましょな
・誰もどなたもお揃いなれば じなしゅ数々述べましょよりも 何か一つは理と乗せましょか
 あれよこれよと探しちゃみたが 田舎育ちで見つかりませぬ 早く出て来いよいよな文句
 やっと出ました文句の一つ 文句違いや仮名間違いは 平にその儀はお許しなされ
・わしが出しますヤブから笹を つけておくれよ短冊を
 唄の文句はゆんべこそ習うた 粋な文句は知らねども
 忘れ残りの一節 二節 切れたそのときゃごめんなれ

4、つなぎ文句
・よんべ山香の踊りこ見たら おうこかたげち鎌腰ゅせえち 踊る片手じゃ稗餅こぶる
 こぶる稗餅ゃぼろぼろあゆる あゆる稗餅ゃいやりが運ぶ 運ぶいやりこ達者ないやり
 色は黒うてもいやりのように いつも働くよい妻欲しや 嫁を貰うなら山香の娘
 色は黒いが立派なものよ 親にゃ孝行 夫にゃ貞女 隣近所の付き合い上手
 家畜飼うのが大変好きで 仕事間にゃ牛飼いまする それで今では山香の牛は
 世間評判の牛となる 嫁を貰うなら山香の娘 家畜飼うなら山香の牛を
・よんべ山家の踊りこ見たら おうこかたげち鎌腰ゅせえち 踊る片手じゃ稗餅こぶる
 こぶる稗餅ゃぱらぱらあゆる あゆる稗餅ゃいやりが運ぶ いやりゃ何する雪ん下覚悟
・杵築山田の踊りを見たら おうこかついで鎌腰さいて 踊る片手に稗餅かじる
 かじる稗餅ゃぱらぱらあゆる あゆる稗餅ゃいやりが運ぶ 運ぶいやりは踏み殺された
・日出の山家の踊りを見たら おうこかついで鎌腰さいて 踊る片手に稗餅かじる
・盆の十六日おばんかて行たら 上がれお茶飲めやせうま食わんか 茄子切りかけ不老の煮しめ
・一で神明矢口の渡し 二つ舟屋の頓兵衛こそは 三つみのせの六郎丸よ
 四つ吉宗台を失くす 五つ稲荷の社の中に 六つ娘子お舟が心
 七つ難なく若君様よ 八つ矢口の渡しへ参れ 漕いで九つこの川底に
 沈み給いし兄嫁様よ 十でとんしゅう菩提の谷よ
・魚津荒町糸屋の娘 姉と妹に紫着せて どちらが姉やらさて妹やら
 姉が朝顔妹が牡丹 妹欲しさに願かけまして 一に京都の大日如来
 二に新潟の白山様よ 三に讃岐の金比羅様よ 四に信濃の善光寺様よ
 五つ出雲の緑神様よ 六つ村中がお天道様よ 七つ成田の御不動様よ
 八つ八幡の八幡様よ 九つ高野の弘法大師 十で所の氏神様よ
 これだけかけたる願かけなれど とても叶わぬその時にはと 背戸の泉水身を投げ捨てて
 三十五ひろの大蛇となりて 鱗逆立ち角振り回し 姉が妹を取りつくろうた
・家の娘は良い器量の娘 背戸の小川で青菜を洗う そこへ旦那が馬乗り通り
 この娘よい娘じゃよい器量の娘よ ちょいとでかけりゃ妻にもするが
 なりが小そうて妻にもできず そこで娘さんの言うこと聞けば お前さ旦那さん何云わしゃんす
 物の譬えで申そうならば 山の中にも大山小山 山が小さいとて担がりゃせまい
 石の中にも大石小石 石が小さいとて歯が立つものか 川の中にも大川小川
 川が小さいとて手じゃ止められぬ 針の中にも大針小針 針が小さいとて呑まれもせまい
 橋の中にも大橋小橋 橋が小そうても人通りゃでかい 鳥の中にも大鳥小鳥
 鳥が小そうても天立ち登る そこで旦那が理屈に困りゃ 立てりや芍薬座れば牡丹
 五月野に咲く姫百合の花 御縁あるなら又会いましょう
・娘十七八ゃ嫁入り盛り 箪笥長持ちはさみ箱 これほど持たせて遣るからは
 二度と再び戻るじゃないと 言えば娘は物言いかける これさ旦那さん何言わしゃんす
 物の喩えで申そうならば 東曇れば空とやら 西が曇れば風とやら
 南曇れば雨とやら 北が曇れば雪とやら 千石船さえ出船のときは
 まともなれども早や出て戻る まして私は花嫁じゃもの ご縁なければ戻るもします
・生まれ山国育ちは中津 命捨て場は博多町
 博多町をば広いとおっしゃる 帯の幅ほどない町を
 帯にゃ短いたすきにゃ長い お伊勢編み笠の緒にこそよかろ
 お伊勢編み笠をこき上げて被りゃ 少しお顔を覗いてみたい
 見ても見厭かぬ鏡と親は まして見たいのは忍び妻
 忍び妻さん夜は何時か 忍びゃ九つ夜は今七つ
 七つ八つから櫓を押し習うて 様を抱く道ゃわしゃまだ知らぬ
 様を抱くにも抱きようがござる 左手枕 右手で締める
 締めてよければわしゅ締め殺せ 親に頓死と言うておきなされ
 親にゃ頓死と言うてもおこうが 他人は頓死と思いはせぬぞ
 思うてみたとて色には出すな お前若いからすぐ色に出る
 色にゃ迷わぬ姿にゃ惚れぬ わしはお前の気に惚れました
 惚れたほの字が真実ならば 消してたもれや私の胸を
 胸にゃ千把の火を焚くけれど 煙あげねば他所の氏は知らぬ
 ヤレ知るまい二人の仲は 硯かけごの筆のみぞ知る
 筆と硯ほど染んだる中も 人が水差しゃ又薄くなる
 薄くなってもまた磨りゃ濁る そばに寝ていりゃなおさら濁る
 そばに寝ていりゃこっちを向けと 朝の別れを何としたものか
 何としたやらこの四五日は 生木筏か気が浮きませぬ
 生木筏で何の気が浮こうぞ 様が浮かせぬ気持ちじゃものを
 様は切る気じゃわしゃ切れぬ気じゃ 割って見せたいこの腹の中
 腹の立つときゃこの子を見やれ 仲のよいとき出来た子じゃないか
 仲がよいとて人目にゃ立つな 人目多けりゃ浮名が立つよ
 浮名立つなら立たせておきゃれ 人の噂も二月三月
 三月四月は袖でも隠す もはや七月隠されませぬ
 隠しゃ罪になる懺悔すりゃ消ゆる

5、踊りの切替前
・あまり何々が続いたほどに 誰もどなたも飽いたようにゃ見ゆる 誰もどなたもこの先頃で
 覚悟よければ切り替えまする 誰もどなたもお覚悟なされ 覚悟よければこの口限り
・あまり速いのが続いたほどに 踊る皆さんだんだんご苦労 誰もどなたも切り替えましょか
 覚悟よければこの先頃で ヤーレそうとも切り替えまする 覚悟よければこの次の句で
・あまり続けばみなさん厭いた 厭いたところでしな替えましょか 踊るお方よお覚悟なされ
 太鼓打つ方お覚悟なされ 覚悟よければこの句が限り
・誰もどなたも厭いたよに見ゆる 飽いたところで切り替えましょか やれそうともお覚悟なされ
 覚悟よければこの先頃で 何に替えよか何やりましょか 村の若い衆の意見を聞けば
 今日び流行の何々をやろえ それじゃ皆さんこの次の句で やれそうとも切り替えまする
 いやさ皆さん覚悟はよいか 覚悟よければこの口限り
・あまり長いのが続いたほどに 踊る皆さんだんだんご苦労 ここら辺りで切り替えましょか
 誰もどなたもお覚悟なされ 覚悟よければこの口限り
・踊る皆さんこの先の句で 品を替えましょお覚悟なされ 覚悟よければこの次の句で
 品を替えますすっぱりこんと替える

6、踊りの切替後
・替えた替えたじゃ何々に替えた 誰もどなたもお手振り返せ しばし間は何々でせろな
 今日び流行の何々でやろな そこで皆さん願いがござる 踊る皆さん囃子を頼む
 囃子なければ口説かれませぬ
・替えた替えたよ品替えました しばし間はゆるゆるやろな 一つ手を振りゃ千部の供養
 二つ手を振りゃ万部の供養 踊る皆さんお手振りなされ 踊りゃゆるゆるしなよく頼む
・何々踊りはのろまな踊り のろうてのどかで品よい踊り 品はよけれど難しゅござる
 踊る皆さん揃えてござれ 太鼓打つ人お頼み申す やれ嬉や踊りが揃うた
・替えた替えたよ何々に替えた 何々踊りは威勢な踊り あまり速けりゃお尻が回る
 足もだゆかろ手もだゆかろが 今宵や踊りは伊達ではないぞ 先祖・祖先の供養の踊り
 一つ手を振りゃ千部のお供養 二つ手を振りゃ万部のお供養 しばし間はお手振りなされ
・やろなやりましょな何々やろな どうで踊りは何々でなけりゃ 一重二重の輪が立ちませぬ
 あまり遅けりゃ子供衆ゃひやけ しばし間は速いがよかろ

7、音頭の交替前
・声が出ませぬ蚊の声ほども まだもやりたやこの先ゃ長い 長いけれども蚊の鳴く如く
 声が出ませぬしばらくしばし 音頭切らしちゃそれこそすまぬ そこで皆様お頼み申す
 しばし間の声継ぎゅ頼む やれ嬉しや太夫さんが見えた 誰もどなたもお覚悟なされ
 覚悟よければこの声さらば
まだもこの先読みたいけれど 声が出ませぬ蚊の鳴くごとく やあれそうとも声継ぎゅ頼む
 いやさそうとも声継ぎゅ頼む やあれ嬉しや太夫さんが見えた 見えた太夫さんに渡すが花よ
 いやれそじゃそじゃお覚悟なされ 覚悟よければこの声さらば
まだもこの先ゃ千尋あれど 後にゃ太夫さんがつめかけておる 見えた音頭さんにゃ渡すが道よ
 誰もどなたもお覚悟なされ 覚悟なさればこの口限り
まだもこの先読みたいけれど 見えた見えたよ太夫さんが見えた 見えた太夫さんにゃ唐傘渡そ
 渡しますぞえこの先の句で 渡しまするぞこの口限り

8、音頭の交替後
・じわっと受け取る先様お上手 先の太夫さん京都な江戸な 一で声よい二で節がよい
 三で音頭の調子といわず 四で気楽にお口説きなさる 五でご評判山より高い
 六つ昔の三太夫の声に 勝りゃするともひけ取りませぬ 七つ難なく流した後に
 わしを見たよなごく下手者が 音頭切らしたその時こそは 先の太夫さんに助太刀頼む
 わしの音頭で合うかは知らぬ 合うか合わぬか合わせちゃみましょ 合えば義経千本桜
 合わにゃ高野の石堂丸よ 合わぬところは囃子で頼む 万に一つも合うたるならば
 枯木花じゃと褒めくだしゃんせ 枯木花でも咲いたときゃ見事 咲くか咲かぬか咲かせちゃみましょ
・貰うた貰うたよからかさ柄杓 貰うにゃ貰うたが合うかは知らぬ 合えばそれよし合わぬとあらば
 そこらここらの姉さん方の 袖や袂や絵巻の端に 隠し隠されご赦免なされ
 わしが見たよな田舎のチャボが 四角四面の櫓の上で 音頭とるとはおおそれながら
 長の月日の貧苦の世話に 唄も文句もみな打ち忘れ 忘れ残りのそのあらましを
 しばし間は口説いちゃみよか
・貰いましたじゃ受け取りました わしの様なる若輩者が 音頭取るのもおおそれながら
 まずは一声理と乗せましょか 何がよいかと探しちゃみたが 慣れぬ私にゃ見つかりませぬ
 はやく出て来いよいよな文句 文句出なけりゃこの場が切れる この場切れては皆様困る
 困りますればご先生にゃ返す
・先の太夫さんよ長々ご苦労 わしが貰うたよ傘貰うた 傘は貰うたが行こか知らぬ
 行けばばそれよし行かぬとあらば 誰もどなたも囃子で頼む 囃子一番音頭が二番
 囃子なければ口説かれませぬ 囃子つけても行かないときは 袖や袂にお隠しなされ
・貰いましたよ受け取りました アラ貰うたよ唐傘柄杓 貰うにゃ貰うたが行こかは知らぬ
 行けばそれよし行かぬがままよ 行かにゃ高野の石堂丸と 行けば義経千本桜
 わしが文句で合うかは知らぬ 合えばそれよし合わぬがままよ 離れ駒じゃと飛ばしちゃみよか
 離れ駒ならよく飛びましょが わしの口説で飛ばないときは そこらここらの姉さま方の
 袖や袂や絵巻の端に 隠し隠されご赦免なされ じなし数々延べましょよりも
 ここらあたりで何やりましょか 流行る口説も様々あれど 長い夏中の忙しさゆえに
 唄も文句もみなこき忘れ 忘れ残りのそのあらましを 口説きますぞえしばしの間
 それじゃ皆さんお手振りゅ頼む
・貰うた貰うたよ唐傘貰うた わしの口説は二三が四五里 四五里奥山 松の木ゃ緑

9、景品配り
・いやさ嬉しや景物そうな 誰もどなたも早う出ちゃ踊れ いやさよいかな用意ができた
 しばし間どまお手振りなされ さても嬉しや景物そうな いやさどなたも早う出ちゃおくれ
 いやさそうかなまだまだだめか やれ嬉しやもうすぐかいな 配りますぞえどなたも様も
 急ぎなされや輪に加たらんせ

10、文句間違い・節間違いの後
・違うた違うたよこりゃまた違うた 誰もどなたもおごめんなされ


11、はね前に
・もうまそろそろ皆様方よ 名残つきねど時間となりぬ さぞや皆様お疲れ様よ
 高きこれより御礼申す 又の機会のあるその日まで しばし間はお別れ申す
 誰もどなたもこの先頃で 名残尽きねどお開きとする 覚悟よいかえ踊り子さんよ
 覚悟よければこの口限り
・名残つきねど皆様方よ はよも時間と相なりました 誰もどなたもお疲れ様よ
 名残つきねどまた来年の この日この場でまた逢いましょよ 今宵一夜の御供養の踊り
 さらばこれにてお暇申す 覚悟よければこの次の声 覚悟よければお開きとする
東西南北受け取りました みんなどなたも願いがござる わしの願いは外ではないが
 もはや今宵も夜更けでござる 
あまり長いはこの家にゃお邪魔 この家ご亭主にお暇を貰うて
 わが家わが家と帰ろじゃないか おおきにご退屈お邪魔になりた 坪の掃除もできずに帰る
 坪の掃除はご家内様に 
明日の早朝にゃよろしく頼む みんなどなたもお暇乞うて
 暗い夜道は気を付けなされ それじゃやめましょこの次の句で 誰もどなたもご苦労でした

そもそも都の傍らに るりしと申せし女人あり 世継ぎに男子を儲けしが
時をも嫌わで娑婆を立つ 死すれば野原に送り捨て 夜半の煙となりぬれば
七日七日が七七日 三十五日も打ち過ぎて 四十九日にあたる日は
あまりにわが子の可愛さに 明日は花園寺参り 寺の小縁に腰をかけ
つくづく花を眺むれば 開けし花は散りもせず 蕾の花の散るを見て
もしや我が子もあのごとし
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏

一つや二つや三つや四つ 十にも足らぬ幼児が 一度娑婆に生まれ来て
綾や錦を身にまとい 死んで冥土に行く時は 綾や錦を脱ぎ捨てて
京帷子に一重帯 頭に晒で頬被り 手ぬき脛あて足袋 裸足
紙緒の草履を足に履き さんや袋を首に掛け 糸針串や数珠を入れ
路銀と致す六文を 野辺まで路銀は多けれど 野辺から先は只一人
死出の山路を行く時は 後見るとても連れもなし 先見るとても伽もなし
声聞くとても時鳥 声聞くとても谷の水 三途の川や死出の山
麻の杖にと縋りつつ あの世の関となりぬれば 閻魔の前で帳調べ
これこれ幼児 七つ子よ われには三つの咎がある 一つの罪と申するは
親の対内 九の月 これが一つの罪咎よ 二つの罪と申するは
親も昼寝の疲れにて 眠気がさしても小言云い 乳首咥えて胸叩き
これが二つの罪なるぞ 三つの罪と申するは 親より先立つ不孝者
これが三つの罪咎よ 地獄じゃとても遣りゃならぬ 極楽とてもそりゃならぬ
賽の河原の地蔵尊 この子をそちに頼むぞよ 賽の河原の務めには
小石を拾い塔を積む 一重積んでは父のため 二重積んでは母のため
三重積んでは故郷の 兄弟わが身と回向する 昼はそうして遊べども
日の暮れ合いのその頃に 地獄の鬼が現れて 鉄棒携え牙を剥き
鬼ほど邪険なものはない 積んだ塔をば突き崩し 又積め積めと急きたてる
わっと泣き出すその声は この世の声とはこと変わり 悲しく骨身を砕くなり
われら罪無く思うかや われらの父母娑婆にあり 追善供養はそこそこに
只明け暮れる嘆きには 惨や可愛や愛しやと 母の嘆きが汝らの
苦言を受くるものとなる 鉄の棒挿し追い回す 泣く泣く寝ぬるそのために
木の根や石に躓きて 手足は血潮に染まりつつ その時峠の地蔵尊
これこれ幼な児 七つ子よ 汝が父母娑婆にあり 娑婆と冥土は程遠し
われを冥土の父母と 思うて頼め七つ子よ にくにくじいの御肌へ
縋らせ給う有難や 未だ歩まぬ幼な児を 抱き抱えて撫でさすり
たびの千草を与えつつ 南無や延命地蔵尊 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏

南無阿弥陀 南無阿弥陀
賽の河原と申せしは 娑婆と冥土の境なり 一つや二つや三つや四つ
十よりうちの幼子が 賽の河原に集まりて 紅葉のようなる手をもちて
真砂を拾うて塔を積む 一条積んでは父のため 二条積んでは母のため
三条積んでは 教師兄弟わがためぞ もはや日暮れとなりぬれば
地獄の鬼が現れて 積んだる塔を突き崩す 西に向いては母恋し
東に向いては父恋し 恋し恋しと呼ぶ声が 谷の木霊に響かれて
が呼ぶかと心得て 谷の木霊に来てみれば 父という字はさらになし
母という字があらばこそ あら不思議やここにまた 地蔵菩薩が現れて
子供ら何を悲しむか そなたの父母娑婆に在り 冥土の父母われぞかし
一つ所に呼び集め 衣の袖を振り着せて 遍照あれよと回向する
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀 南無阿弥陀仏

帰命頂礼 天竺の 頻婆裟羅王と申せしが 弘誓の御船を浮かせ給う
船は白金 櫓は黄金 六字の御名号の帆をあげて 地蔵菩薩が船頭する
船は西へと急がれる 西は西方の弥陀如来 弥陀のお浄土へ着きにけり
南無弥大慈悲の観世音
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏

帰命頂礼遍照尊
宝亀五年の水無月に 玉も寄るちょう讃岐方 屏風ヶ浦に誕生し
御歳七つのその年に 衆生のために身を捨てて 五つの岳に立つ雲の
立つる近いぞ頼もしや ついにすなわち延暦の 末の年なる五月より
藤原氏のかのうらと 唐船に乗り終えて 印を残す一本の
松の光を世に広く 広め給える宗旨をば 真言宗とぞ名付けたる
真言宗のあんじんは 上根下根の隔てなく 梵生不二と定まれど
下根に示す遺業には 偏に光明真言を 行往座臥に唱うれば
しゅくしょういつしか消え果てて 往生浄土定まりぬ 不転肉親成仏の
身は有明の苔の下 誓いは竜華の開くまで にん土を照らす遍照尊
仰げばいよいよ高野山 雲の上人しずのおも 結ぶ縁の蔦蔓
縋りて上がる嬉しさよ 昔国中大日照り 野山の草木みな枯れぬ
その時大師勅を受け 神仙園に雨乞いし 甘露の雨を降らしては
五穀の種を結ばしめ 国の憂いを救いたる 功は今に隠れなし
わが日の本のひとぐさに 文化の花を咲かせんと 困苦のしんせつ四句のげを
国字に綴る短歌 色は匂えど散りぬるを わがよ誰ぞ常ならん
有為の奥山今日越えて 浅き夢見し酔いもせず いかなる無知の幼な児も
習うに易き筆の跡 されどもそうじの文字なれば 知れば知るほど意味深し
僅かに四十七字にて 百字に通ずる便利をも 思えば万国天が下
御恩を受けざる人もなし なおも誓いのその中に 五国豊じゅ富たつとき
家運長久智慧愛嬌 息災延命かついさん 殊に見る目も浅ましき
業病難病受けし身は 八十八のゆいせきに 寄せて利益を為し給う
悪業深きわれわれは 繋がぬ沖の捨て小舟 生死の苦界果てもなく
誰を頼りの綱手縄 ここにさんじの菩薩あり ぐせいの舟に櫓櫂とり
助け給える御慈悲の 不思議は世々に新たなり
南無大師遍照尊 南無大師遍照尊 南無大師遍照尊

帰命頂礼釈黒谷の 円光大師の教えには 人間僅か五十年
花に譬えば朝顔の 露より脆き身を持ちて 何故に後生を願わぬぞ
たとえ浮世に長らえて 楽しむ心に暮らすとも 老いも若きも妻も子も
後れ先立つ世の習い 花も紅葉も一盛り 思えばわれらも一盛り
十や十五の蕾花 十九二十の花盛り 所帯盛りの人々も
今宵枕を傾けて すぐに頓死をするもあり 朝なに笑いし幼な児も
暮れには煙となるもあり 憐れ儚きわれらかな 娑婆は日に日に遠ざかり
死するは年々近づきて 今日は他人を葬礼し 明日は我が身も図られず
これを思えば皆人よ 親兄弟も夫婦とも 先立つ人の追善に
念仏唱えて信ずべし あら有難や阿弥陀仏
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏

高熊四国霊験

奇妙頂礼遍照尊 現世我らを憐れみて 二世の誓願垂れ給う
殊に四国の霊場は 入唐求法の御時に 天竺釈迦の高僧より
釈尊遺跡は御八塔の 霊砂授かり御帰朝し 諸人結縁させんとて
納め御加持なし給う されば巡拝する人は 未来待たずに現世から
密厳華蔵の極楽に 参りましてぞ仏智をば ひらきなされし霊験の
実に霊験あらたにて 昭和二年の六月に 伝照愛石霊夢にて
榎本なる霊水を 薬しせよとのお告げあり 弘法大師の身心を
昭和二年の三月に 高野奥なる岩陰に 金剛定にぞ入り給う
金堅すでに絶ゆれども 遺音いよいよ新しく 今も昔も変わりなし
高熊山は極楽堂 東海より西の果て 津々や浦々至るまで
四季の眺めも色さめて 春は花咲きまた夏は 緑若草萌え出でて
秋は八千草咲き乱れ 冬は雪見の都山 なおも御山の頂に
四国修行の御時の 大師御姿そのままを 仰ぐもいとどありがたや
雨の降る日も風の夜も 雪の朝も厭わずに 麻の衣に網代笠
金剛錫杖を右につき 左御手に数珠を持ち 我らにしめす偉業には
一重光明真言を 行住坐臥に唱うれば 宿障いつしか消え果てて
往生浄土に定まれる 疑念放れて真心に 大師御袖にすがりなば
いかに宿世の業病も 危難諸共身にかえて 救い給わる御仏や
雨露の恵みぞありがたや

目連尊者

それ昔のその昔 目連尊者の母君が 死して冥途のその道で
八幡地獄に落ち至る そのとき亡者が浮かばれず 尼と坊主が皆寄りて
施餓鬼供養を読むけれど それでも亡者が浮かばれず 大衆大衆が皆寄りて
七月七日を盆として 踊りと云うことを企てる そのとき亡者が浮かびくる

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